原題:“All the President’s Men” / 原作:カール・バーンスタイン&ボブ・ウッドワード / 監督:アラン・J・パクラ / 脚本:ウィリアム・ゴールドマン / 製作:ウォルター・コブレンツ / 撮影監督:ゴードン・ウィリス / プロダクション・デザイナー:ジョージ・ジェンキンス / 編集:ロバート・L・ウォルフ / キャスティング:アラン・シェイン / 音楽:デヴィッド・シャイア / 出演:ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォード、ジャック・ウォーデン、マーティン・バルサム、ハル・ホルブルック、ジェイソン・ロバーズ、ジェーン・アレキサンダー、メレディス・バクスター、ネッド・ビーティ、スティーブン・コリンズ、ペニー・フラー、ジョン・マクマーティン、ロバート・ウォルデン、フランク・ウィリス、F・マーリー・エイブラハム / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.
1976年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫
1976年8月7日日本公開
午前十時の映画祭9(2018/04/13~2019/03/28開催)上映作品
2018年3月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
TOHOシネマズ錦糸町 楽天地にて初見(2019/3/5)
[粗筋]
1972念6月17日、ワシントンD.C.のウォーターゲートビルで、警備員がドアに貼られた奇妙なテープに気づく。通報を受けた警察が捜索すると、5名の侵入者を発見した。
ワシントン・ポスト紙の新米記者ボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)は、上司ハワード・ローゼンフェルド(ジャック・ウォーデン)に命じられ、侵入者達の法廷の取材に赴く。5人が侵入したのが民衆党全国委員会の本部オフィスであったことも謎だったが、5人がみな所持金は多く生活が豊かであること、それぞれに経歴も立派であり侵入した動機が未だ不明であることも話題となっていたが、ウッドワードは注目したのは、法廷に国選ではない弁護士が現れたことだった。逮捕から最初の審理までのあいだに被疑者が弁護士に連絡を取った形跡はなく、侵入が予め報告されていた可能性がある。
一方、同じワシントン・ポスト紙に16歳から勤めるカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)もまた、ウォーターゲートビルの侵入事件に関心を抱いていた。ウッドワードが用意した記事の初稿は会議にかけられ、政治部の記者に任せるべきだ、という意見も提示されたが、ローゼンフェルドの推薦によってウッドワードとバーンスタインが正式にこの事件の調査を推進することになった。
だが、調査は決して容易ではなかった。関係者にインタビューを重ねるが、誰もが口止めされているようでなかなか情報が引き出せない。唯一の頼りは、ウッドワードが連絡を取ることが出来た情報提供者“ディープ・スロート”(ハル・ホルブルック)である。金銭の流れを追え、という“ディープ・スロート”の助言に従い、侵入者のひとりが得た大金の出所を探ったところ、浮上したのは現大統領リチャード・ニクソンの所属する共和党の選挙対策事務所だった。
現政権与党の不法行為を暴く――決して誤報の許されない疑惑を前に、ふたりの記者は更なる裏付けを得るため、更なる証言を引き出そうと駆け回る――
[感想]
詳細は知らずとも名前くらいは知っている、“ウォーターゲート事件”の背景を、ジャーナリストの立場から炙り出した過程を追ったドラマである。
なにせ、大統領を辞任にまで追い込んだ出来事である。着眼点はいいし、自然と惹きつけられる――が、如何せん、作りが平坦なのがもったいない。
現代と異なり、通信手段も移動手段も限られている。なので、どうしても登場人物たちが行く場所も限られ、その行為もおおむね関係者へのインタビューに絞られてしまう。単なる侵入事件のはずが、次第に黒幕の姿が見えてくるプロセスは刺激的なのだが、如何せん絵面も物語の変化も同じようにしか起きないので、率直に言って少々退屈なのだ。
しかも、劇中で交わされる会話がどんな意味を持つのか、解説するような描写も乏しいので、いったん理解が追いつかなくなると完全に置いてきぼりになる。当時のアメリカを中心とする社会情勢をいちから知るつもりで鑑賞するにはだいぶハードルが高い作りと言えよう。
観客に対する譲歩や妥協をあまりしていない代わり、本篇には終始、異様なリアリティが感じられる。立ち位置によって異なる取材対象の反応、芝居がかった駆け引きもなければ大袈裟なリアクションもなく、淡々と事実を積み上げていく記者達の姿。どれほどドラマティックな事件を追っていたとしても、実際の取材現場はこんな雰囲気なのだろう、というのが実感できる――ただ、前述のような問題もあって、『スポットライト』や『ペンタゴン・ペーパーズ』といった、近年発表された、似たような登場人物と事態の推移を辿った事件の映画化が如何に洗練された作りになっているのかがよく解ってしまう、という嫌味もある。
終始淡々と進むので、知識が追いつかないと辛い、とは言い条、画面上で流血沙汰はおろか、激しい追跡劇などの見せ場がないにも拘わらず、じわじわと緊迫感が醸成されていくのは見事だ。最終的に中心人物となるふたりの記者は命の危険さえ意識するのだが、そこに説得力が備わるのは、安易に煽らず、しかし堅実に情景や演技を積み重ねていればこそだ。監督が選んだストイックな演出と、それに応えた俳優たちの静かな熱演は、手段としては間違っていない。
多少なりともアメリカの当時の状況について知識がないと追いつかない、というハードルはあるが、それ故に渋みのあるサスペンスに仕上がっている。政治とジャーナリズムを題材としたハードボイルド、とでも言えばいいだろうか。
関連作品:
『アラバマ物語』/『ソフィーの選択』/『明日に向って撃て!』/『目撃』/『ドリームキャッチャー』/『ワイルドカード』
『真夜中のカーボーイ』/『追憶』/『十二人の怒れる男』/『オリエント急行殺人事件(1974)』/『ダーティハリー2』/『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』/『シティヒート』/『理由(1995)』/『アマデウス ディレクターズ・カット版』
『フロスト×ニクソン』/『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』/『ウォッチメン』/『ロビイストの陰謀』/『ブッシュ』/『大いなる陰謀』/『マン・オン・ワイヤー』
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