『ヒルズ・ハブ・アイズ』

ヒルズ・ハブ・アイズ [DVD]

原題:“The Hills Have Eyes” / 監督:アレクサンドル・アジャ / オリジナル脚本:ウェス・クレイヴン / 脚本:アレクサンドル・アジャ、グレゴリー・ルヴァスール / 製作:ウェス・クレイヴン、ピーター・ロック、マリアンヌ・マッダレーナ / 製作総指揮:フランク・ヒルデブランド / 撮影監督:マキシム・アレクサンドル,A.I.C. / プロダクション・デザイナー:ジョセフ・ネメック三世 / 美術監督:グレゴリー・ルヴァスール / 編集:バクスター / 衣装:ダニー・グリッカー / 視覚効果スーパーヴァイザー:ジェイミソン・ゴーイ / 特殊メイク:グレゴリー・ニコテロ、ハワード・バーガー / キャスティング:マーク・ベネット / 音楽スーパーヴァィザー:デヴィッド・フランコ / 音楽:トム&アンディ / 出演:アーロン・スタンフォード、キャスリーン・クインラン、ヴィネッサ・ショウ、エミリー・デ・レイヴィン、ダン・バート、ロバート・ジョイ、テッド・レヴィントム・バウアー、ビリー・ドラゴ、デズモンド・アスキュー、エズラ・バジントン、マイケル・ベイリー・スミス、ラウラ・オルティス、グレゴリー・ニコテロ / 配給:Presidio / 映像ソフト発売元:Amuse Soft Entertainment

2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:栗原とみ子 / R-18

2007年9月26日日本公開

2008年4月25日DVD日本盤発売 [amazon]

公式サイト : http://thehillshaveeyes.jp/ ※閉鎖済

DVDにて初見(2010/04/22)



[粗筋]

 ボブ・カーター(テッド・レヴィン)とエセル(キャスリーン・クインラン)の銀婚式を記念して、家族総出でキャンピング・カーに乗っての旅行に出かけた。長女リン(ヴァネッサ・ショウ)の夫ダグ(アーロン・スタンフォード)や長男のボビー(ダン・バート)はあまり乗り気ではないが、家族のために付き合っている格好だった。

 携帯電話の電話が一切届かない閑散とした砂漠のなかにあるガソリンスタンドに停車した一同は、スタンドの従業員(トム・バウアー)から近道を教えてもらい、進行方向を切り替える。だが間もなく、一家を乗せたトレーラーは事故を起こしてしまった。タイヤが破裂し、その勢いで道を外れ、岩に衝突してしまったのである。

 シャフトが曲がってしまい、その場で処置できなくなったことを確かめると、ボブはダグに徒歩で進行方向へと向かわせ、自分は道を教えたスタンドへと引き返し、救援を求めることにした。

 父親からあとを託されたボビーだったが、飼い犬のビューティーがキャンピング・カーから脱走したため、女性陣を残して探しに出かける。入り組んだ岩場に辿り着いたとき、ボビーの耳に聞こえたのは、犬の悲痛な鳴き声だった。声の聞こえた方へ向かったボビーは、愛犬の無惨な骸を発見する。泣きじゃくるボビーは、その直後、何者かに襲われて昏倒した……

 ……そしてカーター一家は、孤立無援の荒野で、悪夢のような一夜を迎える……

[感想]

 フランスにて製作した『ハイテンション』という作品が注目され、現在は『ピラニア』の3D版リメイクを製作中であるアレクサンドル・アジャ監督の、ハリウッド進出第1作である。

 ただし監督のオリジナルではなく、製作にクレジットされているウェス・クレイヴンの『サランドラ』(原題は同じ“Hills have eyes”)のリメイク、という位置づけである。しかし、このあとの『ミラーズ』がそうであったように、本篇も愛好家のあいだではオリジナルより評価する声が少なくないようだ。

 話としては『悪魔のいけにえ』が完成させた、あるグループが旅先の田舎で、理解を超えた人々、生物などの脅威に晒される、という定型を応用したものだが、恐怖の組み立て、残虐描写の趣向の豊かさが並大抵ではない。

 見渡す限りの砂漠、というこの類いのホラーでは珍しい舞台を選択しながら、地面の凹凸や夜の闇を利用して、死角から襲いかかるものの恐怖を醸成する、などというのは序の口で、わりとあとのほうまで正体を隠していることの多い殺人鬼たちがあっさり姿を見せ、常軌を逸した行動で恐怖を植え付けたかと思えば、謎めいた人影をちらつかせて不安と緊張感とを煽る。本篇は残酷描写自体はそれほど多くないのだが、観終わって背筋に冷えた余韻が残るのは、他の要素が生み出す恐怖のなせる技だ。

 しかし、本篇の最も優れた点は敵も味方も簡単には死なない、ということである。敵がかなり頑丈で、よほど致命的な一撃を与えるまでは安心させてくれないのはお馴染みの趣向だが、脅威に晒される側がなかなか死なないのは、意外と珍しい。最初に襲撃された人物は瀕死の状態になりながらも生き続け、別の人物は反撃に及び、倒されながらもなお立ち上がっていく。現実に、人間はただ刺されただけでは死なないものだし、まして守らなければならないものがあると、予想外の力を発揮するものである。本篇ではそういう“人間らしさ”を巧みに活かし、先の読めない緊迫感、面白さを演出している。

 中盤の緊張感、おぞましさが抜きん出ているので、結果はありがちでも、観終わったあとには満足感がある。無論、血を見るのも、暴力描写だけでも拒絶反応を起こすような人にはお勧めしないが、スラッシャーものを愛する人なら一度観る価値はあるはずだ。

 ……しかし、あとになって考えると、この作品に出て来るもので最も恐ろしいのは、犬だったような気もする。観ているあいだは気にならない、カタルシスさえ与えてくれるが、あっさりあんなことする犬って怖過ぎないか?

 もうひとつ。

 前述の通り、アジャ監督は現在『ピラニア』の3Dリメイクに着手している。ハリウッドで活動を始めてから3作目の長篇となるが――よく考えると、彼はハリウッドにおいて、リメイクばかり撮っている。

 本篇、そして『ミラーズ』が評価を得たからこその起用だろうが、さすがにそろそろオリジナルを手懸けてくれないものか、という気がする。緊張感や恐怖を演出する手管の巧みさ、盛り込まれたアイディアの切れ味を思えば、ホラー映画愛好家の度胆を抜く作品を仕上げてくれそうな予感があるのだが……

関連作品:

ミラーズ

ウェス・クレイヴン’s カースド

悪魔のいけにえ

テキサス・チェーンソー

テキサス・チェーンソー ビギニング

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