原題:“Pitch Black” / 監督:デヴィッド・トゥーヒー / 原案:ジム・ウィート、ケン・ウィート / 脚本:ジム・ウィート、ケン・ウィート、デヴィッド・トゥーヒー / 製作:トム・エンゲルマン / 製作総指揮:テッド・フィールド、スコット・クルーフ、アンソニー・ウィンリー / 撮影監督:デヴィッド・エグビー / プロダクション・デザイナー:グレース・ウォーカー / 編集:リック・シェイン,A.C.E. / 衣装:アンナ・ボルゲーシ / クリーチャー・デザイン:パトリック・タトポロス / 視覚効果スーパーヴァイザー:ピーター・チャン / キャスティング:アン・マッカーシー、メアリー・ヴァーニュー / 音楽:グレーム・レヴェル / 出演:ラダ・ミッチェル、コール・ハウザー、ヴィン・ディーゼル、キース・デヴィッド、ルイス・フィッツジェラルド、クローディア・ブラック、リアンナ・グリフィス、ジョン・ムーア、サイモン・バーク、レス・チャンタリー、サム・サリ、ファイラス・ディラニ / インタースコープ・コミュニケーションズ製作 / 配給:GAGA-HUMAX / 映像ソフト発売元:松竹ホームビデオ
2000年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:?
2000年12月2日日本公開
2007年7月6日DVD日本最新盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2009/11/05)
[粗筋]
自動操縦中の宇宙船“ハンター・グラッツナー”号のなかで長い眠りに就き、目的地到着を待っていた乗員・乗客たちが突如、叩き起こされた。何かが衝突したらしく、船内のあちこちで部品の断裂が生じ、その破片によりまず船長が絶命した。乗員のキャロリン・フライ(ラダ・ミッチェル)とグレッグ・オーエンズ(サイモン・バーク)が懸命に操船を試みるが、瞬く間に間近の惑星に吸い寄せられてしまう。
倉庫や部品を切り離し、必死に対処したが、もはや再び飛べないほどに宇宙船は大破、オーエンズも墜落時に致命傷を負ってしまう。
乗員3名、乗客40名のうち、生き残ったのはフライを含めて僅か10人。生存者には、手に負えない厄介な乗客も含まれていた。かつて宇宙船を奪って逃走した前科もあるという札付きの殺人犯、リチャード・B・リディック(ヴィン・ディーゼル)である。事故の衝撃でコールドスリープが解けた直後、同道していた賞金稼ぎのウィリアム・J・ジョンズ(コール・ハウザー)によっていちどは取り押さえられたが、隙を衝いて脱走してしまった。
成り行きでリーダー的な扱いを受けたフライは、生存者を二手に分け、数名を宇宙船に残し、自分を含む選抜隊で惑星の調査を行う。
やがてフライたちは採掘隊が滞在していた痕跡に辿り着いた。地下水を汲み上げる装置の他に非常用の小型宇宙船を発見、一同は欣喜雀躍するが、この時点ではまだ誰も、その異様さに気づいていなかった。
採掘隊は生活物資から宇宙船まで残して、何処に消えてしまったのか? やがて訪れる漆黒の夜に、彼らはその真相を知ることとなる……
[感想]
人気のない惑星に漂着し、そこで身の毛もよだつような恐怖を味わう――という趣向のSFホラーは多く存在するが、間違いなく本篇は良質の部類に属する1本である。
日常を描写するところから始まるのではなく、乗員乗客すべてがコールドスリープ状態にあるなか、気配で他の乗員の素性を察知していく登場人物=リディックのナレーションで静かに幕を開けると、すぐさま事故から始まる大混乱に突入する。息をつく間もなく残された乗員たちによる緊急回避の様子が圧倒的な迫力で描かれ、墜落と共に舞台は荒涼とした惑星に移る。以後しばらく惑星を探索する様子が淡々と描かれるだけなのに奇妙な緊張感が漲っているのは、既に大きなトラブルにより多くのものを喪ったあとであり、また同時に剣呑な犯罪者の脱走、という問題を背負っているからだ。息をつく間もないスピーディな展開に、あっという間に呑みこまれてしまう。
この作品の舞台となる惑星は3つの太陽に囲まれ、当初はまるで夜が来ないかのように描かれるなかで、闇に潜む脅威の存在が明らかになる。そうして闇に対する恐怖を存分に煽り、同時に日が沈まないことへの安心感を実感させたあとで、抗いようのない夜の到来を示す。こうすることで、ヴィジュアル的には変化の乏しくなる中盤以降、喚起するイメージ、迫り来る恐怖を増幅させる手管も巧みだ。
舞台は制約され、決して多くの予算を費やしていないのは想像に難くないが、しかしそれを感じさせないほど作られたヴィジュアルも圧巻である。色合いの異なる太陽から降り注ぐ光によって様々な表情を見せる風景、複数の太陽が輪を持つ巨大な惑星によって覆い隠されるひと幕のインパクト、そして夕暮れに大挙する“化物”の姿。観客の目にそれらをたっぷりと焼き付けたあとで訪れた漆黒の闇の中、迫り来る脅威と繰り広げられる殺戮の描き方もまた多くの趣向を凝らして鮮烈だ。集団からはぐれた人物が一瞬光を灯したとき、周囲に浮かび上がる“化物”の群像。大動物の死骸が転がる谷間で逃亡する人々の頭上から降り注ぐおぞましい雨。暗闇から襲来する脅威、という趣向自体は有り体だが、本篇はそれが十分に効果を上げられるような表現をふんだんに盛り込んでいる。
並行して、逃亡する人間たちの中にも、ひと工夫を凝らしたドラマを組み込んでいるのがまた巧い。新しい聖地を求めて旅立ったはずが、ひとり、またひとりと子供を失っていくイスラム教徒、リディックに憧れて同じように頭を剃りサングラスを掛ける少年、といったあたりが記憶に残るが、やはり秀逸なのは犯罪者リディックと、図らずも乗員の頭として人々のリーダーに祭りあげられたフライである。このふたりは意識の違いさえあれど、惑星に漂着した時点では似たような負い目を持っている。それが生死の狭間で苦闘を続けているうちに、ある種の覚悟を固め、責任に目醒めていく。異なる道を辿った意識の変化が交錯し、激しく響き合うクライマックス、それを踏まえた最後の行動のカタルシスは秀逸だ。
舞台設定やクリーチャーの造形は意識してB級を装っているが、細部への拘りと表現、伏線の完成度は一級品の、芯の通った良作である。
その魅力的な造形に製作者も愛着があったのだろう、本篇は犯罪者リディックをタイトル・ロールに据えた続篇『リディック』が製作されている。ホラー的な部分は削られ、リディックを道化役としたスペース・オペラに変貌しているが、この丁寧に構築された世界観に惹かれた人は、そちらも併せてご覧になることをお薦めしたい。
関連作品:
『リディック』
『ビロウ』
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