ただ夢を売っただけだった。[レンタルDVD鑑賞日記その817]

 月額レンタルにて、またしても映画が入ってきてしまった。ちょうどテレビに見るものが何にもなかったのを幸いと6月7日に鑑賞。作品は、アーサー・ミラーの戯曲を映画化した1951年作品、長年奉職しながらも会社から冷遇されるセールスマンの悲劇を描く『セールスマンの死』を鑑賞。
 これを月額レンタルのリストに加えていたのは、アスガー・ファルハディ監督『セールスマン』の感想を書く上で、モチーフとなった戯曲のストーリーをちゃんと知っておきたかったから。調べると、映画版がふたつ製作されていたので、より古いほうをリストに入れてあったのです。
 想像していた以上に痛ましい話。Wikipediaでの戯曲版の粗筋を読むとそういう印象はないんですが、この主人公は明らかに心を病んでいるか、今で言う認知症に踏み込んでいる可能性がある。ただ、時代もあって、病だと受け取る者はおらず、それ故の冷遇に主人公の心は荒み、ますます常軌を逸していく。
 そのなかに濃密に刻まれた、この時代までのアメリカに蔓延っていたマッチョな思想、それがとうに限界を迎えているのが認められず、足掻く姿の痛々しさ。盲従した妻も、彼の期待に応えられず関係の悪化していた長男も、本質的には彼のそうした思想の犠牲者なのですが、それにも最後まで気づくことはない。この結末により、ある意味では自由にはなりましたが、それでも幸せとは言えない。
 主人公の認識の中で展開するドラマを実際に填め込んでいくことで、観客をも彼の世界に巻き込んでいき、共感こそさせられないまでも共鳴させてしまう。愚かではあるけれど善人ではあった主人公の辿る結末が悲しい作品です。

 しかしこのDVD、まったくリマスターなど施されていないようで、素材として用いたフィルムの傷、脱落があちこちにあって、だいぶ観づらい。まあ、アカデミー賞候補になったとはいえ、再上映の企画などでもあまり採り上げられる気配はなく、今更派手に売れる作品でもないと思われるので、致し方のないところかも。
 調べると、Prime Videoで配信されてましたが、こっちも画質的には似たり寄ったりなので、今のところは諦めるしかなさそうです。作品としての質は高いんだが。

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