常に企画上映で、往年の傑作や隠れた名作、珍品などをフィルム中心でかけ続けている神保町シアター。知らない作品でもけっこう楽しめることが多いので、折に触れチェックはしているのですが、なかなか時間が合わず、しばらくご無沙汰になってました。現在上映しているのが、小津安二郎の生誕115年を記念し、女優に焦点を当ててセレクトされた小津作品。小津監督の映画はなるべく最初は映画館で観る、というルールを敷いてしまった私には格好の企画、なのですが、さすがに全部は押さえられないので、予めチェックしていたうちの一つを鑑賞するべく、午後からの用事が終わったあとで出かけてきました。
鑑賞したのは、1957年の作品、それぞれに苦しみを抱えた母子の再会が導く哀しいドラマを静かな筆致で描いた『東京暮色』(松竹大船初公開時配給)。なんで特にこれを選んだかというと、宮部みゆき初期の長篇に『東京殺人暮色』という作品があって*1、たぶんそのタイトルの元ネタになっているであろうこれがずーっと気になっていたからだったり。
予めネットでおおまかな情報は得ていましたが、ほんとに救いのない話でした。驚くべきは構図――後年の『東京物語』や『秋刀魚の味』と似通った構図が非常に多い。変化がない、というより、その構図で汲み取れる情感をよく理解しているからこそ、繰り返し利用している、と見るべきでしょう。そして、似たような構図、決して声を荒げたり拳を振りあげたりしない静かな展開でも、醸成する余韻の違いに驚かされます。やや長めの尺ですが、表現に無駄がなく、終始漲る緊張感に、最後まで引っ張られてしまう。なにせ観終わっていい気分はしないので、安易にはお薦めしづらい作品なんですが、個人的には前年度の午前十時の映画祭8でかかっていた『麦秋』よりもこちらのほうが好き。話は厭だし出ている人もだいぶひどい奴が混ざってますが、それでも映画としては見事だと思う。
ずーっと残り1個のところで止まっていたスタンプカードが貯まったので、また近いうちに来るつもりです。たぶん次も小津作品。
*1:文庫化に際して『東京下町殺人暮色』となり、更に現在は『刑事の子』に改題してます。
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