原題:“敗家仔” / 英題:“The Prodigal Son” / 監督:サモ・ハン / 脚本:サモ・ハン、バリー・ウォン / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影:リッキー・ラウ / 照明:チェン・ワイイン / 小道具:ホワン・シュンチャン / 衣裳:チュー・シェンシー / メイク:チャン・クォックホン / 編集:チョン・イウチョン / 武術指導:サモ・ハン、ユン・ピョウ、ラム・チェンイン、ビリー・チャン / 詠春拳指導:ガイ・ライ / 音楽:フランキー・チャン、フィリップ・チャン / 出演:ユン・ピョウ、フランキー・チャン、ラム・チェンイン、サモ・ハン、チャン・ロン、チョン・ファ、ディック・ウェイ、ウェイ・パイ、チン・ユッサン、リー・ホイサン、ウー・マ、ジェームズ・ティエン、チョン・ケンポー、ホー・ワイハン / ゴールデン・ハーベスト製作 / 映像ソフト発売元:TWIN
1981年香港作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開(1989年1月19日テレビ初放送)
1990年12月21日日本版ビデオソフト発売
2017年2月28日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|傑作カンフー映画ブルーレイコレクション:amazon]
傑作カンフー映画ブルーレイコレクションにて初見(2017/03/05)
[粗筋]
リョン・チャン(ユン・ピョウ)はその頃、仏山において右に出るもののない“暴れん坊”として名が通っていた。武術を学び喧嘩は200戦負けなし、と豪語しているが、その実、富豪である親がこっそり手を回し、金にものを言わせて手加減させ、沈黙を守らせていたのだ。
あるとき、仏山に“豊年座”という旅の劇団が訪れる。その女形ルン・イータイ(ラム・チェンイン)が、彼を本物の女と勘違いして襲いかかった男たちを撃退した。男たちはチャンに助太刀を求め、意気揚々と劇団に乗り込んでいく。従者のチャイ(チャン・ロン)はいつものように主君の目を盗んでルンを買収しようとするが、ルンは耳を貸すことなく、チャンを痛めつける。
師事していた武道家も自分を立てていたに過ぎない、と知ったチャンは絶望すると同時に、改めて本気で武術を学びたいと考えはじめる。そこでチャンは、ルンに弟子入りを志願した。
しかしルンは何か思うところがあるようで、一向に首を縦に振らない。劇団が仏山を離れ広州に赴くことを知ったルンは、親に懇願して、“豊年座”をそっくり買収、ルンの付き人として無理矢理同行するのだった。
チャンは知るよしもなかったが、この頃広州には、もうひとりの“ドラ息子”がいた。時の大公の息子(フランキー・チャン)もまた自らの武術の腕を試すべく、方々で武術家に戦いを挑んでいたのである。そんな公子が、たまたま目撃したルンの功夫に、闘志を掻き立ててしまった。このことが、“豊年座”に思わぬ災厄をもたらしてしまう――
[感想]
『プロジェクトA』、『スパルタンX』などで優れた身体能力と長年苦難を共にしてきたからこそのコンビネーションを示してきた“ゴールデントリオ”のひとり、ユン・ピョウの主演作であり、同じくトリオのひとりサモ・ハンが監督と出演を兼ねた、カンフー映画である。
言うまでもなくこのトリオのうち最も名が通り評価も高いのはジャッキー・チェンだが、サモ・ハンは当時から出演のほか監督、武術指導、更にはプロデュースの面でもヒットを飛ばしており、いまでも香港映画界において重鎮として活躍を続けている。勢い、自身で監督した長篇は1本だけ、主演作も決して多くないユン・ピョウの名はどうしても印象が薄い。ただ、その身体能力の高さは、盟友だからこそ熟知しているのだろう。ジャッキー作品でもしばしば顔を見せているほか、サモ・ハンは自らの監督作で積極的にユン・ピョウを起用していた。本篇ではそうしたユン・ピョウの才能、魅力がかなり明稜に窺える。
内容的には古典的なカンフー映画だ。挫折から修行に入り、クライマックスで復讐劇に臨む。その随所にコミカルな描写が鏤められているあたりは、それこそジャッキー・チェンを一挙にスターダムへと押しあげた『スネーキーモンキー/蛇拳』『ドランクモンキー/酔拳』のテイストが色濃い、と言える。表面だけ見れば工夫に乏しく、極端なことを言ってしまえば、主役がジャッキーでない分、物足りなくさえ思えてしまう。
だが、そういう色眼鏡で鑑賞しても、たぶんだんだんと唸らされるはずだ。完成度という意味では、前述したジャッキーの出世作よりもレベルは高いのである。
香港映画らしい大袈裟な描写、雑な組み立ても目につくことはつくが、ストーリー上必要なものは決して外していない。主人公であるリョン・チャンは当初、そうと知らずに庇われていたために己の実力を知らず驕っていたが、劇団の女形である武術の達人ルン・イータイに倒されて初めて非力を悟る。弟子入りを拒むルンにまとわりつくうちに事件が起こり、逃亡の挙句にようやくルンと、その兄でありルンを上回る達人である人物の指導を仰ぐことが叶う。ところどころ強引さも見られるが、流れはうまく組み立てられている。
しかもその展開の中に、巧妙な起伏が盛り込まれている。騙されているチャンの滑稽さ、女形の振る舞いのまま言い寄る男たちを翻弄するルンのハッタリの効いた言動。両者が初めて邂逅した際、唐突にミュージカルが始まってしまうのは珍妙だが惹かれてしまう。
直後に挫折するチャンの姿は沈痛だが、開き直るとふたたびコミカルな描写が続き、しかしその随所に公子登場のくだり、劇団を見舞う悲劇といった壮絶な場面も盛り込まれる。この緩急自在の構成が、ありきたりな枠組をほとんど意識させず観るものを惹きつけてしまう。
そして、全篇に亘って満遍なく組み込まれたアクションの鮮やかさは言うまでもない。作中では“弱い”と言われながらも序盤から驚異的な身体能力を示すユン・ピョウが躍動し、ブルース・リーの流れを汲むラム・チェンインがそれを翻弄する達人として見事に受け止める。自ら演出まで担ったサモ・ハンが登場して以降の約30分は、アクションもユーモアもハイテンションが持続する。あまりに勢いづいているから、「これ本当に終わるのか?」とちょっと不安になるほどだ。
これらのアクションに、しっかりとチャンの成長を織り込む手管も堂に入っている。はじめから見た目の身体能力は高いが、そこに細かなテクニック、心懸けを教え込む描写を入れることで、しっかりと成長が窺えるように仕込んでいるのだ。最後の戦いは流血描写もふんだんな激しいものだが、一種の感動さえ呼び起こすのは、その伏線が効いているからに他ならない。
ジャッキー・チェンの成功を踏まえつつも、そこに甘んじない心意気をしっかりと感じさせる、カンフー映画の秀作である。
ちなみに本篇の主人公リョン・チャンは実在の人物だそうだ。ブルース・リーも学んだ詠春拳の名手であり、“詠春拳王”とまで呼ばれていたらしい。やはり実在の武術家・黄飛鴻の若き日という体裁で描かれた『酔拳』を彷彿とさせる構想は、ある程度は何匹目かのドジョウを狙っていた、と思しい。
だがそんな思惑は別として、『酔拳』を下敷きに、経験を重ねてブラッシュアップした本篇のクオリティは公開当時、香港でもちゃんと評価されていたようで、本篇は香港電影金像奨にてこの頃新設されたばかりの最優秀アクション部門賞を獲得している。
やはり、決して単なる二番煎じではないのだ。
関連作品:
『五福星』/『七福星』/『香港発活劇エクスプレス 大福星』/『スパルタンX』/『サイクロンZ』/『ファースト・ミッション』
『ヤング・マスター/師弟出馬』/『プロジェクトA』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』/『ライジング・ドラゴン』/『燃えよドラゴン』/『SPL/狼よ静かに死ね』/『処刑剣 14 BLADES』
『ドラゴン 怒りの鉄拳』/『イップ・マン 序章』/『イップ・マン 葉問』/『グランド・マスター』
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