TOHOシネマズ新宿、ロビーに繋がるエスカレーター手前の壁面上部にあしらわれた『ゴーストバスターズ(2016)』キーヴィジュアル。
原題:“The Ghostbusters” / 監督:ポール・フェイグ / 脚本:ポール・フェイグ、ケイティ・ディボルド / 原案:アイヴァン・ライトマン、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス / 製作:エイミー・パスカル、アイヴァン・ライトマン / 製作総指揮:ダン・エイクロイド、アリ・ベル、ポール・フェイグ、ジェシー・ヘンダーソン、ミシェル・エンペラート・スタビル、ジョー・メジャック、トム・ポロック / 撮影監督:ロバート・D・イェーマン / プロダクション・デザイナー:ジェファーソン・セイジ / 編集:メリッサ・ブレザートン、ブレント・ホワイト / 衣装:ジェフリー・カーランド / キャスティング:アリソン・ジョーンズ / 音楽:セオドア・シャピロ / 出演:クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース、セシリー・ストロング、アンディ・ガルシア、ニール・ケイシー、チャールズ・ダンス、マイケル・ケネス・ウィリアムズ、マット・ウォルシュ、エド・ベグリー・Jr.、スティーヴ・ヒギンズ、マイケル・マクドナルド、カラン・ソーニ、ザック・ウッズ、トビー・ハス、ケイティ・ディボルド、アダム・レイ、ビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、アーニー・ハドソン、シガーニー・ウィーヴァー、アニー・ポッツ、オジー・オズボーン、ジャニーン・ラミレス / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2016年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:栗原とみ子
2016年8月19日日本公開
2017年7月5日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc]
公式サイト : http://www.ghostbusters.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2016/8/13) ※前夜祭上映
[粗筋]
コロンビア大学で講師を勤めるエリン・ギルバート(クリステン・ウィグ)は同僚からの相談に動揺した。いまは施設となったオルドリッチ郷の屋敷に出没するゴーストを退治して欲しい、という。彼は、エリンが数年前に、友人のアビー・イェーツ(メリッサ・マッカーシー)と連名で発行したゴーストの解説本を発見して、エリンを頼ったのだ。
破棄したはずの本を未だに販売している、という事実を知ったエリンは、経歴からアビーの現在の勤め先である大学を突き止め、直談判に赴く。アビーはヒギンズ理科大学で超常現象研究室を構え、素粒子物理学者のジュリアン・“ホルツ”・ホルツマン(ケイト・マッキノン)と共に依然として怪しい研究に勤しんでいた。アビーは、エリンが本の成果を捨てた、と糾弾、自身の収入源として今後も売り続けると宣言する。だが、エリンが訪ねてきたのが、幽霊退治の依頼に端を発していたことを知ると、ホルツと共に意気揚々と調査に赴いた。エリンは本の販売中止と引きかえに、オルドリッチ邸の関係者に紹介するよう要求してきた。
成り行きでアビーたちと共にオルドリッチ邸に乗り込んだエリンは、本物のゴーストに遭遇する。かつて情熱を傾けて捜し求めた存在に遭遇できたことで欣喜雀躍するエリンだったが、その様子を記録した動画がネットに流されて、コロンビア大学で終身雇用を受ける話はなくなり、更には大学そのものを逐われる羽目になってしまった。
しかしゴーストの存在をその目で確かめたことで、超常現象研究の可能性を見出したエリンは、アビーたちの研究室に身を寄せようとするが、そもそも研究室の存在自体を知らなかった学長によってアビーたちの研究室も解体、3人揃って路頭に迷う羽目になった。そこで3人は、独自に事務所を借り、ゴーストの調査と退治を行う会社を立ち上げる。
意外なことに、さっそく依頼が舞い込んできた。かつて処刑場があったという地下鉄の駅で、事務員をしているパティ・トーラン(レスリー・ジョーンズ)がゴーストを目撃したという。現地に赴いたエリンたちはさっそくゴーストを確認、ホルツが開発した《プロトン・ビーム》で捕獲を試みるが、いいところで取り逃してしまう。このときの映像はテレビでも紹介されたが、権威ある専門家から信憑性を疑われ、エリンたちは躍起になる。
折しも街では、突如としてゴースト騒ぎが増え始めていた。気づけば《ゴーストバスターズ》と呼ばれるようになっていたエリンたちは、さっそく新たな依頼のあった現場へと駆けつける――
[感想]
1984年に公開された『ゴーストバスターズ』は社会現象にも等しいブームを巻き起こした。5年後には続篇が発表され、更に21世紀に入ってからも第3作の計画が練られていたが、一転二転して延び延びになった挙句、主要キャストでありオリジナルの脚本家でもあるハロルド・ライミスの逝去により頓挫してしまう。本篇は、その態勢を引き継ぐかたちで製作された、続篇ではなくリブート作品である。
当然のように、すべてが2016年仕様に変更されている。オリジナルでも、普及しつつあった家庭用ビデオを用い、動画のかたちで情報が伝達される描写はあったが、本篇では全世界を網羅するインターネットにより、更に早く“ゴースト”についての情報が拡散していく。
しかしやはり特筆すべき変更は、《ゴーストバスターズ》主要メンバーの男女比が完全に入れ替わっていることだろう。自分たちの研究や努力が報われず冴えない日々を送っている研究者や専門家、という点は共通していても、メインメンバーはすべて女性に置き換えられた。逆に、秘書的な位置づけで雇われるのが、脳味噌スッカラカンで見た目と体力以外に取り柄のない男性、という構図が面白い。かつての、事務員や秘書としてキュートな女性を採用するステレオタイプな配置も男女逆転させ、それ自体をユーモアとしても諷刺としても活用している。ここに、マーヴェル映画のマイティ・ソー役で世界的に知名度を高めたクリス・ヘムズワースをいまさらあてがうのも憎い。こういう役柄なら、売り出し中の若手でも良さそうなものだが、既に知名度のある俳優をあてがうことにもユーモアが滲むのだ。
男女比の逆転や劇中のガジェットの現代化、また当然のようにゴーストの表現をより洗練させる一方で、物語の基本的な構造は概ね変わっていない。細部のモチーフや関係性に細かなひねりはあっても、一時はスタンスの違いで袂を分かっていたメインキャラクターが、ゴーストの実在を確かめたことでふたたび手を取り合い、新たなメンバーを採用して《ゴーストバスターズ》の体裁を整えていく。批判を浴び、社会的な妨害を受けながらも、やがて訪れた最大級の危機に、果敢に立ち向かうことになる――ごくざっくりとアウトラインを取り出せば、斯様にほぼほぼオリジナル1作目、2作目を踏襲している。
ただし、その表現は隅々に至るまで洗練されている。女性の社会的地位の向上や多様性を自然に採り入れた人物配置、オリジナルの下世話さは残しながら洒脱さを増したユーモア。まだマペットやクロマキーを用いた合成が主体だったオリジナルの時代よりも格段に多彩になり巧妙になった特撮技術で、ゴーストの実在感が増し、アクションも迫力豊かになった。クライマックス、お馴染みの特殊な武器を自在に操り、ゴーストを蹴散らしていくエリンたちの描写は、震えが来るほどに格好いい。
もし本篇に不満を抱くとするなら、オリジナルを知らないひとなら、もはや主流とは言い難い“ゴースト”の解釈や生態が受け入れにくい可能性がある、ということ、オリジナルに愛着があるひとなら、大枠はそのままに、何もかもが洗練されすぎてしまった、という点が挙げられそうだ。オリジナルは良くも悪くも、低年齢層が直感的に好み、大人も常識を踏み外す感を喜べる下品さが1つの魅力だった。本篇でもその要素はしっかり組み込まれているが、しかし社会的偏見に対する配慮もあるのか、だいぶスマートにマイルドになった。この匙加減が受け入れられない向きもあるだろうし、一方で下世話さも残した会話にある癖を好まない層もまだいるだろう。どんな年齢層にもアピールしようとした姿勢は間違っていないと思うのだが、どっちつかずだった、という批判も出来てしまう。
しかし、本篇の作り手がオリジナルに最大限敬意を表し、その魅力を、当時を知らない観客にも伝わるよう、多くの配慮を払っていることは窺える。下世話なユーモアやポップな感覚を引き継ぎながらも現代的にカスタマイズした、本質には品性のある優秀なリブート作品である。なお私はクライマックス、クリス・ヘムズワースの活躍が大好きです。あのくだりだけでも観る価値はある、とさえ思う。
――が、残念ながら、本篇での布陣は2022年時点で続篇として引き継がれてはいない。一定の成功を収めたものの、スタジオにとっては決して満足のいく結果ではなかったのかも知れない。
その代わり、オリジナル版を手懸けたアイヴァン・ライトマン監督の息子であるジェイソン・ライトマン監督が、オリジナル2作品の流れを受け継ぐ『ゴーストバスターズ/アフターライフ』を発表した。世界観を踏襲しつつも、郷愁を含むジュヴナイルとしての魅力を加えたこちらは興行的にも批評的にも本篇を上回る成功を収め、先日、続篇に着手していることが公表された。
《ゴーストバスターズ》の物語は、まだ続いていく――願わくば、本篇のエリンたちにもふたたび脚光が当たることを。
関連作品:
『ゴーストバスターズ(1984)』/『ゴーストバスターズ2』
『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』
『オデッセイ』/『ハングオーバー!!! 最後の反省会』/『イエスタデイ』/『SING シング』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『ピンクパンサー2』/『イミテーション・ゲーム エニグマと天才科学者の秘密』/『ロボコップ(2014)』/『イントゥ・ザ・ストーム』/『リカウント』/『デッドプール』/『グランド・ブダペスト・ホテル』/『エクソダス:神と王』
『オズの魔法使』/『ドラゴン危機一発』/『JAWS/ジョーズ』/『タクシードライバー』/『シャイニング 北米公開版〈デジタル・リマスター版〉』/『死霊のはらわた 20周年アニバーサリー』/『バック・トゥ・ザ・フューチャー』/『ゴースト/ニューヨークの幻』/『マイティ・ソー』
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