監督&脚本:白石晃士 / 撮影:四宮秀俊 / 美術:安宅紀史 / 照明:蒔苗友一觔 / 装飾:山口智也 / 特殊造型デザイン:百武朋 / VFXスーパーヴァイザー:村上優悦 / 編集:和田剛 / 録音:湯脇房雄 / 音響効果:大河原将 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:聖飢魔II『呪いのシャ・ナ・ナ・ナ』(Ariola Japan) / 出演:山本美月、玉城ティナ、佐津川愛美、田中美里、甲本雅裕、安藤政信、菊地麻衣、七海エリー、遠藤留奈、芝本麟太郎 / 制作プロダクション:ダブル・フィールド / 配給:KADOKAWA
2016年日本作品 / 上映時間:1時間39分
2016年6月18日日本公開
公式サイト : http://sadakovskayako.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2016/6/18)
[粗筋]
電子機器に強い有里は、親友・夏美(佐津川愛美)の頼みで、彼女の両親の結婚式を記録したVHSビデオをDVDに複製することになった。リサイクルショップで格安のデッキを見つけて購入、有里の部屋でダビングをすることにしたが、デッキには薄汚れたカセットが1本、挿入されたままになっていた。有里は好奇心からそれを再生してみるが、たまたま目をそらしてしまった有里に対し、夏美は恐怖におののいて訴える。これは、呪いのビデオかも知れない――
ふたりがデッキを購入したリサイクルショップを訪ねると、そこでは恐ろしい事件が起きていた。アルバイトの店員がなんの前触れもなく店内で自殺した、というのである。聞けば、デッキの持ち主は孤独死した老人で、遺体を発見した民生委員も謎の自殺を遂げていたという。
同じころ、女子高生の鈴花は両親の都合で引っ越すことになった。新居の真向かいには、近所で“幽霊屋敷”という噂の立つ、1軒の廃墟があった。鈴花はその家の前で、4人の男の子たちを目撃する。そのなかのひとりの悄然とした姿が気懸かりだったが、翌る日、4人全員が行方をくらました、と知ると、鈴花は彼らの失踪にあの呪われた家が絡んでいる気がして、恐怖に苛まれる。
有里と夏美は、彼女たちの通う大学で都市伝説を研究題材としている教授に助けを求めた。自分もビデオを確認した教授は本物らしいと判断、かねてから交流のあった霊能者のもとへ夏美を連れて行く。しかし、夏美にかけられた呪いは、並大抵のものではなかったのだ――
[感想]
『リング』の貞子と『呪怨』の伽椰子は、間違いなく近年の日本が生み出した最強のホラー・モンスターだろう。では、両者を対決させたら、どちらのほうが強いのか? ……冗談で空想はしても、本気でこの対決が実現する、などと考えていたひとはきっとそれほど多くなかったはずだ。本篇を立案したひとびとを別にすれば。実際に作る、と聞いても、出来栄えに対して不安を抱くひとが大半だっただろう。
その点、本篇は恐らく、まるっきり失望はさせない仕上がりとなっている。いや、私感ではあるが、たぶんこれ以上はない、というくらい完璧な出来映え、と言っていいのではなかろうか。
実は貞子と伽椰子、というのは同じ“呪い”をベースにしたモンスターではあるのだが、依って立つ価値観が根本的に違っている。
『リング』によって描かれた貞子は、ビデオの映像を観ることで感染する一方、呪いを回避するためのルールが厳格に存在する。もともとミステリの賞に投じられた小説であった、という背景もあるのだろうが、影響は物理を超越していても、伝播のメカニズムは極めて論理的なのだ。ゆえに、初期のスタイルでは回避する手段も存在できた。
それに対し、伽椰子と俊雄の呪いはかなり理不尽だ。最初は彼女たちが暮らす家に踏み込んだものに対して無差別に発動する。それどころか次第に、伽椰子たちの家にちょっとでも関わった人間から、その人物に接した者までが対象に含まれていき、呪いの拠り処が増えていく、という破滅的な様相を呈していく。理屈はほとんど通用せず、私の記憶する限り、このシリーズのなかで伽椰子たちの呪いから逃れられた者はひとりとして存在しない。
……というふうに考えていくと、実は伽椰子のほうが始末に負えないんじゃないか、という気がしてくるが、そこはそれ。本篇は、斯様に似ているようでいて異なるふたつのキャラクターを“対決”させるために、きちんと配慮した描き方をしている。
如実な点は、この両者をいずれも“都市伝説”に組み入れて語っていることだ。実在していればそれは都市伝説などではない、とも言えるが、実物に接していないうちはあくまで出所の怪しい噂に過ぎない。そこに着目して両者をいったん都市伝説に吸収することで、両者の持つ特異性を一部排除し、ほぼ同じ土俵に立たせることに成功した。
この工夫が意図的であることは、劇中、粗筋で記したよりもあとに登場する人物のひと言が証明している。実は、オリジナルのルール通りであれば、貞子の呪いから回避していたはずの人物が存在するのだが、結果的に呪いの発動よりも早く死んでしまう。それに対し、忌々しそうに「無駄死にだ」と言い放つのである。劇中ではそれ以上は追求していないが、『リング』の趣旨を知っているひとならハッとする呟きであり、剣呑なひと幕にも拘わらずニヤリとさせられもする。
単純にルールを伏せるだけでなく、たとえば貞子は“呪いに感染すると電話がかかってくる”というルールが加えられていたり、というオリジナルからの変更がところどころ見受けられるのだが、両者の最も強い特徴は損なわない配慮をしている。そしてそのうえで、ちゃんと両者の特性を活かした恐怖の演出も施されているので、おふざけの印象のある企画ながら、正統派のホラーならではの戦慄も感じさせてくれる。
そしてその上で本篇は、一種の“お祭り”であればこその遊びと昂揚感もしっかりと盛り込んでいるのだ。
放っておけば交錯する場面のなさそうなふたつの怪異を対決に持ち込むための発想、そのための手順など、一種乱暴ではあるのだが、それ故に“何が起きるか解らない”昂揚感がある。そこに緊迫した恐怖を感じるひともいるだろうが、他方でこのあたりから言いようのないワクワク感を覚えるひとも多いはずだ。このあたりからクライマックスにかけて、“怖い”と感じるひとは減るだろうが、そのぶん“面白い”と思うひとは増えているに違いない。
ここで幸いしたのは、監督が白石晃士だったことである。
長年、P.O.V.のスタイルの探求と共に、実験的なホラー映画を撮り続けてきた白石監督は近年、その両者で研ぎ澄ませたセンスを凝縮したようなシリーズ『コワすぎ!』で人気を博している。ホラーの文法よく理解しているからこそ可能な趣向に彩られたこのシリーズだが、しかしその面白さはホラーという枠に縛られない発想があればこそだ。形に囚われない、インパクトをあえて重視した語り口が、ホラー愛好家に留まらず喜ばれたからこそ人気を博したのだろう。特に『コワすぎ!』を筆頭とする近年の作品群は、登場するキャラクターに必ず強烈な印象を残す者があり、個性を際立たせる技にも長けている。
ホラーの技巧を熟知し、サーヴィス精神も旺盛、何より“面白い”作品たらんとすることに貪欲な白石監督が手懸けたことで、本篇は日本産ホラーの手法を踏まえ、貞子と伽椰子のキャラクター性をきっちり強調しながらも、独自性に富んだクライマックスへと結びつけた。同ジャンル内で別の世界に属していたはずのモンスターやヒーローを対決させる、という趣向は決して珍しくないが、本篇のようなカタルシスをもたらす作品はたぶん前例がないだろうし、今後もそう簡単に作ることは出来まい。
優れた素材に、最適な職人があてがわれたからこその成果である。いささか筋が整っていない箇所もあるし、欲を言えば恐怖がもうちょっと際立っていれば、という嫌味もあるが、その勢いと、あの唯一無二のカタルシスがそれをほぼ帳消しにしてしまう。オリジナルの中心的スタッフが離れたあとの『リング』や『呪怨』について、不満を抱いていたひとも少なくないだろうが、そういうひとでも本篇にはたぶん唸らされるだろうし、或いは鬱憤を吹き飛ばしてくれるに違いない。間違いなく、快作である。
ちなみに私は体感型上映にて鑑賞している。昨今増えつつあるこのスタイルでの上映だが、しかしどの視点での感覚を観る者に疑似体験させるか、そのあたりをしっかり考慮して設定しないと効果を上げない。
白石監督はこの分野でも、本篇の公開以前に、『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』で経験を積んでいる。短篇ながら、4DXという仕様で可能なギミックをすべて駆使する、という意図のもと作られており、盛り沢山すぎて疲れるくらいの作品である。
しかしこの経験は本篇にも活かされているようで、基本は山本美月演じるヒロインの感覚を再現しつつ、普通ならあり得ない箇所にも演出を加えたりして最大限に活用している。『ボクソール〜』のように闇雲にギミックを押し込んでいないので、クライマックス前に疲れ切ってしまう、ということもない。いまのところ、長篇ホラーで唯一、この体感型上映を完璧に活かした作品と言ってもいいと思う。
ちょっと料金が高くなるが、近場でこのタイプの上映を実施しているなら、体感型上映での鑑賞を検討してみていいのではなかろうか――ただし、本当に的確な演出を施しているので、ホラーに弱いひとは覚悟のうえでご覧頂きたい。
関連作品:
『呪怨』/『呪怨2』/『呪怨 黒い少女』/『呪怨 白い老女』/『呪怨 −終わりの始まり−』/『呪怨 −ザ・ファイナル−』/『THE JUON―呪怨―』/『呪怨 パンデミック』/『呪怨 ザ・グラッジ3』
『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』/『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE2』/『呪霊 THE MOVIE 黒呪霊』/『ノロイ』/『口裂け女』/『裏ホラー』/『グロテスク』/『オカルト』/『シロメ』/『ある優しき殺人者の記録』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 【最終章】』/『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』/『鬼談百景』
『トリハダ−劇場版−』/『超高速!参勤交代』/『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』
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