原題:“Primer” / 監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽・出演:シェーン・カルース / 製作・出演:デヴィッド・サリヴァン / 撮影・出演:アナンダ・アダヤヤ / 出演:ケイシー・グッデン、キャリー・クロフォード、サマンサ・トムソン、チップ・カルース / 配給:Vap + Longride
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間27分
2005年9月24日日本公開
2006年3月24日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
DVDにて初見(2009/04/09)
[粗筋]
自宅のガレージに研究所を設け、勤務時間以外を技術開発に費やしているアーロン(シェーン・カルース)とエイブ(デヴィッド・サリヴァン)は、なかなか収益の上がらない現状に業を煮やし、画期的な機材の開発に臨む。
当初ふたりは、重力の影響を低減させる機械を制作するつもりでいた。しかし、彼らが設計した試作器は、まったく予想外の反応を示し始める。電力は異様に長時間持続し、中に収めた検体には、本来数年単位で生育する菌が繁殖した。
やがてアーロンは、単身ある実験を行い、成功させる。構造に手を入れ、力の影響を逆転させる――つまり、過去に遡る機械を開発してしまったのだ。
もともと独自に研究を進めていたこの装置は、研究所の仲間たちもその存在を知らない。そこでアーロンとエイブは、自宅の害虫駆除を行う、と偽って数日間仲間たちを閉め出し、より大きな装置を組み立てはじめた。仕上がったあとは、立てこもる場所を用意し、偶然にも関係者や“もうひとりの自分”と接触せずに済む状況を整える。――ふたりは、未来の情報を携えて過去に戻ることで、金を稼ぐことを目論んだのだ……
[感想]
どこをどう切っても、低予算映画だ。しかし、話の作り込みは決して低予算のそれではない――というより、予算が限られているからこそ、工夫出来るところは徹底的に作り込む、という姿勢が窺え、その点だけでも非常に好感の持てる映画である。
だが、かといって万人に薦められる作品ではない。
作り込んでいるのは確かだが、セットを組んでいるわけではなくロケーションを厳選しているわけでもないので、映像的にあまり見応えがなく、終始地味な印象を与える。
本篇でいちばん肝要な部分はラスト15分程度で語られるパートだが、あまりに入り組みすぎていて、とうてい1回観ただけでは理解できない。1回ですべての解決を理解し、衝撃を受けるなり感動を味わうなりしたいという人には向かない趣向になっている。
構造の入り組んだ謎解きを好むような観客向けの作品と言えるのだが、かといってそういう観客であっても、本篇に惚れ込みのめり込むとは言いがたい。肝心のクライマックスが、改めて冒頭から観直して検証したい、と考えるほど衝撃的なサプライズを齎すわけでもなく、感情表現に奥行きを感じさせるわけではないからだ。入り組んだクライマックスが冒頭で覚える違和感を解消するわけでもなく、主人公たちの冒頭と結末との表情の違いで何かを演出しようとしているわけでもないので、観る側に「仕掛けの一つ一つを吟味しよう」という気にさせてくれない。吟味する、という行為自体を楽しむことの出来る人でなければ、あまり魅力を感じられないだろう。
――と、否定的な要素を連ねたが、しかしSFスリラーとして、そうしたジャンルの小説をよく読むような層をも唸らせる水準まで、非常によく練り込まれた作品であることは間違いない。時間を跳躍する装置が誕生するまでの経緯に、科学的に正しそうな雰囲気を付与する手管は見事だ。そこで安易な“近未来”っぽいモチーフを用いる必要すらないほど、会話でもってSFを成立させている。
剣呑な出来事がほとんどないのに緊迫感を漂わせる演出も巧みだ。自分たちの行為そのものに違和感を覚え、経験が役に立たない領域に足を踏み入れたことへの不安と恐怖に苛まれ、最後にはもはや状況を把握しきれず混沌の淵から世界を観ているような感覚に陥れていく。序盤の流れが理解できないと想像しづらいのが難点ながら、あそこで拒絶反応が起きなかったような人であれば、ラストにおける主人公たちの心情を直感的に受け入れられるはずだ。
エンタテインメント、と呼ぶには、凝りすぎた作りが足を引っ張っている感は否めないものの、翻って、描写やシチュエーションを徹底的に検証したくなるような作品が観たい、と感じていたような人の渇はきちんと癒してくれるだろう。
叶うならば、本篇の監督にはもっと予算と設備を整えたうえで、更にエンタテイメントであることにも気を配った作品をいちど作って欲しい、と思ったのだが、既に本国での発表から5年近く経過しているというのに、新作を手懸けているという情報はない。やはり、腰を入れて謎や構造を作り込んだ映画は、あまり一般には受けない、という評価なのか。
或いは、本篇1作を完成させたことで納得して、表舞台を退いたのかも知れない。いずれにしても、残念なことだ――こういう映画自体は、もっと世に問われてもいいと思うのだけど。
コメント