監督、脚本、キャラクターデザイン、編集など:FROGMAN / メカデザイン&特別効果音:大山のぶ代 / メカ&キャラクターデザイン原案:カプコン『モンスターハンター4』制作チーム / 音楽:manzo / 主題歌:m-flo + daoko『IRONY』 / キャスト:FROGMAN、河北麻友子、稲川淳二、鈴木あきえ、とーやま校長、よしだ教頭、上野アサ、佐野史郎 / 制作:DLE / 配給:東宝映像事業部
2013年日本作品 / 上映時間:1時間50分
2013年9月13日日本公開
公式サイト : http://鷹の爪.jp/go/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/09/10) ※完成披露上映会
[粗筋]
物語の始まりは島根県。地球に優しい世界征服を目指す秘密結社・鷹の爪団の面々は、戦闘主任・吉田くん(FROGMAN)のお母さん(FROGMAN)のお見舞いに訪れていた。恐るべき頑強さを誇るお母さんがなぜ病に倒れたのか訝しがり、一同はのののべ神社にお参りに訪れるが、そこで巫女(FROGMAN)から不吉な予言をもたらされる。空から恐怖の大魔王が現れ、吉田くんは闘うことになる。勝つことは可能だが、そのためには身近な者がひとり犠牲にならなければならない……。
一方その頃、地球とは異なる銀河系にあるゴゴゴ星で、事件は動き始めていた。ネマール人の侵攻に遭い、ゴゴゴ軍の残党が抵抗を続けているが、事態は悪化の一途を辿っている。彼らが一縷の望みを託すのは、ネマール人が恐れる予言であった。偉大なるネマール人に災いをもたらす人物が、地球に潜んでいるのだという。桁外れのドジと天然ぶりでゴゴゴ星の敗北を招き、いまふたたび窮地に追いやってしまった元総司令官オキテマス・スマイル(FROGMAN)は、娘のヨルニー(河北麻衣子)とともに、基地を襲撃するネマール人の手から辛くも逃れると、汚名返上のため、予言にある人物を連れてくることを決意する。
やがて地球に辿り着いたオキテマス・スマイルが接触したのは、何と我らが鷹の爪団総統・小泉鈍一郎(FROGMAN)であった。オキテマスは鷹の爪団に協力を請い、無事ゴゴゴ星を救った暁には、何でも望みを叶えると誓う。最初、厄介事に巻き込まれたくない、と拒んだ総統だが、成り行きで断れなくなり、オキテマスの操縦する宇宙船でゴゴゴ星に赴く――島根で自分たちが聞いた予言との符合を不安に思いながら。
[感想]
もともとはWebアニメから始まり、TOHOシネマズのマナームービーに採用されたりテレビのミニシリーズとして放送されたり、その後長篇映画として劇場公開を果たした、インディペンデントのアニメーションとしては異例の人気と成長を遂げたシリーズの、3年振りとなる劇場用作品である。
とはいえ、この空白のあいだも活動は盛んだった。原点であるWebでの新作公開に加え、鷹の爪総統を単独の主人公とした番外篇『ハイブリッド刑事』を期間限定ながら無料で公開する試みを行い、更にはNHK Eテレにて放送されるまでに至っている。少人数のスタッフで、小回りの利く作り方をしているからこその機敏さで、熱心なファンにはブランクを感じさせることなく突っ走り続けている。
NHKで放送されたことにより、従来よりも広範な視聴者を開拓したことを想定して制作したと思われるが、それでもブランクがないため、基本的なノリはこれまでの劇場版と変わっていない。予算の減りをリアルタイムで示す、という触れ込みのバジェット・メーターを常時表示し、随所で企業の広告を折り込み予算を追加していくさまをギャグとして昇華する趣向に、恐れることなく時事ネタをぶっ込み、脚本・編集・声の出演まで基本的にひとりが中心となって行っているからこそのテンポの良さで導き出す笑いは健在だ。
基本的にはごく限られたスタッフで制作しているシリーズのはずだが、劇場版ではスタッフ、キャストいずれにもピンポイントで豪華なゲストを招いて、そのこと自体もネタにして笑いを取っている。本篇においても、予告篇で既に採り上げているからはっきり書いてしまうが、大山のぶ代がなぜかメカデザインとして、あのキャラを彷彿とさせる大物をデザインしているし、Web版のシリーズではお馴染みとなっている稲川淳二演じる霊吉さんも登場している。上のスタッフ一覧に記したように、本篇公開と間を置かずにリリースされる『モンスターハンター4』がスタッフ、ゲーム映像ともども加わっているのも面白い。何よりも衝撃的なのは、ある人物の登場だろう――私が観てきた完成披露上映会においてその人物が登壇、そこでのトークの模様も含めて映画関連サイトで既に報道されてしまっている(それどころか鷹の爪公式サイトやツイッターアカウントでも壮絶に触れまくっている)ので、どういうネタが展開されるのか知ってしまったひともいるだろうが、正直なところ私はこのネタ、本篇の中でいきなり接するのが最高に愉しいと思うので、ここではあえて言及しない。この扱いも、如何にも鷹の爪らしいブッ飛びっぷりだ。
他方、このシリーズの特徴として、ハチャメチャなギャグを矢継ぎ早に繰り出しながら、クライマックスではちょっとした感動をもたらす筋運びをする点が挙げられるが、それもまた健在である――というより、むしろ観る側の心を震わせる手管はレベルアップしている、とさえ言えそうだ。序盤は主要キャラたちの駄目っぷりでさんざん笑わせた癖に、終盤ではその言動に潜む本質に触れ、切々と訴える。そんななかでもギャグは忘れていないが、意外な誠実さに、思わずグッと来てしまう。
基本はおふざけのように見えて、ちゃんと一貫した主題があり、それをきちんと拾っていく細やかさも、この想定外の感動に奉仕している。特に今回、思いのほか効いているのは、クライマックスでは脇に回りがちなフィリップやレオナルド博士の言動なのだ。ある意味、このシリーズ最凶のキャラであるレオナルド博士のさり気ない配慮が、終盤で吉田くんが披露する演説に力を与えているし、フィリップに至っては、この“鷹の爪団”という組織の不思議さ、面白さを明確にしている。フィリップの発言はシリーズの先行作に接しているとよけい胸に迫るものがあるが、もし旧作に触れる機会がなかったとしても、蓄積してきたものが垣間見える、というのは、作りあげてきたもの、関わってきた者を裏切らない意識の現れであり、それ自体が作品そのものや、作り手の心持ちの暖かさを感じさせるところだ。
前述したように、3年前と比べて若干環境が変わり、幾分若年層への配慮が窺えるようになった一方で、相変わらずネタの仕掛け方は細やかで、本当に精髄まで愉しみたいなら旧作に接するのが条件となってしまう。ただ、そのいずれも、往年のファンにとっても新しい観客にとっても、きっと愉しみの妨げにはならない。厚みと優しさ、それに躊躇なく時事ネタに切りこむからこその毒もちゃんとある、非常に正しく愉しいギャグアニメである。
ちなみに本篇、タイトルに“GO”とつけて劇場版5作目、という体裁にしているが、実際に一般公開されたものとしては4作目となる。不吉だから避けた、と監督は嘯き、今後も不吉な番号はなるべく外したい、と仰言っているが……それはつまり、9作目も13作目もあると考えていいのね?
関連作品:
『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶〜』
『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE 3 〜http://鷹の爪.jpは永遠に〜』
『ハイブリッド刑事』
『プレデター』
『リディック』
『宇宙戦争』
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