原案・監修:清水崇 / 監督・脚本:安里麻里 / プロデューサー:一瀬隆重 / 製作:福原英行、原知行 / エグゼクティヴ・プロデューサー:加藤和夫 / コ・プロデューサー:西前俊典 / 撮影監督:金谷宏二,J.S.C. / 照明:藤川達也 / 美術:井上心平 / 編集:深沢佳文 / 録音:竹中泰 / 音響効果:志田博英 / 音楽:ゲイリー芦屋 / 出演:加護亜依、瀬戸康史、中村ゆり、高樹マリア、松本花奈、中園友乃、次原かな、重山邦輝、松嶋亮太、勝村政信 / 東映ビデオ CELL製作 / 製作プロダクション:オズ / 配給:東映ビデオ
2009年日本作品 / 上映時間:約1時間
2009年6月27日日本公開 ※『呪怨 白い老女』と同時上映
2009年9月21日DVD発売 [bk1]
公式サイト : http://www.juon2009.jp/
UDXシアターにて初見(2009/05/12) ※試写会
[粗筋]
――徹也(瀬戸康史)は隣室に住む裕子(加護亜依)という女性のことが気に懸かっていた。前は挨拶すれば朗らかに応えてくれる人だったのに、最近ふさぎ込んでろくに返事もしてくれない。
ある夜、薄い壁越しに喘ぎ声が聞こえてきて、「男がいるのか」と思いこんだ徹也は苛立ちのあまり壁に枕を投げつける。すると、壁の向こうから固いものを叩きつけるような振動が何度も、何度も響きはじめる。壁に接して置いた家具がはねのけられ、物が落ちるほどの衝撃に、徹也はおののいた……
――看護師である裕子は、最近任された芙季絵という少女の扱いに困惑していた。本当に病気なのかと疑いたくなるほど明るいいい子なのだが、彼女の周辺で裕子は異様なものを繰り返し目撃する。それはいつしか、芙季絵のいないときにも、裕子を悩ませるようになっていった……
[感想]
同時上映の『呪怨 白い老女』が映像のトーンまでオリジナルビデオ版『呪怨』を再現しているのに対し、こちらは焦げついたような色味の冒頭をはじめ、照明やカメラアングルに工夫を凝らしている。『呪怨』を中心に、様々なホラー映画へのオマージュを籠めているようで、幾分作家性が強い1本である。
しかし本篇も、ストーリーの部分で『白い老女』と同様の欠点を孕んでいる。呪いの源泉と思しき“黒い少女”について、背景の説明やその影響の仕方の説明が不充分で、話が進むほど彼女の登場により与えられるインパクトが摩耗しているのだ。
広告などではヒロイン格として謳われている加護亜依の登場するパートが、何故彼女にまで呪いが伝播したのか、何故ああいう影響の仕方になったのか最後まで解らず、全体から浮いた印象を齎すのも『白い老女』と同じだが、本篇の場合は更にもうひとり、浮いたイメージを齎す登場人物がいる。勝村政信が演じている、本篇の中心人物・芙季絵の父親だ。
父親なのだから、看護師という立場の加護亜依演じる裕子より因果関係は明白なように思えるのだが、本篇を観ていると、なぜあのタイミングで、ああした形で呪いが波及したのかがまったく判然としない。理不尽な呪い、というテーマを扱っているのだからそれで構わないようにも思えるが、だがこの作品は、観ていれば解るが父親を呪う必然性は多少存在する、と捉えられる。だからこそ、きっかけも影響の仕方も恣意的に見える処理が気になるのだ。
怪奇現象を扱ったホラーとして観ても、その表現の仕方が一貫していなかったり、全般に凡庸なのが惜しまれる。意識して怪奇現象そのものをじかに描写せず、目撃者の驚愕だけ捉えて場面転換する、という手法を何度か用いているが、のちに反復して効果を高めることをしていなかったり、やっていてもほとんど印象に残らない。『白い老女』に較べると若干ながら物語に謎を仕掛け、解き明かすことを意識しているのだが、その分だけ恐怖を演出することが疎かになってしまったように思われる。
ひとまずざっと欠点をあげつらったが、しかし本篇もまた全体の雰囲気はしっかりしていて、決して悪い印象は抱かなかった。『白い老女』のように、観ているだけで鳥肌の立つような場面は一部しかないが、積み重ねで薄気味悪さを表現することについては『白い老女』に負けず劣らず効果を上げている。
とりわけ、『呪怨』シリーズでは珍しい“悪霊祓い”を、かなり本格的に描いているのに好感を覚える。この“悪霊祓い”を行う人物は、霊感こそあれ本職ではないと見られるが、精進潔斎を行い、可能な範囲で準備を整えて儀式に臨んでおり、その過程を辿ることで緊張感と、相手がただならぬ代物であることをうまく表現している。儀式を経て発生するサプライズも、それ自体珍しいものではないのだが、儀式が真剣であるからこそ物語の中で効いている。
『白い老女』よりも一本化された物語がある分だけ、もう少し伏線に工夫を施し、見せる怪奇現象と直接見せない怪奇現象の使い分けを丁寧に調整していれば、かなりの傑作になったであろう手応えがあるだけに、非常に勿体ない仕上がりである。だが、それでもブームの後追いとして一時期量産されたホラー映画より遥かに誠実で、上質の1本であることは間違いない。
『白い老女』も本篇も、どうやら製作者たちは意識して、“伽椰子”という存在を真っ向切って提示することなく、その延長上にある“呪い”“恐怖”を描こうと試みたと思われる。そう考えると、どちらも怪奇現象の源泉を具体的に示さなかったのは決して間違っていない。
ただ、まがりなりにもヒットを飛ばし影響を及ぼしたシリーズの名前を冠している以上、旧作からのファンだけではなく、シリーズ名に惹かれた新しい観客が訪れることも想定して作るべきだっただろう。それを割り引いてさえ、『呪怨』シリーズをひととおり観てきた私のような人間でさえ、シリーズのスタイルを踏襲しながら充分には活かし切れていないアイディアに首を傾げざるを得なかったことを思うと、やはりもっと繊細な作り込みが必要だった。
――と、締め括りでもういちど腐してはみたが、『白い老女』も『黒い少女』も、伽椰子というモンスターの表現に特化する傾向にあった劇場版『呪怨』諸作より純粋に“恐怖”を追求した、味わいのあるホラー映画に仕上がっている。第1作がオリジナルビデオ版としてリリースされたことに敬意を表してか、劇場公開から間を置かず映像ソフトでの発売が決まっているので、近場で公開される予定がない、とお嘆きの『呪怨』ファンも楽しみにしていただきたい。
関連作品:
『呪怨』
『呪怨2』
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