原題:“Shaun of the Dead” / 監督:エドガー・ライト / 脚本:サイモン・ペッグ、エドガー・ライト / 製作:ニラ・パーク / 製作総指揮:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、アリソン・オーウェン、ナターシャ・ワートン、ジェームズ・ウィルソン / 撮影監督:デヴィッド・M・ダンラップ / プロダクション・デザイナー:マーカス・ロウランド / 編集:クリス・ディケンス / 衣装:アニー・ハーディンジ / 視覚効果スーパーヴァイザー:ポール・ダン / キャスティング:ジーナ・ジェイ / 音楽:ダン・マッドフォード、ピート・ウッドヘッド / 出演:サイモン・ペッグ、ケイト・アシュフィールド、ニック・フロスト、ディラン・モーラン、ルーシー・デイヴィス、ペネロープ・ウィルトン、ビル・ナイ、ピーター・セラフィノウィッツ、ジェシカ・スティーヴンソン、マーティン・フリーマン、ソネル・ダドラル、マット・ルーカス / WT2プロダクションズ製作 / 映像ソフト発売:Universal Pictures Japan
2004年イギリス作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:?
2004年12月22日DVD日本盤発売
2008年12月4日DVD日本最新盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2009/11/03)
[粗筋]
家電店で働くショーン(サイモン・ペッグ)はある意味岐路に立たされていた。長年付き合っている恋人のリズ(ケイト・アシュフィールド)がとうとうキレたのである。
家に居候させている友人のエド(ニック・フロスト)共々毎晩毎晩行きつけのウィンチェスター・パブに入り浸り、デートも十年一日の如くパブ。たまには違うプランを用意してみせて、と請われて、ようやくショーンは翌晩、魚料理の店に連れて行くことを約束する。
その一方、職場に義理の父フィリップ(ビル・ナイ)が現れ、次の日曜日、母バーバラ(ペネロープ・ウィルトン)のもとを訪ねる日であると念を押していった。再婚して17年経ってもショーンはフィリップが信用できず、バーバラのもとを訪ねるのも厭々になっていたのである。だが、さすがに念を押された以上、行かないわけにはいかない。ショーンは花束を購入して訪問に備える。
帰宅してから、目星をつけていた店に予約を入れようとしたショーンだったが、生憎直前に席は埋まっていた。そう告げると、リズは遂に彼に愛想を尽かす。弁解のためにすぐさまリズと友人ダイアン(ルーシー・デイヴィス)の暮らすアパートを訪れるが、機嫌を直すどころか、余計に態度を硬化させるばかりだった。
エドと共にヤケ酒を呷った翌日――実は世界はショーンの悩みなどどうでもいいほど酷い状況になっていたのだが、彼らがそのことを悟るには、しばしの時間が必要だった……
[感想]
本篇は一種、伝説の始まりのような作品である。パロディ精神を籠めた作品でありながら本家『ゾンビ』を上回る興収を上げた。コメディ作品は劇場公開しても動員が期待できない、という傾向からか日本では映像ソフトで発売されたのみだったが、それでも評判を呼び、同じ監督・キャストによる新作『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』がまたしてもDVD直行か、と囁かれると署名運動に発展し、遂に劇場公開が決定、単館系ながらロングランを実現した。
映画好きとしては是非とも観たい、と念じながらもなかなか機会に恵まれず、『ホット・ファズ』を劇場で鑑賞してから1年も経過してから、ようやく実物を確かめることが出来た。
……なるほど、これは熱狂的に受け入れられるのも頷ける。
基本はゾンビ映画のパロディなのだが、しかし決してそこに留まっていない。というより本篇の魅力は、各所にちりばめた描写を巧みに拾い集めながら紡ぎあげるユーモアの数々だ。冒頭の、およそゾンビ映画とは思えないプロローグの時点から妙に緩い笑いを盛り込んでいるが、そこで示された描写があとあとちゃんと活きてくる。かなり危険な空気を漂わせた恋人たちの会話の後ろで暢気にゲームをしたり注文を確認しに来る友人エドのまったく周囲に頓着しない言動が、のちのちちゃんと笑いに繋がっていく。他にも、ショーンが鏡を前に服装を直す様子やパブでの胡散臭い会話があとあとネタに絡んでいく様は、笑いと共に奇妙な昂揚感を齎す。実に緻密に考え抜かれた脚本だ。
無論、ホラー映画の常道もよく承知した上で、それを揶揄し、あるいはひねった趣向でも随所で擽ってくる。ゾンビがのろのろと襲いかかってくるあいだに投げつける物を「どれが大事か」で選別してみたり、大挙するゾンビのあいだを無事に切り抜けるためにゾンビのふりをしてみたり、リアルなのか不自然なのか、という瀬戸際で醸し出す笑いが実に味わい深い。
そうした練りに練ったユーモアが、イギリス映画特有の、音楽を多用したテンポのある演出でスピーディに繰り出されてくるので、終始飽きが来ない。如何せん、ベースがゾンビ映画であることは見失っていないので、血飛沫は舞うし内臓は抉るし、とグロテスクな描写も多く、そうしたものに苦手意識がある、嫌悪感を抱いているという人はそこだけで受け入れがたいだろうが、多少なりとも許容できる、という人ならばまず楽しめるはずだ。
ただ、終始コメディでいて欲しかった、と願う人にとって、クライマックスの一部はちょっと肩透かしを食った気分を味わうかも知れない。このあたりも基本はゾンビ映画のお約束を踏襲しているに過ぎないのだが、急に人間性の業を問い、ほのかに感動を誘うかのようなドラマが正面に浮かび上がってくる。けっきょくそのあとはちゃんとユーモアで締めてくれるが、最後まで突っ走って欲しかった、と思う人にはやや不満だろう。
ネタがネタだけに人によって合わないこともあるだろうし、多少の不満を抱くこともあるだろうが、少なくとも緻密に計算された、気合いの入ったコメディであることは誰も否定できまい。本篇が世界各国で受け入れられ、同じスタッフの新作が観客によってDVD直行の危機から救われる、といった展開こそ、その質の高さのいちばんいい証明である。
関連作品:
『ゾンビーノ』
コメント