原題:“The Matrix Reloaded” / 監督、脚本&製作総指揮:ラリー&アンディ・ウォシャウスキー / 製作:ジョエル・シルヴァー / 製作総指揮:グラント・ヒル、ブルース・バーマン / 撮影:ビル・ポープ / 美術:オーウィン・パタソン / 編集:ザック・ステインバーグ / 音楽&指揮:ドン・デイヴィス / 視覚効果監修:ジョン・ゲイター / 衣裳:キム・バリット / ファイト・コレオグラファー:ユエン・ウーピン / 音響&サウンドエディット監修:デーン・A・デイヴィス / コンセプト・デザイナー:ジェフリー・ダロー / 出演:キアヌ・リーヴス、キャリー=アン・モス、ローレンス・フィッシュバーン、ヒューゴ・ウィービング、ジェイダ・ピンケット・スミス、グロリア・フォスター、コリン・チョウ、ランベール・ウィルソン、モニカ・ベルッチ、ニール&エイドリアン・レイメント / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.
2003年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 日本語字幕:林 完治
2003年6月7日日本公開
午前十時の映画祭12(2022/04/01~2023/03/30開催)上映作品
2019年9月11日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc|日本語吹替音声追加収録版 4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター Blu-ray Disc]
公式サイト : http://www.thematrix.com/japan ※閉鎖済
上野東急にて初見(2003/6/7)
TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2022/8/16)
[粗筋]
あの壮絶な戦いを契機に、救世主として目醒めたネオ(キアヌ・リーヴス)――だが、近頃彼は夜毎の悪夢に悩まされていた。ビルに突入したトリニティー(キャリー=アン・モス)がエージェントの追撃を受け、ビルの窓から転落する夢。恋人である彼を気遣うトリニティーに、だがネオは苦悩の一端を漏らすことも出来ない。
そんな折、マトリックスの支配下にない人間たちによる地下都市・ザイオンに、不吉な報せが齎された。ザイオン頭上の地表にドリルが穴を穿ちはじめ、約72時間後にはザイオンに到達、そこからザイオンの人口に匹敵する25万のセンティネルが突入してくる、というのだ。予言者(グロリア・フォスター)の言葉を信頼するモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)は、彼女の言う救世主=ネオが鍵となることを疑わず、予言者の連絡を待つために船を一隻、マトリックスとの交信可能高度に待機させることを進言する。予言に懐疑心があり、防衛線の保持を提唱するザイオンの防衛責任者ロック司令官(ハリー・レニックス)はモーフィアスの言動に激昂するが、モーフィアスは一歩も退かなかった。
やがて、待望の連絡がモーフィアスたちのもとに届いた。ロックの反対を押し切ってマトリックスに侵入したネオは、予言者からキー・メイカー(ランダル・ダク・キム)なる人物と落ち合うよう指示を受ける。彼女が衝撃的な告白をし、立ち去ったあとで、だがネオはもっと恐るべき人物との再会を果たした。かつて破壊したはずのエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィービング)が、マトリックス中枢との連絡を取るプラグを外した状態で彼の前に現れたのだ。しかもスミスは、人間はおろかエージェントすら自分の複製に作り替えてしまう機能を会得していたのだ――
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『マトリックス リローデッド〈4Kマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。
[感想]
ブレットタイムを代表とする革新的な撮影手法にスタイリッシュなヴィジュアル、ハードSFと日本の漫画文化からの影響が濃厚な独特の作品世界によって、映画界に革命を齎した『マトリックス』の続編であり、異常な量のプレミア上映に主要キャスト全員の来日、東京タワーの照明の色を一時的に緑に塗り替える演出、などなど派手な宣伝戦略でも話題となった、注目の作品である。あまりに話題が大きくなりすぎて、ほとんどお祭り気分で初日のレイトショーで鑑賞してみた次第。
流石と言うべきか、前作以上に湯水のように資金を投じたと思しいアクション・シーンは分量を増し、シチュエーションの荒唐無稽ぶりもパワーアップしており、それがほぼ全編に鏤められているので、終始スクリーンに釘付けにさせられてしまう。
ただ、作品世界を深めるための会話部分が今回やや冗長の嫌いがある。元々、神話からの引用や哲学的な造詣が盛り込まれた主題は、やもするとSFやファンタジー世界に馴染みのない一般観客を遠ざけがちなのに、今回はそうした趣旨を含んだ会話をやたら長引かせる傾向にあり、深甚なイメージこそ作り出してはいるが、やたら勿体ぶった印象をも齎しているし、展開ひとつひとつの筋道を解り辛くもしている。
前作で提示した撮影手法やヴィジュアルが様々な作品で援用され、手垢が付きすぎてしまったことを嫌ったとかで、今回は更に革新的なものを提示しようとしているが、いずれも従来の作法を敷衍すればやがて辿り着くところであって、前作のようなインパクトを与えるには至っていない――尤も、前作で提唱した新機軸のインパクトには、どう足掻いても及ばないのは致し方ないところとも思えるが。
また、アクションを盛り込みすぎてひとつひとつの印象が薄らいでしまっている。こと、ネオが棒術まで披露する、エージェント・スミスX100との戦闘シークエンスの迫力が異常すぎ、あとで幾らモーフィアスやトリニティーが健闘しても双子が壁抜けしても、思ったほどの興奮は得られなかった。
そして何よりも問題なのは、充分に機能していないモチーフや放り出したままのガジェットが多いこと。新キャラクターのほとんどは使われ方が断片的で、果たして登場させた意味があるのか、と首を傾げてしまう。恐らく、本編と並行して撮影が行われ、同年11月の公開が決定している『マトリックス レボリューションズ』の存在が前提となっているから、そのためにばらまいた伏線も無数にあるのだろう。観る側も基本的には承知のうえの話だろうが、しかしそうだと解っていても放り出されたものが多すぎて釈然としない。
相変わらず技術のひとつひとつは凄いし、並大抵のSF映画やアクションと比較すればその作り込みの激しさと含蓄の豊かさは間違いないのだけれど、全体の纏まりは前作よりも悪くなってしまった感がある。
結局のところ、『マトリックス リローデッド』という作品の最大の不幸は、あとに『マトリックス レボリューションズ』が存在していることかも知れない。謎掛けめいてしまうが、これ以上に巧い表現が思いつかないのだ。
作品世界を最善の状態で見届けたい、と思うのならば、お預けを喰らわされることを覚悟して劇場で鑑賞することをお薦めする。ふんだんに盛り込まれた特殊効果の大半は劇場で観た方がその迫力を堪能できるので、他の部分は割り切った上で映像と技術だけを賞味するために劇場を訪れるのもいいだろう。どちらも性に合わないという方は、『~レボリューションズ』公開前後に恐らく発売されるであろう映像ソフトを待ってもいいかも知れない。
それにしても。
キー・メイカーは聞きしに勝る“萌えキャラ”」っぷりであった。ネオたちにあっさりついてくるわひ弱なくせに先陣斬って走るわ無茶苦茶な状況でほとんど顔色変えてないわ生死の境目でも無茶苦茶冷静だわ挙げ句の果てに荷物よろしく投げ飛ばされるわ貴様は某ゲームの役立たずヒロインかっ!!?
――この上までが、初見の直後、2003年6月8日にアップした感想である。久々に劇場にて再鑑賞したのを機に、もう少し付け加えておきたい。
基本的な印象は大きく変わっていない。前作と比べてSFとしてのディープさが際立ち、世界観についての説明や、いかにもディストピア的な描写で華の乏しいザイオンの場面が多い序盤は間延びした印象が禁じ得ない。後半にしても、アイディア満載のアクションが陸続と繰り出されるが、それゆえに高いテンションが続きすぎて平坦な印象をもたらす傾向にある。
しかし、本篇のアクション表現は、振り返ってみれば、これに続くアクション映画の可能性を示唆する重要なものだった、と感じる。ほぼCGによって作られたネオとエージェント・スミスのコピー軍団との戦いは、20年近く経過したいま鑑賞すると、やや造形的に不自然さはある。しかし、その実用性を充分に証明してみせたのは間違いない。本篇が示した可能性は、その後隆盛を迎えるヒーロー映画などで開花していった。
そしていま改めて鑑賞すると、本当に凄いのは高速道路のカーチェイスと、ネオと預言者の用心棒セラフとの対決シーンだった、という気がする。
前者はわざわざスタジオ内に高速道路のセットを設けて撮影、お馴染みエージェントだけでなく、メロヴィンジアン(ランベール・ウィルソン)の用心棒である双子の常識を超えたアクションを合成で再現しながら、実写もあってこその迫力をしっかりと組み込んでいる。いまは普通となったこの手法もまた、その有効性を本篇で証明された、と考えていいのではなかろうか。
後者は、描き方こそシンプルでも、見事なほどに往年の香港流カンフー・アクションの延長にある演出で、それがハリウッドの大作に、理想的なかたちで織り込まれていることに感慨を禁じ得ない――初見のときはそこまで解ってなかったのですが、その後、ジャッキー・チェン作品をきっかけに、その周辺の作品を観てきただけに、その意義を強く感じる。
やはり『~レボリューションズ』のために予め引っ張り出された人物もいて、振り返るとやはり、続篇の存在が単品としては不格好な状態を生んだ、と捉えざるを得ない。しかし、アクションとSFを融合した映画の可能性を提示した意義、そして、より本格的なSFになっていく『レボリューションズ』への導入として、本篇は十二分な役割を果たしている、と思う。1作目だけで充分すぎるクオリティを示しているが、その後の映画表現への影響、という点では、本篇のほうが重要なのかも知れない。
関連作品:
『マトリックス』/『マトリックス レボリューションズ』/『マトリックス レザレクションズ』
『バウンド』/『スピード・レーサー』/『クラウド アトラス』/『Vフォー・ヴェンデッタ』/『ニンジャ・アサシン』
『スウィート・ノベンバー』/『メメント』/『理由(1995)』/『ウルフマン』/『ALI』/『導火線 FLASH POINT』/『キャットウーマン』/『アレックス』
『オズの魔法使』/『ウエスト・サイド物語』/『地獄の黙示録 劇場公開版<デジタルリマスター>』/『トロン』/『エイリアン2 完全版』/『AKIRA アキラ(1988)』/『ビフォア・サンライズ 恋人までの
『リベリオン』/『ウォンテッド』/『ウォッチメン』/『インセプション』/『トロン:レガシー』/『トランセンデンス』
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