原題:“Ralph Breaks the Internet” / 監督:フィル・ジョンストン、リッチ・ムーア / 原案:リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン、ジム・リアードン、パメラ・リボン、ジョシー・トリニダッド / 脚本:フィル・ジョンストン、パメラ・リボン / 製作:クラーク・スペンサー / 製作総指揮:ジョン・ラセター、ジェニファー・リー / 撮影監督:ネイサン・ワーナー / プロダクション・デザイナー:コーリー・ロフティス / アート・ディレクター:マティアス・レクナー / 編集:ジェレミー・ミルトン、ファビアン・ロウリー / 音楽:ヘンリー・ジャックマン / 声の出演:ジョン・C・ライリー、サラ・シルヴァーマン、ガル・ガドット、タラジ・P・ヘンソン、ジャック・マクブレイヤー、ジェーン・リンチ、アラン・テュディック、ビル・ヘイダー、アルフレッド・モリーナ / 日本語吹替版声の出演:山寺宏一、諸星すみれ、菜々緒、浅野まゆみ、花輪英司、田村聖子、野中秀哲、上田燿司、広田みのる、所ジョージ、石塚勇、岩崎ひろし、宮﨑敦吉、HIKAKIN、遠藤憲一、小鳩くるみ、鈴木より子、すずきまゆみ、小此木まり、平川めぐみ、麻生かほ里、土居裕子、鈴木ほのか、中川翔子、大島優子、松たか子、神田沙也加、屋比久知奈 / 配給:Walt Disney Japan
2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:川又勝利 / 吹替翻訳:杉田朋子
2018年12月21日日本公開
公式サイト : http://Disney.jp/SugarRushOL
TOHOシネマズ上野にて初見(2019/1/8)
[粗筋]
リトワクさんが経営する古いゲームセンターでは毎晩、灯りが落ちると、ゲーム内の登場人物たちが回線の中に集まり、昼間とは違う生活を謳歌している。
6年前に起きた事件をきっかけに、『フィックス・イット・フェリックス』の悪役であるラルフ(ジョン・C・ライリー/山寺宏一)と、レースゲーム『シュガー・ラッシュ』のレーサーであるヴァネロペ(サラ・シルヴァーマン/諸星すみれ)は親友になった。店内の他の筐体にお邪魔してゲームを楽しんだり、ゲーム内のバーでふたり談笑したりしている。かつて友達の居なかったラルフには幸せな日々だったが、刺激を求めるヴァネロペには少々物足りないらしい。本業である『シュガー・ラッシュ』のレースにも、満足していない様子だった。
そこでラルフは昼間、『シュガー・ラッシュ』の世界に侵入し、コースを作り替えてしまう。目論見どおりヴァネロペは大喜びだったが、外の世界では大変なことが起きていた――ちょうど『シュガー・ラッシュ』をプレイしていた客が、言うことを聞かないキャラクターを無理矢理動かそうとした結果、ハンドルが壊れてしまったのである。
『シュガー・ラッシュ』の筐体を作った会社はとうに無くなっていて、代わりのハンドルを購入するにはネットオークションで『シュガー・ラッシュ』が1年間に稼ぐよりもたくさんのお金が必要になる。リトワクさんは『シュガー・ラッシュ』の電源を抜き、交換用の部品として売り捌く方を選んでしまった。
ヴァネロペたちゲーム中のキャラクターたちは電源が抜かれる前に回線のなかに避難したが、当然彼らに帰る場所はない。落ち込むヴァネロペを前に、ラルフは知恵を絞り、やがて閃いた――先ほど、リトワクさんたちが言っていた“ネットオークション”というものに入り込んで、ハンドルを調達してくればいい。
ちょうどその頃、リトワクさんのお店では店内にWi-Fiを導入したばかりだった。ラルフとヴァネロペは立入禁止のテープを越えて、ネットへと飛び出す。
そこから先には、ふたりの見たこともない世界が広がっていた――
[感想]
前作は、多くの観客が知っているゲームのキャラクターを登場させたり、実在せずとも心当たりのある要素を盛り込んだりしており、それを発見することがまず大きな楽しみとなっていたが、6年振りの続篇となる本篇でもその路線は引き継いでいる。
むしろ、その趣向をより掘り下げた作りと言っていい。今回はゲームセンターがインターネットに繋がったことで、SNSやネットオークションなども現実を戯画化した形で取り込まれている。これがいちいち的を射ていて観る者の気持ちをくすぐる。擬人化された検索エンジンは、提示された単語の1文字目から内容を推測して提示しようとするし、ポップアップ広告があちらこちらに徘徊していて、ときどきセキュリティにブロックされたりする。
しかし今回、何よりも注目したいのは、ディズニーのキャラクターや世界観をこれでもかとばかり引用しまくっている点だろう。予告篇でも採り上げられている、白雪姫やシンデレラ、最近なら『アナと雪の女王』まで、ディズニー・アニメの“プリンセス”たちが一堂に会している場面はもちろん、『スター・ウォーズ』のC3POやR2D2にストームトゥルーパー、更にはマーヴェルのあるキャラクターまで、ディズニーが権利を持つ作品のモチーフが随所に盛り込まれている。この豪華さ、贅沢さはちょっと比類がない。
そうした趣向、サーヴィスの類が過剰であるせいか、実のところストーリーの骨格はわりあいシンプルだ。劇中のゲーム『シュガー・ラッシュ』の筐体を直してもらうために部品を調達する、という発想から始まる冒険が導くのは、主人公ふたりの自己発見であり、友情に対する試練だ。
もともと好奇心旺盛なヴァネロペは、新しい世界に触れることで初めて自分の認識や目標を発見するが、その事実がいまの環境や昔からの関係を壊すことを怖れる。一方でラルフは現状にまったく不満を抱いていない。だからヴァネロペの心情がいまひとつ理解できないし、物語中盤で行動を起こした彼女に裏切られたような想いを抱く。彼らの置かれた環境や属性じたいは現実と乖離しているが、その本質はどこにでもありふれた出来事や感情と変わらない。だから観客は、二人の言動を自分や周囲に当て嵌めて鑑賞してしまうはずである。
終盤、事態はかなり派手な騒動に発展するが、その決着への流れも理に適っている。細かくは書かないが、シチュエーション的にはこの設定に添ったものだが、対処の仕方は納得がいきやすい。見せ場としても成立しているが、繊細な感情の問題にも大胆な締め括りはなかなかよく出来ている。
多数の趣向を盛り込みつつ、難しいテーマをシンプルにそつなくまとめるのは、脚本設計の段階で熟考を重ねるディズニー作品らしいが、しかし本篇を最も特色づけているのは、実はその随所にちらつく“毒”かも知れない。ネット上に現れるアバターたちの立ち居振る舞いや、「イメージを求められて楽な服が着られない」と嘆くプリンセスたちなど、システムや共通認識を皮肉るような描写がちりばめられている。基本的にはそれらについて知識がある観客をニヤリとさせるユーモアとして機能しているが、そうした細かな“毒”が本篇に、他のディズニー作品と異なる味わいを添えている。
その味付けの巧さが本篇の魅力である、とは言い条、少々“毒”が効きすぎている箇所がある。本篇にも散見されるが、いちばん強烈なのがエピローグ、というのは引っかかるところだ。これも大人の眼から見ればユーモアの範疇だが、低年齢層にはちょっとした衝撃だろう。
翻って、そうした描写の方向性からして、本篇は低年齢層ではなく、一定量のエンタテインメントや、インターネット文化に接してきた層にこそ照準を合わせて製作されたことが窺える。親しみやすいキャラクターや世界観は、とりあえず年少の観客たちに対する門戸を広げる役割を果たしているが、この作品を本当に楽しめるのはより上の世代か、幼くして鑑賞した層が成長したあとだろう。ゲーム版『トイ・ストーリー』のような印象を与えるシリーズだが、実は少し違ったところを狙っているようだ。
関連作品:
『トイ・ストーリー3』/『メリダとおそろしの森』/『アナと雪の女王』/『ズートピア』/『トロン:レガシー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
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