『グラン・ノーチェ! 最高の大晦日』

『グラン・ノーチェ! 最高の大晦日』本篇映像より引用。
『グラン・ノーチェ! 最高の大晦日』本篇映像より引用。

原題:“Mi Gran Noche” / 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア / 脚本:アレックス・デ・ラ・イグレシア、ホルヘ・ゲリカエチェバリア / 製作:エンリケ・セレソ / 製作総指揮:ガブリエル・アリアス=サルガド、アクセル・クシェヴェツキー / 撮影監督:アンヘル・アモロス / 美術監督:アルトゥーロ・ガルシア=ビアッフラ、ホセ・ルイス・アリッツアバラガ=アリ / 衣装:パオラ・トーレス / 編集:ドミンゴ・ゴンザレス / 音楽:ジョアン・ヴァレント / 出演:ラファエル、マリオ・カサス、ペポン・ニエト、ブランカ・スアレス、ウーゴ・シルヴァ、カルメン・マチ、ルイス・カレホ、カルロス・アレセス、エンリケ・ビリェン、サンティアゴ・セグーラ、ハイメ・オルドニェス、トマス・ポッツィ、カロリーナ・バング、アナ・ポルヴォローサ、ルイス・フェルナンデス、アントニオ・ヴェラスケス、テレレ・パヴェス、カルメン・ルイス、マルタ・カステロッテ
2015年スペイン作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?
2015年10月6日~11月3日 第15回ラテン・ビート映画祭にて上映
映像ソフト日本盤未発売
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/80092849
NETFLIXにて初見(2020/04/23)


[粗筋]
 2015年末、年越し特番の撮影は、大いに遅延していた。贅を尽くしたはいいが、スタッフや演者の足並みが揃わず、なんども撮り直しを重ねている。しかもスタジオは先ごろ、組合との交渉決裂により500人規模のリストラを発表、撮影所の周囲には抗議のデモが大挙して騒然たる有様となっていた。
 撮影中の事故でエキストラに欠員が生じ、ホセ(ペポン・ニエト)が急遽呼び出される。妹のマリア(トニ・アコスタ)から旅行中に母ロサ(カルメン・マチ)の面倒を見るよう頼まれるが、目下失業中で収入のないホセは、母を置いて出かけるよりほかなかった。
“ファイヤーマン”の大ヒットで一躍ティーンエイジャーのアイドルとなったアダン(マリオ・カサス)は本日の目玉のひとりだが、浮かれすぎて女性問題を多発させている。この夜もエージェントのペロッティ(トマス・ポッツィ)がようやく1件揉み消したばかりだというのに、同じ楽屋で既に危険な火遊びをしてしまっていた。
 そのアダンと目玉を争う立場のアルフォンソ(ラファエル)はいつも以上に気が立っている。どうしてもいちばんの見せ場を譲りたくないアルフォンソは、義理の息子でマネージャーを務めるユリ(カルロス・アレセス)に厳しく当たっていた。
 しかし、長年にわたって虐げられてきたユリは、義理の父に怨みを抱き、暗殺計画の手引をしていた。自作曲をことごとく没にされ繰り返し脅迫状を住所氏名入りで送りつけていたオスカル(ハイメ・オルドニェス)をスタジオに潜入させたのである。オスカルはエキストラに紛れ込み、好機を窺った。
 やけに関係がこじれた司会者のカップルに、仕事の先行きが不透明でやる気を失っているスイッチャーたち、様々な思惑が入り乱れて、撮影はいよいよ混沌とした様相を帯び始めた――


[感想]
 狂宴、というのはこういう奴を言うのだと思う。
 特定の主人公を置かず、同じ舞台で複数の人物の言動・思惑が交錯していく構成である。この“複数”が異常に多く入り乱れるので、ぼーっとしていると事態を把握するのも難しい。
 しかしひとりひとりの言動がいちいち極端で、観ていて退屈しない――どころか、気を抜く暇もない。次々と新しい人物が現れては、新しい騒動の種を蒔き、それが他のエピソードに緩やかな影響を与えていく。
 それにしても本篇、出てくる奴がことごとく独善的で身勝手だ。最たる者はアルフォンソだが、みんなほとんど自分の利益しか考えてない。人間なんて基本みんなそんなもんだろ、というシニカルな目線も籠めた、偽りのない欲望の描写が却って清々しく笑いを誘う。
 しかもその上で、教訓じみた要素をなんにも施していないのだからいっそ潔い。善人が得をするわけでもなく、かといって悪人がまるまる儲けをさらっていくわけでもない。多少は話がまとまったように思えるエピソードもあるが、全体に「ほんとにそれでいいのか?!」と問い詰めたくなるような展開ばかりだ。
 しかし、本篇の登場人物たちには少なくとも、事態を恨んだり悔やんだりしているような印象はない。大失敗を犯してヒドい目に遭ってる奴もいるが、ほとんどのひとびとは、彼らが望んだ展開であるか否かはさておき、派手な終幕にみんな吹っ飛ばされてしまう。
 作中で撮影が進む番組が実在しているのかフィクションなのかは不明だが、その内容、構成、出演するアーティストや楽曲、何もかもが如何にもラテン系のノリに彩られている。やたらと性に奔放な人間が多く、そこをしたたかに付け狙う女性がいれば、性懲りもなく失敗を繰り返す男がいる。そしてどちらも、自らの行為をまったく気に病んでない。そしてそれが全篇を覆う陽性の空気と馴染んでいる。このノリにうまく親しめないと終始、ただ騒々しく不愉快なだけだろうが、いったんツボに嵌まれば最後まで予測が出来ない楽しさと笑いに浸ることが出来る。
 同じ監督の先行作『スガラムルディの魔女』の感想でも同じようなことを書いてたが、ハチャメチャで明確なオチがなく、色々と大丈夫なのかお前ら、とツッコみたいところが残ってるのに、余韻がやたら爽快なのだ。こういうタイプの作品を撮れるひと、というのはいま世界中を探してもそうはいないだろう。
 日本にも支持者はいるようで、比較的映像ソフトでのリリースはされているし、映画祭やイベントで上映される機会はあるようだが、もっと知られてもいい映画監督だと思う。どこかの配給会社が頑張って劇場にかけてくれるといいのだが。ネット配信があるとは言い条、本篇はとりわけ不遇にすぎる。


関連作品:
刺さった男』/『スガラムルディの魔女
私が、生きる肌』/『トーク・トゥ・ハー』/『チェ 39歳 別れの手紙
スナッチ(2000)』/『Booth ブース』/『フロスト×ニクソン』/『夜は短し歩けよ乙女

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