『トゥルー・グリット』

『トゥルー・グリット』

原題:“True Grit” / 原作:チャールズ・ポーティス(ハヤカワ文庫NV・刊) / 監督&脚色:ジョエル・コーエンイーサン・コーエン / 製作:スコット・ルーディンジョエル・コーエンイーサン・コーエン / 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、ロバート・グラフ、デヴィッド・エリソン、ポール・シュウェイク、ミーガン・エリソン / 撮影監督:ロジャー・ディーキンス,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:ジェス・ゴンコール / 編集:ロデリック・ジェインズ(ジョエル・コーエンイーサン・コーエン) / 衣装:メアリー・ゾフレス / 音楽:カーター・バーウェル / 出演:ジェフ・ブリッジスマット・デイモンジョシュ・ブローリンバリー・ペッパーヘイリー・スタインフェルド、ブルース・グリーン、マイク・ワトソン、デイキン・マシューズ、ジャーラス・コンロイ、ポール・レイ、ドーナル・グリーソン、エリザベス・マーヴェル、レオン・ラッサム / 配給:Paramount Pictures Japan

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:松崎広幸 / PG12

第83回アカデミー賞作品・監督・脚色・主演男優賞・助演女優賞・撮影・美術・衣裳・音響編集・音響効果候補作品

2011年3月18日日本公開

公式サイト : http://www.truegrit.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/04/07)



[粗筋]

 牧場主フランク・ロスが雇い人のトム・チェイニー(ジョシュ・ブローリン)に殺害された。場所は、アーカンソー州フォートスミスの酒場の前。誰も追う者がいなかったために、チェイニーは易々と逃げおおせた、と思われた。

 遺体と遺品の引取にフォートスミスを訪れたのは、ロスの14歳の娘マティ(ヘイリー・スタインフェルド)。彼女はある目的を胸に秘め、数日にわたって街に留まった。

 保安官たちは、人手不足を理由にチェイニーを追跡する意志を見せていない。そこでマティは手を尽くして資金や足を調達し、自ら連邦保安官を雇って、復讐を果たすことを心に決めたのだ。

 マティが協力を求めたのは、大酒飲みだが追跡者として優れる連邦保安官ルースター・コグバーン(ジェフ・ブリッジス)。マティが報酬を支払う、という話を最初は鵜呑みにせず、前金を受け取ったあとはひとりで出発しようとしたが、その行動に勘づいたマティはすぐさまあとを追い、はるばるテキサス州から別の罪状が理由でチェイニーを追ってきたテキサス・レンジャーのラビーフ(マット・デイモン)と同道していたコグバーンに合流する。

 チェイニーは近隣で強盗を繰り返しているラッキー・ネッド・ペッパー(バリー・ペッパー)の一味に加わった、という情報に基づき、コグバーンが目指したのは、ネッドが根城としている居留地の山岳。かくして、屈強の男ふたりと果敢な少女ひとりの奇妙な一団が、荒野へと足を踏み入れた――

[感想]

 コーエン兄弟は、ユニークな会話と奇妙にひねったプロット、決して血は飛び散らないがショックを齎す描写など、非常に作家性の強いタイプのクリエイターである。だからこそ従前から固定ファンがついており、ミニシアター系列で根強い人気を誇っている一方で、高い興収を上げる作品を提供した、という印象はない。作風のアクが強いために苦手意識を抱く観客もあれば、解りやすさ、受け入れやすさといった大衆に受け入れられやすい要素が乏しいことも一因に掲げられるだろう。端的に表現すれば、マニアックなのだ。

 だが、そのイメージで本篇に臨むと戸惑いを禁じ得ないだろう。この作品の語り口は、これまでのコーエン作品と比較すると間違いなく親しみやすい。

 クラシカルな音楽を多用した表現に、西部劇の王道たる復讐のための追跡劇という基本プロットもさることながら、本篇の親しみやすい雰囲気に最も貢献しているのは、語り手にして主人公であるマティ・ロスという少女像だ。

 彼女の振る舞いは、西部劇であること以前に、オーソドックスな冒険物のそれを彷彿とさせる。冒頭の悲劇から、旅に赴くための準備における果敢な言動、同行者の諍いや初めて人の死を目の当たりにした衝撃など、旅の過程で遭遇する事件の数々。そうした展開のひとつひとつが、観る者を昂揚させ、緊張を齎す。ロード・ムービーというより、まさに冒険物語の面白さが本篇には漲っているのだ。

 そして、その主人公に相応しいヒロインの造型が、作品の肝であり、観客の気持ちを吸い付ける最大のポイントとなっている。暴力の描き方に容赦はなく、いささか汚い言葉も用いられているためにPG12というレーティングが設定されてはいるが、コーエン兄弟はおろか西部劇というジャンルに馴染みのない若年層でも、本篇は受け入れやすいのではなかろうか。

 主人公マティを演じたヘイリー・スタインフェルドはオーディションによって発掘された、これが劇場用映画初出演の新人だそうだが、素晴らしいほど堂々たる名演ぶりだ。コーエン兄弟としては親しみやすいプロットとなっている一方で、随所に彼ららしいアクのある会話の応酬が繰り広げられるが、そうした場面で見事にヴェテランや曲者俳優たちと渡り合っている。彼女だからこそ、このコーエン兄弟らしからぬ親しみやすさが実現されたのだろう。

 だが、その表面的な馴染みやすさに対して、本篇のストーリー展開をよくよく手繰ってみると、なかなかにひねりが強く、先読みの難しい組み立てになっていることに気づくはずだ。定石通りの勧善懲悪とは行かず、終盤では意表をつく変化を幾度も繰り返したうえ、結末は必ずしもハッピー・エンドではない。冒険物語らしい空気と手触りに、決まり切った結末を想像していると、思いがけない成り行きに戸惑うのではなかろうか。

 だがその一方で、その結末に不思議な清々しさが漂っているのも事実だ。客観的に、彼らが得たものは決して多くないはずだが、単純明快なハッピー・エンドでは描き出せない独特の達成感が、本篇を極めて印象深いものにしている。

 本篇はかつて『勇気ある追跡』の邦題で公開されたジョン・ウェイン主演の映画を、原作に近い形でリメイクしたものだという。時間が取れなかったために、映画も原作も予め鑑賞することは出来なかったのだが、本篇を観る限り、この原作にコーエン兄弟が惹かれ、彼らの手によってふたたび映画化されたのは必然的だったように思う。そこに、ヘイリー・スタインフェルドとの奇跡的な出逢いや、オスカー・ウィナーやノミニーを中心とする名優陣が加わることで、完璧に近い作品が誕生した。個人的な好みで言えば、コーエン兄弟作品としては『ノーカントリー』や『バーバー』のほうがいいと思うし、西部劇としては『3時10分、決断のとき』のほうが圧巻だったと思うが、それでも本篇が幅広い層にアピールする傑作であることは疑わない。

関連作品:

ノーカントリー

バーン・アフター・リーディング

クレイジー・ハート

トロン:レガシー

ヒア アフター

ウォール・ストリート

7つの贈り物

許されざる者

3時10分、決断のとき

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