新宿武蔵野館のロビーに展示された『ダニエル(2019)』映像を使用したイメージアート。
原題:“Daniel isn’t Real” / 原作:ブライアン・デリュー / 監督:アダム・エジプト・モーティマー / 脚本:ブライアン・デリュー、アダム・エジプト・モーティマー / 製作:ダニエル・ノア、ジョシュ・C・ウォーラー、リサ・ホウェイレン、イライジャ・ウッド / 製作総指揮:ティムール・ベクボスノフ、ジョーニー・チャン、カルヴィン・チュン、ステイシー・ジョーゲンセン、エマ・リー、エリサ・リーラス、マイケル・M・マクガイア、ピーター・ウォン / 撮影監督:ライル・ヴィンセント / プロダクション・デザイナー:カエト・マカネニー / 編集:ブレット・W・バックマン / 衣装:ベゴーニャ・ベルジュ / キャスティング:ダニエレ・オーフレロ、アンバー・ホーン / 音楽:Clark / 出演:マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガー、サッシャ・レイン、メアリー・スチュアート・マスターソン、ハンナ・マークス、チャック・イウジ / ACEピクチャーズ/スペクトルウィジョン製作 / 配給:flag
2019年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:種市譲二 / R15+
2021年2月5日日本公開
公式サイト : https://danielmovie.jp/
新宿武蔵野館にて初見(2021/2/9)
[粗筋]
ルークには幼い頃、親友がいた。近所で発生した強盗事件の現場を目の当たりにしたとき出会い、それ以来、いつも一緒にいた。しかしあるとき、ダニエルに「ママがスーパーマンになる」と唆され、ルークは薬を大量に混ぜたドリンクを母くれあゅメアリー・スチュアート・マスターソン)に飲ませてしまう。回復した母に諭されたルークは、ダニエルを人形の家に閉じこめるのだった。
やがて成長したダニエル(マイルズ・ロビンス)は、心理学を専攻する大学生となっていた。寮生活を送っていたが、母が心の病を重症化させていることに気づき、しばらく実家に戻ることを決める。
日に日に妄想を悪化させていく母の姿に、ルークは自分もまた狂気に踏み込んでいくのでは、という不安に襲われた。懇意にしているカウンセラーのブラウン(チャック・イウジ)から、かつての“想像上の友達”が助けになるのでは、と言われて、ルークは久々にその存在を思い出す。
或る夜、実家にいたルークが物音に気づいて部屋を出ると、母が血まみれで階下をうろついていた。いまにも自ら命を絶ちそうな不安定さを露わにする母に動揺しているとき、ルークは自分と同年代に成長しダニエル(パトリック・シュワルツェネッガー)を見る。ダニエルの助言に従い、荒技で説得を試みると、母はどうにか冷静さを取り戻した。
そうして再びルークは、ダニエルと常に寄り添う生活を始める。ダニエルは確かに、ルークにとって良きパートナーに思えた。彼のお陰で、ただすれ違うだけで終わるかも知れなかった女性と出会い親密な関係になることにも成功する。
にわかに開けてきたかに見えたルークの未来――しかし、ダニエルの助言は、次第に過激さを増していくのだった……
新宿武蔵野館のエレベーター扉にプリントされた『ダニエル(2019)』キーヴィジュアル。
[感想]
子供は時として、周囲に構ってくれる人間のいない寂しさを紛らわしたり、何らかの鬱屈を発散させるための相棒として、そこに存在しない人間を頭の中で生み出す。“想像上の友達”と呼ばれるこうした存在を子供が作る、という話はもうだいぶ世間に浸透し、フィクションでも時折登場するようになった。近年では、賞レースを賑わせた『ジョジョ・ラビット』にて、主人公が想像で作り出したヒトラーを友達にしていたのを思い出す。
本篇は、幼少時に親しんだ“想像上の友達”が蘇り、生活を侵蝕していくさまを描いている。他人には見えない、けれど主人公ルークにとっては確かにそこにいる存在が、最初は暗かったルークの毎日に光をもたらし、その一方でじわじわと狂気の領域へと誘っていく。“想像上の友達”という存在自体が心の内側に属する概念であるため、序盤から心理スリラーの趣がある作品だ。
だが本篇はそこに留まらない。途中から違和感のある描写が鏤められ、それがやがては衝撃的なクライマックスへと結実していく。どんなタイプの作品か、とはっきり説明してしまうと初見の興が削がれるので、どうにももどかしいが、恐らく素直なひとが鑑賞すると、かなり驚かされるはずだ。
本篇がどういう性質の映画なのか、実はかなり早い段階から描写が鏤められている。どこがそうなのか、ちょっとでも触れると種を明かす結果になりかねないので実に歯痒いが、この展開は決して唐突なものではなく、ずっと作品世界の中で筋を通している、という点は断言しておきたい。この作り手は決してただの趣味や酔狂でこんな組み立てをしていたわけではない。
そして、終盤の衝撃に至るに必要な雰囲気や感情を、メインを張るふたりの俳優が実に巧みに醸し出している。ルークを演じたマイルズ・ロビンスはその情緒不安定な佇まいを見事に演じているし、彼を常に揺り動かすダニエルに扮したパトリック・シュワルツェネッガーは、その美貌に生々しい鋭さを宿して、終始危険なムードをまとってみせる。この絶妙なコントラストが、作品の表面的なテーマと隠された趣向、いずれにも芯と説得力をもたらしている。
ただ個人的には、いくぶんトラブルが乏しく感じられることが惜しまれる。こうした主題、展開ならば、ルークが精神的に追い込まれていくまでにもっと様々な出来事があっていい。ルーク自身の素養や、表現的な伏線はあるにしても、決定的な事態に陥るまでの過程がいささか短く思える。
そして、大胆な趣向に対して、クライマックスが良くも悪くも素朴に感じられる。こちらも、きちんと伏線を用意しており、必然性も洒落っ気も豊かで印象は強いのだが、率直に言えば、もっと大胆に、派手にすることも出来たはずだ――実質、ルークとダニエルのふたりだけで語られる物語なので、このミニマムな見せ場が相応しい、とも言えるのだが、秘められた真実からするとやはりコンパクトに過ぎる。
だがトータルでは、モチーフを巧みに象徴する緻密な美術、暴力的だが青臭い切なさも宿した表現に光るものを感じさせる秀作だ。乱暴で、一種独りよがりとも言える締め括りだが、苦みと不思議な爽快感まで称えた不思議な余韻は、ちょっと他では味わえない。
関連作品:
『ヘルボーイ(2019)』/『アメイジング・スパイダーマン』
『エンゼル・ハート(1987)』/『アザーズ』/『永遠のこどもたち』/『ジョジョ・ラビット』
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