TOHOシネマズ西新井、スクリーン8入口脇に掲示された『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』チラシ。
原題:“The Conjuring : The Devil Made Me Do It” / 監督:マイケル・チャベス / 脚本:デイヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック / 原案:ジェームズ・ワン、デイヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック / 製作:ジェームズ・ワン、ピーター・サフラン / 製作総指揮:リチャード・ブレナー、デイヴ・ノイスタッター、ヴィクトリア・パルメリ、マイケル・クリアー、ジャッドソン・スコット、ミシェル・モリッシー / 撮影監督:マイケル・バージェス / プロダクション・デザイナー:ジェニファー・スペンス / 編集:ピーター・グヴォザス、クリスチャン・ワグナー / 衣装:リア・バトラー / 小道具:ケイト・フォリー・グリンチ / 音楽:ジョセフ・ビシャラ / 出演:パトリック・ウィルソン、ヴェラ・ファーミガ、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアード、ジョン・ノーブル、ユージニー・ボンデュラント、シャノン・クック、キース・アーサー・ボーデン、スティーヴ・コールター、ヴィンス・ピサニ、スターリング・ジェリンズ、ポール・ウィルソン、シャーリーン・アモイア、ボニー・ジーン・ブレヴィンズ、アシュリー・ラコンテ・キャンベル、イングリッド・ビス / アトミック・モンスター/ピーター・サフラン製作 / 配給:Warner Bros.
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:佐藤真紀 / R15+
2021年10月1日日本公開
公式サイト : http://www.shiryoukan-muzai.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2021/10/30)
[粗筋]
心霊研究家のエド・ウォーレン(パトリック・ウィルソン)とローレン・ウィルソン(ヴェラ・ファーミガ)夫妻がこの事件に関わったのは、1981年のこと。数ヶ月前、コネチカット州ブルックフィールドに引っ越してきたばかりだったグラッツェル家の11歳の少年デイヴィッド(ジュリアン・ヒリアード)が、転居後から繰り返し奇怪な現象に見舞われており、悪魔の憑依が疑われた。ゴードン神父(スティーヴ・コールター)による悪魔祓いの模様を記録するべく同行したのだが、デイヴィッドに取り憑いた悪魔は予想よりも遥かに凶暴で、デヴィッドの父カール(ポール・ウィルソン)とゴードン神父、ロレインが負傷、エドに至っては心臓発作を起こし、病院に担ぎ込まれてしまう。
儀式の翌日、デヴィッドの周囲から怪しい気配は消えた。しかしその代わりに、デヴィッドの姉・デビー(サラ・キャサリン・フック)の恋人アーニー・ジョンソン(ルアイリ・オコナー)の身辺で奇妙な出来事が頻発し始める。奇妙な幻覚に苛まれ、挙句にアーニーは、グラッツェル一家が暮らす家の家主ブルーノ(ボニー・ジーン・ブレヴィンズ)を殺害してしまう。
エドはあの悪魔祓いの終盤、アーニーがデヴィッドに取り憑かれた悪魔に「取り憑くなら僕に取り憑け」と訴えていたのを目撃していた。ウォーレン夫妻は、アーニーの弁護を担当するニューウェル弁護士(アシュリー・ラコンテ・キャンベル)に、事件は彼に憑依した悪魔によるもの、と主張する。はじめは半信半疑だった弁護士だが、ウォーレン夫妻がこれまでのフィールドワークで入手した“呪物”を保管した倉庫を見せられると、“犯行は憑依した悪魔によるもの”という、アメリカの法廷では前代未聞の主張を展開した。
現状のままでは、陪審員が弁護士の主張を受け入れるはずもない。ウォーレン夫妻は、法廷を納得させるだけの証拠集めを要請された。悪魔祓いの際の経緯から、手懸かりはグラッツェル一家の引っ越した家そのものにある、と考えた夫妻は、デビー立ち会いのもと、最初にデヴィッドが怪異に遭遇した部屋の地下を調べる。
果たしてそこには、異様に精巧で禍々しいモニュメントが隠されていた。恐らく、極めて邪悪な儀式のために用いられたものだと推測されるが、しかし、いったい誰がなんのために、一家に罠を仕掛けたのか? この不気味なモニュメントの出所を探りはじめた夫妻だが、邪悪な意思は、彼らにも魔手を伸ばそうとしていた――
[感想]
《死霊館》シリーズは、起点となる『死霊館』が大ヒットを果たすと、間もなくスピンオフとして『アナベル 死霊館の人形』が発表され、瞬く間にその規模を拡大していった。しばらくはスピンオフばかりが増えていったが、前作から実に5年振りに登場したメインシリーズ第3作が本篇である。
邦題では“死霊館”、現代では“The Conjuring”を冠した作品の特徴は、いちおうすべて実話をベースにしているという点だ――“いちおう”と予防線を張ったのは、のちの研究などから、現在では疑義が呈されているエピソードも採用されていること、また事件そのものに世間の関心が集まっていたからか、実際のウォーレン夫妻の私的な部分については資料が少なく、作り手の想像で大幅に補われているらしいことによる。ただ、劇中でも行われている音声や映像の記録は現実に行われたものをその通りに再現しており、メディアや世間の反応も当時の実情を反映している。極めてリアリティのある作り方をしている、くらいは断言していいだろう。
シリーズ3作目にして初めて、立ち上げに携わったジェームズ・ワンが監督を離れ、新たにマイケル・チャベス監督が抜擢されたが、そもそもが従来のスタッフより才能を見込まれ、既にシリーズの番外篇的位置づけの『ラ・ヨローナ~泣く女~』を担当していることもあって、作品世界への理解も、上位スタッフとの意思疎通も取れていたと思われる。知識がなければ、監督が替わったことも意識しないだろうくらいに違和感はない。
ただ、語り口には少々違いを感じるはずだ。従来の作品では、怪奇現象に見舞われるひとびとの視点を中心に描いており、観客にとっても怪奇現象は“起きている”という前提が共有され、どうしても恐怖から解放されない不安、周囲から理解されない焦燥感や絶望、といったものが浮かび上がる構造となっているが、本篇はほぼウォーレン夫妻が主役となっている。しかも、彼らが最初に直面する課題は、法廷において“悪魔の憑依”を証明し、陪審員たちに受け入れさせることだ。
これほど難易度の高い命題もなかなかない。一般的に陪審員は様々な人種、知識層から選ばれるため、全員を納得させる論理の構築自体が難易度が高い。宗派によっては悪魔の存在そのものを認めない、という陪審員もいれば、極めて科学的な思考から、厳密な証明を求める陪審員もいる。そのすべてに“悪魔の憑依”を受け入れさせるのはほぼ不可能に等しい。まして、シリーズの前章『死霊館 エンフィールド事件』を鑑賞していれば解るが、このシリーズにおける《悪魔》は奸智に長け、人間を欺く仕掛けをも用意する。実際、劇中でもこの困難が夫妻に立ちはだかる。
いわばオカルト・ミステリーの体裁を取り、その意味での見応えは豊かだが、しかしそれゆえに、“恐怖”という点では旧作に見劣りしているのは否めない。超自然の描写はふんだんにあるが、あくまで次の展開への布石という面が強すぎて、シリーズの他作品にあるような、募る恐怖も衝撃もいささか弱い。旧作のような怖さを求めると、物足りなさは感じるはずだ。
しかし前述したように、シリーズとしての雰囲気、世界観はきちんと押さえている。何より、エンタテインメントとしての牽引力は素晴らしい。大前提として立ちはだかる、“憑依の立証”という難題。悪魔祓いの過程で夫妻を襲う災難。常識では計れないが、オカルトという線の上で明瞭に手懸かりが結びついていく知的なスリル。終盤で見せる意外な展開と、一刻を争うサスペンスもある。詳述はしないが、後日談を説明するくだりで表現にひと工夫を加え、カタルシスに繋げる配慮まで施しており抜かりがない。
シリーズとしての一貫した面白さ、恐怖を望むと不満が残るが、シリーズの世界観、本質を踏襲しながら、ホラー映画としてシリーズ旧作と異なる面白さを追求した意欲作と言えよう。
関連作品:
『死霊館』/『死霊館 エンフィールド事件』
『アナベル 死霊館の人形』/『アナベル 死霊博物館』/『ラ・ヨローナ~泣く女~』
『ミッドウェイ(2019)』/『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』/『ファースト・マン』/『ワールド・ウォーZ』/『しあわせの隠れ場所』
『エミリー・ローズ』/『NY心霊捜査官』/『ラスト・エクソシズム』
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