『ロックダウン(2021)』

『ロックダウン(2021)』本篇映像より引用。
『ロックダウン(2021)』本篇映像より引用。

原題:“Locked Down” / 監督:ダグ・リーマン / 脚本:スティーヴン・ナイト / 製作:マイケル・レスリー、アリソン・ウィンター、P・J・ファン・サンドウィック / 製作総指揮:アラステア・バーリンガム、スチュアート・フォード、スティーヴン・ナイト、ダグ・リーマン、ミゲル・パロス、リチャード・ウィーラン / 撮影監督:レミ・アデファラシン / プロダクション・デザイナー:ローラ・コンウェイ・ゴードン / 編集:サー・クライン / 衣装:ルーシー・ボウリング / キャスティング:ジョセフ・ミドルトン / 音楽:ジョン・パウエル / 出演:キウェテル・イジョフォー、アン・ハサウェイ、スティーヴン・マーチャント、ミンディ・カリング、ルーシー・ボイントン、デュレ・ヒル、ジャズミン・サイモン、マーク・ゲイティス、ベン・スティラー、ベン・キングズレー、クレス・バング、サム・スプルエル、フランシス・ラフェル、ケイティ・リューング、ソニック / 配信リリース:Warner Bros. Home Entertainment
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2021年7月7日映像ソフトレンタルリリース
2021年11月3日デジタル配信開始
DVD Videoにて初見(2023/6/4)


[粗筋]
 2020年初頭から世界中に蔓延した新型コロナウイルスの影響は甚大だった。世界各地で極端な移動規制が敷かれ、必要以外の外出を禁じるロックダウンに踏み切る都市も少なくない。
 パクストン(キウェテル・イジョフォー)はこの状況により、トラック運転手としての業務を会社から停止され、苦悩していた。加えて、長年の恋人であるリンダ(アン・ハサウェイ)との関係も悪化している。もともと兆しはあったが、ロックダウンにより四六時中同じ谷根の下にいることでお互いに対する不満が蓄積し、破裂寸前になっていた。
 そのリンダも決して順風満帆ではない。大手百貨店ハロッズの従業員から国際的アパレル会社に転職したリンダはロンドン支社のCEOになるほどの出世を遂げたが、彼女の会社もコロナ禍で苦境に立たされている。気心の知れた幹部を大量に解雇せねばならない。そんな最中にも理屈っぽく絡んでくるパクストンに苛立ちを募らせた結果、リンダの中では、もはや別れは確定事項だった。
 そんななか、パクストンは上司のマルコム(ベン・キングズレー)から不正規の仕事を依頼される。休業する店舗からの盗難被害を防ぐため、別の倉庫に移す業務であった。契約上、業務停止を要請したパクストンを公式に働かせるわけにはいかないが、別の名前とIDを用意しているという。パクストンは高額の報酬ではなく、ロックダウン解除後に事務職へと転属することを条件として、この依頼を請けた。
 同じ頃、リンダの会社での出来事が、ふたりに想像もしていなかった“計画”をもたらすことになる――


[感想]
 きっかけははまさしく“ロックダウン”だったらしい。コロナ禍で多くの映画の制作が滞るなか、脚本家スティーヴン・ナイトとのオンライン会議の最中にダグ・リーマン監督が、この状況下であえて映画を撮るための企画として思いついたものだという。なにせ思いつきであったから、撮影場所の確保などは脚本が監督の手許にないまま行われ、ディスクに同梱された特典映像では、俳優さえも自分の演じる状況を把握していない、というなかなかにバタバタの撮影だったことが窺える。
 それほどの突貫工事だったせいもあるのだろう、率直に言えば、あまり出来は良くない。
 ざっくりまとめてしまえばクライムドラマなのだが、そのクライム、つまりは犯罪計画に辿り着くまでが長い。作り手としては、コロナ禍という非日常での生活を、リアルタイムに近い感覚で作品に取り込みたい、という考えがあったのだろうが、願わくばもっと犯罪計画そのものに絡んでくる形で描きだして欲しかった。どうしても、犯罪計画とうまくリンクして捉えられないのである。
 ただ、困難の中であえて撮影した意義は間違いなくある。戦時中でも己の望む絵を撮るために格闘した映画人がいたように、たとえコロナ禍で他者との交流が大幅に制限されても、映画を撮ることは出来る。あの当時、実際に多くのクリエイターが格闘してきたことだが、本篇は同様のことが、劇場で拡大公開を狙う娯楽映画でも不可能ではない、と証明した――この際、出来として理想なのか、は脇に置くとして。
 その結果、本篇には極めてリアルタイムに近い当時の感覚が織り込まれている。それまではお互いに仕事があり、夜しか顔を合わせなかった家族とずっと同じ空間にいるがゆえの諍い、外に出てもまともに行動の出来ない閉塞感。先行きの見えない社会、生活に起因する苦悩といった精神面のみならず、人気のない繁華街、荒れ果てた庭、各家庭の前に駐まったままの乗用車などなど、ロケーション的にも生々しい雰囲気を刻みつけている点は大いに意義がある。
 特筆すべきは、ハロッズ内部の撮影が認められたことだ。私もそれなりに映画を観ているつもりだが、この有名百貨店の内部を映画の中で拝んだ記憶が他にはない。平時はたとえ閉店時間中でも何らかの作業が行われ、セキュリティの観点から頑なに門戸を閉ざしていると思われるが、だからこそ、行動制限下に入り込む隙が生まれたのだろう。また面白いことだが、本篇の題材が強盗計画であればこそ、劇中の人物関係とタイミングという奇跡が生まれなければ突破できない強固なセキュリティを誇っていることも察せられるのだ。
 そしてもうひとつの美点は、この規模としては異例なほどにキャストが豪華なのだ。主役のキウェテル・イジョフォーとアン・ハサウェイというカップルも破格だが、細かな役に多少なりとも顔の知られた俳優が揃い、そんな中にベン・スティラー、ベン・キングズレーという賞レースにも名を連ねる俳優まで混ざっている。そこには恐らく、コロナ禍によって多くの撮影計画が中断に追い込まれ、スケジュールに余裕が生まれたこと、そして撮影期間が極めて短く(情報ではわずか18日間だったらしい)、かつオンライン会議などの出演であれば、わざわざスタジオまで出張することなく、何なら自身の事務所や自宅の一角でも撮影が可能、という利便性がもたらした恩恵だろう。ベン・スティラーやベン・キングズレーは、企画に興味を持てばちょい役でもわりと気軽に顔を見せるタイプの気はするが、そういう人びとの興味を惹くタイミングであり、企画であったことは間違いない。
 本国ではまだコロナ禍のさなかにある2021年に劇場公開もされたが満足のいく結果は残せず、日本でも同年にレンタルDVDが先行でリリース、そののちにデジタル配信にてセル、レンタルが始まったが、2023年現在に至るまで映像ソフトでのリリースはない。出来映えからすると致し方のないところかも知れないが、もしかしたら何十年か経ったあとで、時代の空気を生に近い形で取り込んだ作品として、珍重される可能性も秘めている。撮影される意義は確かにあった作品だと思う。


関連作品:
ボーン・アイデンティティー』/『Mr.&Mrs.スミス』/『ジャンパー』/『』/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』/『イースタン・プロミス』/『ハミングバード』/『マリアンヌ
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