TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ロミオ+ジュリエット』上映当時の『午前十時の映画祭11』案内ポスター。
原題:“Romeo + Juliet” / 原作:ウィリアム・シェイクスピア / 監督:バズ・ラーマン / 脚本:クレイグ・ピアース、バズ・ラーマン / 製作:バズ・ラーマン、ガブリエラ・マルティネリ / 撮影監督:ドナルド・マカルパイン / プロダクション・デザイナー:キャサリン・マーティン / 編集:ジル・ビルコック / 衣装:キム・バレット / キャスティング:デヴィッド・ルービン / 音楽:マリウス・デ・ヴリーズ、ネリー・フーパー、クレイグ・アームストロング / 出演:レオナルド・ディカプリオ、クレア・デインズ、ジョン・レグイザモ、ハロルド・ペリノー、ピート・ポスルスウェイト、ポール・ソルヴィノ、ダイアン・ヴェノーラ、ブライアン・デネヒー、クリスティナ・ピックルズ、ポール・ラッド、ヴォンディ・カーティス=ホール、ダッシュ・ミホク、ジェシー・ブラッドフォード、ザック・オース、ジェイミー・ケネディ、ヴィンセント・ラレスカ、ミリアム・マーゴリーズ、M・エメット・ウォルシュ / 初公開時配給:20世紀フォックス / 映像ソフト最新盤発売元:Walt disney Japan
1996年アメリカ、メキシコ、オーストラリア、カナダ合作 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:松浦美奈
1997年4月5日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2018年3月16日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/06/29)
[粗筋]
ヴェローナ・ビーチの街はモンタギューとキャピュレットというふたつの家が、長年に亘って勢力争いを繰り広げていた。お互いにすれ違えば挑発しあい、抗争も絶えない。業を煮やした地元警察のプリンス署長(ヴォンディ・カーティス=ホール)は、今後騒ぎを起こせば騒乱罪で死刑にする、と息巻く。
そんなさなか、モンタギュー家のひとり息子ロミオ(レオナルド・ディカプリオ)はロザラインという女性への恋心に悩み鬱ぎこんでいた。ロミオの従兄弟であるベンヴォーリオ(ダッシュ・ミホク)と親友のマーキューシオ(ハロルド・ペリノー)はロミオを元気づけるため、折しもキャピュレット家で開催される仮面舞踏会に潜入することを提案する。
扮装もあって、ロミオたちは勘づかれることなく客に紛れ込むことに成功する。そこでロミオは、ひとりの女性と巡り逢った。ロザラインへの思慕が吹き飛ぶほどの衝動に駆られ、ロミオは人目を盗んでそのひとに愛を囁く。彼女もまた、ロミオをひと目見て強く心惹かれていた。
しかしそれは、最悪の出会いでもあった。ロミオがひと目で恋に落ちた運命のひとは、こともあろうに、仇敵キャピュレット家のひとり娘・ジュリエット(クレア・デインズ)だったのだ。
いちどは絶望に襲われたロミオだったが、舞踏会のあとで意を決してキャピュレット家に再度潜入を図り、ジュリエットと愛を確かめ合う。ふたりは密かに結婚を誓う計画を立てるのだった。
翌朝、ロミオから相談を受けたロレンス神父(ピート・ポスルスウェイト)は驚きながらも、これこそ両家が和解する好機、と考え、ふたりの結婚式を引き受けた。
その日は若い男女にとって人生最良の日となるはずだった。しかし、長年に亘る両家の遺恨は、やがて思いもかけない悲劇をもたらした……
[感想]
世界中でその名を知られている、と表現してもたぶん過言ではない古典中の古典、シェイクスピアによる戯曲『ロミオとジュリエット』を、舞台を現代の南国にある都市に、対立するふたつの家をマフィアに変え、剣で行われた決闘を拳銃に差し換えた――極論すれば、それだけの発想である。
だが本篇の面白さは、本当に基本は原典をそのまま流用したことで、見た目は近代的なマフィアやごろつきなのに、誰の口からも詩的で含蓄の豊かな台詞が出てくる。下手な脚本家の手にかかればどうしようもなく不自然な代物になるところだが、なにせ下敷きがウィリアム・シェイクスピアなので、台詞の出来は文句がつけられない。
台詞や展開がほぼ一緒でも、舞台やヴィジュアルを変えれば趣が変わり、更にカメラワークや編集によってテンポも自在にブラッシュアップ出来る、というのを実に明快に見せた作品と言える。
それにしても本篇、冒頭からいささか度胆を抜かれる。細かなカット割りでモンタギュー家とキャピュレット家の対立を表現し、それからガソリンスタンドでのあまりにも危うい挑発の応酬が描かれる。店内に入っていく、踵を金属で加工したブーツを追うカットや、西部劇さながらのガンアクションなど、あからさまなまでに“魅せる”ことに特化した映像の洪水は、ひとによっては辟易してしまいそうだ。
ここまで派手に細かくカットを重ねるのは冒頭だけだが、しかしここで提示した独自のセンスが受け入れられるなら、本篇は最後まで楽しめるはずである。名作を下敷きにしていればこそ、どんなアレンジで展開していくのか、を明示しているあたり、エンタテインメントとして実に正しい。
ただし、少々引っかかった点がいくつかある。
まず、この冒頭で極端なほどに印象づけたティーボルト(ジョン・レグイザモ)やマーキューシオが、本筋のなかでは冒頭ほどのインパクトを残していない、という点だ。あれほどに見せつけた個性が、その後はさほど有効に働いていないのが勿体ない。
そしてもうひとつ、本篇は敵対する家の子供同士が恋に落ちる、という趣旨で、本来ならふたり共が主人公になるのだが、本篇ではやたらとロミオの印象が強い。恐らく本篇は最初からレオナルド・ディカプリオという俳優をスクリーン上に華麗に映しだすことを狙いとしていたせいなのだろう、本来なら同様に魅力的に描かれているべきジュリエットが少々弱く映るのが惜しい。原典通りのいとけなさ、可憐さを覗かせた本篇のジュリエット像はディカプリオ以上に原典のイメージをなぞっていた、と感じられるからなおさらだった。
しかしこのくらいは難癖というものだろう。冒頭から解りやすく強調した個性で心を掴むと、詩的な台詞をリズミカルに繰り出し、ハイテンションのまま物語を転がしていく。原典の持つ繊細な感情表現も疎かにせず、哀しくも神々しいクライマックスまで、秀逸なヴィジュアルで飾っていく。古典の新しい表現として、冒険的だが極めて正しい方向性だと思う――同じ作品の換骨奪胎としては理想的すぎる『ウエスト・サイド物語』という先行作があればこそ、こういう切り口も認められていい。
個人的には、そのハイテンションな語り口と近代のポップ・ミュージックを導入しテンポよく綴る、という手法を更に深化させた、バズ・ラーマン監督のこの次の作品『ムーランルージュ!』をより高く評価するが、通過点として、ひとつの挑戦として本篇にも充分な意義があった、と思う。
関連作品:
『ムーランルージュ!』/『オーストラリア』
『タイタニック』/『めぐりあう時間たち』/『タブロイド』/『マトリックス・リローデッド』/『シッピング・ニュース』/『REPO! レポ』/『バード(1988)』/『夏休みのレモネード』/『ナイト ミュージアム』/『ブラック・レイン』/『閉ざされた森』/『父親たちの星条旗』/『それでも恋するバルセロナ』/『アビエイター』/『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方』/『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』
『ロミオとジュリエット(1968)』/『ウエスト・サイド物語』/『スナッチ(2000)』/『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』
コメント