『トレインスポッティング』

トレインスポッティング [DVD]

原題:“Trainspotting” / 原作:アーヴィン・ウェルシュ / 監督:ダニー・ボイル / 脚本:ジョン・ホッジ / 製作:アンドリュー・マクドナルド / 撮影監督:ブライアン・テュファーノ,B.S.C. / プロダクション・デザイナー:ケイヴ・クイン / 編集:マサヒロ・ヒラクボ / 衣装:レイチェル・フレミング / キャスティング:ゲイル・スティーヴンス、アンディ・プライアー / 出演:ユアン・マクレガーユエン・ブレムナージョニー・リー・ミラーロバート・カーライルケリー・マクドナルド、ピーター・ミュラン、ケヴィン・マクキッド / 配給:Asmik×PARCO

1996年イギリス作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:石田泰子 / R指定

1996年11月30日日本公開

2009年6月19日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

DVDにて初見(2010/05/23)



[粗筋]

 マーク・レントン(ユアン・マクレガー)は、ロンドンの下町にある“修道院長の館”と名付けた廃墟をねぐらにする仲間たちと共に、クスリ漬けの退廃した日々を送っている。

 だがこういう連中はときどき、思い出したように口走る――「ヤクはやめた」と。レントンも不意に思い立つと、準備を整え、最後の1発をキめて監禁室へ。肝心の最後の1発が見当たらなくなったり、ようやく工面したヤクをトイレに落としたりしたが、何とかレントンは一時的にクスリ断ちに成功する。

 しかしそうなると今度は性欲が暴走する。クラブで知り合ったクールな少女ダイアン(ケリー・マクドナルド)と急速に燃え上がり、彼女の部屋でベッドインを果たしたが、翌朝になって彼女が女子中学生と知り愕然とする。

 同じ頃、レントンの仲間たちも酔っ払った果てにそれぞれ失態を繰り広げていた。自分たちにはヘロインがないと駄目だ、と結論づけた彼らは、ふたたびクスリ漬けの世界に戻っていく。

 だが、ろくに働くことをしてこなかったレントンたちに蓄えなどなく、彼らは盗みに精を出した。金品は無論、それ自体打ってハイになれそうなものなら何でも身体に流しこむ。静脈も身体もボロボロになり、遂に仲間のひとりスパッド(ユエン・ブレムナー)が収監される事態に至って、レントンは本当にクスリと訣別しようとするが……

[感想]

スラムドッグ$ミリオネア』で晴れてアカデミー賞を獲得したダニー・ボイル監督だが、遡ること12年も前の本篇によって、既に好事家の注目を集め、映画界に大きな影響を及ぼしていた。

 破滅的なドラッグ・カルチャーを、拘りに満ちたサウンドトラックを用いたスピーディな語り口で躁的に描く、というタッチが知名度を得たのは間違いなく本篇がきっかけだろう。イギリスの頽廃的な暮らしを送る若者たちを描いた映画はほぼ似たようなタッチに変貌していったし、フィクションにおけるドラッグの扱いが多様化していったのも本篇を契機にしていると捉えられる。

 だがそういったこと以上に、『スラムドッグ〜』を経たいまの観点で鑑賞すると、ダニー・ボイルという映画監督にとっても本篇が決して逃れられない束縛になっていることが窺えて、非常に興味深い。

 たとえば、『スラムドッグ〜』では序盤、幼い主人公がスターのサイン欲しさに肥溜めに飛び込んでトイレを脱出する、という場面があるが、このシーンは本篇の序盤にて、落としたクスリを回収するために便器の中に飛び込むレントンの姿を彷彿とさせる。あちらは幻想でない分えげつなさが倍増しているが、だからこそ本篇を意識していることは察せられる。

 常に逆境にありながら、奇妙なポジティヴさが感じ取れる描写も、本篇を下敷きとしている印象がある。そして終点に一発逆転の“夢”を据えているのも、本篇、『ミリオンズ』、『スラムドッグ〜』とダニー・ボイル監督が間隔をおいて追っている主題と見える。そのフィクションならではの逆転劇を如何に自然に、爽快に描き出すかがダニー・ボイル監督の長い目標となっていて、それが『スラムドッグ〜』で大きく結実したように捉えられる。本篇はそこに至る起点、と位置づけられるのだ。

 だがそういう見方に従って、他に知識もなく『スラムドッグ〜』から遡って本篇を鑑賞すると、度を超えたモラルの逸脱ぶりに眉をひそめるかも知れない。『スラムドッグ〜』には生き延びるため、という動かしがたい理由が存在したが、頽廃的に享楽的に生きているレントンたちの行動には、『スラムドッグ〜』ほどの切迫感もなく、共感もしづらい。

 しかし、それでもあからさまに袋小路に入り込みつつあった流れを、劇的に断ち切るラストシーンの爽快感は見事だ。それまで敢えて躁的に描いていたからこそ抜け出しづらかった閉塞感が、ほんの軽い一撃で粉砕される、このカタルシス。救いようもない話だからこそ成立する結末の魅力は唯一無二であり、やはり『スラムドッグ〜』とは種類の異なる“絶頂”を齎してくれることは間違いない。

 やはりこれはこれで、時代を象徴し、映画史に強烈なインパクトを残した傑作である。似たようなものを撮ろうとしたところで、本篇のような余韻を齎すことはきっと相当に難しい。

 それにしてもこの作品、驚かされるのはケリー・マクドナルドである。撮影当時そろそろ20代に差しかかる頃だったはずだが、クラブでのドレス姿は大人の色気をまとい始めた年頃に見え、制服姿になるともはや女子中学生にしか見えない。……逆にこの出演で、色々困ったこともあったんではないか、と邪推したくなるほどだった。

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コメント

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