原題:“Centro Historico” / 監督&脚本:アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ / プロデューサー:ロドリゴ・アレイアス / プログラマー:ジョアン・ロペス / プロダクション・マネージャー:リカルド・フレイタス / 製作:ギマランイス市財団法人 / 配給:LONGRIDE
2012年ポルトガル作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:金谷重朗 / 字幕監修:木下眞穂
2013年9月14日日本公開
公式サイト : http://www.guimaraes-movie.jp/
シアター・イメージフォーラムにて初見(2013/11/01)
[粗筋]
第1話『バーテンダー』
監督&脚本:アキ・カウリスマキ / 撮影:ティモ・サルミネン / 出演:イルッカ・コイヴラ
歴史地区にあるバーでバーテンダーを務める男(イルッカ・コイヴラ)。だが店は近ごろ、新しいチェーン店に客を奪われ、閑古鳥が鳴いている。男は新しい料理を提供してみたり、料理の名前を今風に変えてみたり、工夫を凝らしてみるが……
第2話『スウィート・エクソシスト』
監督&脚本:ペドロ・コスタ / 撮影:ペドロ・コスタ、レオナルド・シモンイス / 出演:ヴェントゥーラ、アントニオ・サントス、マヌエル・“ティト”・ファルタード
ヴェントゥーラが気づいたとき、彼は精神病院に収容されていた。ふらふらと踏み込んだエレベーターのなかで、ヴェントゥーラは傍らに革命の同志であった兵士(アントニオ・サントス)の姿があるのに気づく。それは幻影なのか、或いはヴェントゥーラの妄想なのか……?
第3話『割れたガラス』
監督&脚本:ビクトル・エリセ / 撮影:バレンティン・アルバレス / 出演:ヴァルデマール・サントス、アマンディオ・マルティンス、エンリケ・オリヴェイラ
リオ・ヴィゼラ紡績繊維工場は1885年に創業され、20世紀初頭にはヨーロッパ第二の規模を誇り、多くの従業員たちの生活を支えてきた。だが、1990年代に経営不振に陥ったのち、2002年に閉鎖の憂き目を見る。エリセはここを舞台に映画を撮る、という前提のもと、解雇された従業員らを、いまは“割れたガラスの工場”と呼ばれるこの地に招き、証言を撮影するのだった――
第4話『征服者、征服さる』
監督&脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ / 撮影:フランシスコ・ラグリファ・オリヴェイラ / 出演:リカルド・トレパ
最初のポルトガル王となった、ブルゴーニュ家エンリケ伯の子アフォンソは騎士であったという。彼の誕生の地や、その銅像が建つ場所はいまや観光資源となり、多くの客が訪れている。今日もバスに乗り、多くの異国人たちが押し寄せて、カメラのファインダーを覗いている……
[感想]
邦題通り、本篇はポルトガルの歴史が始まった、と言われる土地、ギマランイスを舞台に、ポルトガルや、この国と縁のある監督たち4人が短篇で競作したオムニバスである。
こうした背景から容易に想像出来るような歴史劇は、1篇も含まれていない。公式サイトを参照したり、ちゃんとパンフレットを読んでいなければ、舞台が統一されていることも気づかないほどに、それぞれの作品のトーンは異なる。街を舞台にする、ということ以外、いっさい縛りを設けていないが故に、各篇を担当する監督の作風が非常に濃密だ。そのため、それぞれの作品に親しんでいる、或いは多少なりとも知識があると、いっそう興味深い仕上がりである。
しかし、いずれも平易なストーリーより、題材の扱い方、表現の奥行きにこそ面白みがある、というタイプの監督なので、お話の面白さ、というものには正直なところ乏しい。『バーテンダー』には孤軍奮闘する男の哀愁といったものが感じられるが、これといったオチはないまま終わるし、『スウィート・エクソシスト』は展開自体が抽象的で、観たひとによって捉え方は多いに異なる。『征服者、征服さる』に至っては非常にシンプルなユーモアのみで作られたもので、あまりにあっさりした内容に拍子抜けするほどだ。
ただ、ビクトル・エリセ監督による『割れたガラス』だけは、この尺のなかにきっちりと物語を感じさせる。100年を超える長きに亘って経営されていた工場と、そこに勤めていたひとびとの物語を、映画製作に入る前の取材を兼ねたインタビュー兼スクリーン・テストによって構成していく、という実験的な手法だが、登場するひと一人ひとりにかつての工場と自身との関わりを語らせることで、それぞれに直接繋がりはないのに、次第に在りし日の工場の姿が思い浮かぶようになる。そして、ひととおり語ったあとで、壁に掲示された、食堂でのひとびとの姿を捉えたパノラマ写真を、ギタリストの演奏に合わせてゆっくりと辿っていくと、動かないその映像に、瞳の光や息遣いが感じられるほどだ。解りやすい芝居などなくても物語は作りうる、ということを示したこの1篇は、あまり文芸的な映画に親しみのないひとに単独で見せても愉しんでもらえるのではなかろうか。
とはいえ、どの作品も決して質が低いわけではない。『割れたガラス』がエリセ監督の完璧主義的な作風を象徴する出来映えであるのと同様に、『バーテンダー』は短いながらも哀感を湛えたアキ・カウリスマキ監督の語り口を感じさせるし、旧作にも登場した俳優と、その背景をも取り込んだ晦渋な作りはペドロ・コスタ監督の代表作『ヴァンダの部屋』にも通じる。そして『征服者、征服さる』は広場の全景をじっと捉えて“登場人物”の動きを充分な時間を費やして描き出す映画ならではの構図と、シンプルなユーモアにマノエル・ド・オリヴェイラ監督ならではのセンスが横溢している。
オリヴェイラ監督の作品こそ、結果的に観光資源に言及してしまっているが、基本的にはどの作品もギマランイスの風土を事細かに綴っているわけではない。それでも、この土地が持つ歴史を濃密に匂わせ、訪れてみたいような気分にさせてくれる。優れた手腕と個性を備えた監督が集ったからこそ描きうる、美しいモザイクだ。
関連作品:
『それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60周年記念製作映画〜』
『ヴァンダの部屋』
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