どこにもいない、けどどこにでもいる。

 今日も今日とて映画鑑賞、行く先はTOHOシネマズ上野……すっかり邦画、アニメが中心となって独自性を確立した感があるのは悪くない、けどそのお陰で、今年は私のアンテナにかかるものが少なく、あってもプレミアムシアターでの上映も実施されているものがほとんどで、IMAXやDolbyのある別劇場に足を運んでしまう。故に今年は半分近く経ってようやく3度目の訪問。最近はここに限らず住み分けが進んでいるので、まあそういう時もある。
 鑑賞したのは、是枝裕和監督、坂元裕二脚本、坂本龍一音楽という極上の布陣による作品、地方の小学校での暴力事件を境に起きるドラマを複数の視点から描き出した怪物』(東宝×GAGA配給)
 素晴らしすぎました。最初、母親目線では教師の暴力行為とその隠蔽、という問題を思わせて、続く別視点では、一連の様相をがらりと変化させる。そして、その向こう側に潜む真実が、最終章に至って迫ってくる。
 この構成は驚きも生んでいますが、それ以上に、各々の視線に寄り添うことで、誰も決して悪意で動いているのではない、と観客に伝える点で効果を上げている。最初の母親視点の章では、不誠実に誤魔化されている、というもどかしさや苦しさが先に立ちますが、続く章ではまったく違う世界が見えてくる。ポイントでの出来事の一致から、同じ状況を切り取っているはずなのに、見え方が変わってきます。そこに鏤められた謎が、最終章であまりにも切なく狂おしく結晶して、観客を襲ってくるのです。
 脚本を担当していないので、従来とアプローチが異なるのも察せられますが、しかしそれゆえに、映像と表情の巧みな抽出によって登場人物に寄り添う、是枝監督の作家性の一面が強烈に際立っているのも面白いところ。海外でのコラボレーションを経て、新しい段階に入ったことを窺わせます。
 俳優のポテンシャルを引き出す監督の手腕も健在で、重要な人物を演じる4人が素晴らしい。けど個人的には、東京03・角田晃広の見事な教頭先生っぷりにニヤニヤさせられてしまいました――いや、03の人だ、という意識を切り離せば、完璧な芝居だったのよ。コントのような外連味は抑えて、微妙な状況に立たされた関係者の振る舞いをきっちり表現してました。
 ただひとつ不満なのは、カンヌ映画祭の結果です。評価されたことは喜ばしいし当然だと思う、けど、2冠のうちひとつは、正直余計だったと思うのです。作品のコアとなる部分は、観ることで初めて感じ取りたかったので、あのせいで察しがついてしまった。もうかなり報じられたあとなので今更ではありますが、もし万一にでも、「何のこと言ってるのか解らん」と思った方は、是非ともそのまんま映画館で鑑賞して、感じ取ってください。

 鑑賞後は、映画館からすぐそこのところに出来た新店、俺の生きる道 上野店へ。ここはいわゆる“二郎インスパイア系”で、色んな理由からこの系統は避けていたのですが、調べていくうちに、もうちょっと気軽に立ち寄ってみてもいいかな、という考えになってきたので、この機に訪ねてみた次第。詳しいレポートはそのうちにアップします。とりあえず美味しかったが、私にはやっぱし少々重めではあった。

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