『レッド・ライト』

TOHOシネマズみゆき座、チケット・カウンター脇の壁面に掲示されたポスター。

原題:“Red Rights” / 監督、脚本&編集:ロドリゴ・コルテス / 製作:エイドリアン・グエラ、ロドリゴ・コルテス / 製作総指揮:シンディ・コーワン、アーヴィング・コーワン、リサ・ウィルソン / 撮影監督:ジャビ・ヒメネス / プロダクション・デザイナー:アントン・ラグナ / 衣装:パトリシア・モネ / キャスティング:ロンナ・クレス,C.S.A. / 音響:ジェームズ・ムニョス / 音楽:ビクトル・レイェス / 出演:ロバート・デ・ニーロキリアン・マーフィシガーニー・ウィーヴァートビー・ジョーンズエリザベス・オルセンジョエリー・リチャードソン、クレイグ・ロバーツ、レオナルド・スバラグリア、アドリアーニ・レノックス、バーン・ゴーマン / ノストロモ・ピクチャーズ製作 / 配給:Presidio

2012年アメリカ、スペイン合作 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:長澤達也

2013年2月15日日本公開

公式サイト : http://www.red-light.jp/

TOHOシネマズみゆき座にて初見(2013/02/26)



[粗筋]

 その男はかつて、超能力者として一世を風靡した。数々の奇跡を起こし、その能力の真偽を巡って様々な専門家が意見を並べ立て、論争は毎日のようにマスメディアを騒がせた。だが、1975年、男は突如として引退を宣言、数々の謎を残して、表舞台から消えてしまう。表立って彼を非難していたジャーナリストが公の場で突然倒れ、帰らぬ人となったことがきっかけである、とも言われるが、真相は定かではない。

 それから30年もの時を経て、超能力者サイモン・シルヴァー(ロバート・デ・ニーロ)は忽然と舞い戻った。ふたたび大衆はざわめき、マスコミが集い、熱心な信者も懐疑論者も、その動静に注目し始める。

 物理学者であるトム・バックリー(キリアン・マーフィ)もまた、シルヴァーに対して強い関心を抱くひとりだった。トムはマーガレット・マシスン博士(シガーニー・ウィーヴァー)のもと、様々な怪奇現象や超常現象の報告がある場所を訪れ、実験や計測による検証を繰り返している。30年にわたって同様のフィールド・ワークを重ね、観察を続けてきたマシスン博士は、説明不能の事象に遭遇したことは1度もない、と断言する。

 そんな彼女に、トムはシルヴァーの調査をするべきだ、と進言するが、どういうわけかマシスン博士は首を縦に振らなかった。過去の苦い経験から、マシスン博士はシルヴァーに接触することを頑強に拒み続ける。そんな彼女をトムは罵り、単身、シルヴァーの公演会場に潜りこみ、検証を試みる。

 だが、そんなトムの目の前で、不可解な事態が起きた。動揺し、茫然自失の体で研究室に戻ったトムはそこで、倒れたマシスン博士を発見する……

[感想]

 思わせぶりな予告篇も話題を呼んだ、意欲的なミステリ映画である――が、残念ながら私は、かなり早い段階で読み解けてしまった。なまじ仕掛けに自信があったせいだろう、やたらと挑発的な広告戦略を採っていたため、序盤から身構え、分析しながら鑑賞する、ということをした結果、ごく早いうちに用意した仮定がばっちりと嵌まってしまったのである。

 ただ、それでもまったく退屈はしなかった。いちばん勘所となるポイントを見抜いていても、他にもちりばめられた謎が撹乱し、物語に振り回される登場人物たちに観ているほうも翻弄される。はじめの段階で察しているからこそピンと来る描写の数々がまた効いていて、感心することもしきりだった。

 しかし、だからこそところどころ、決して必然的とは思えない描写が目について気になってしまう。触れるとあっさりネタを割りかねないので具体的には触れないが、どうも“やりすぎ”と感じられる場面が幾つかあった。特にクライマックス間際の出来事は、いくらミスリードのため、という意図があったとしても、必要以上に観客を混乱させ、ラストで衝撃を与えるタイミングをやや狂わせているように思う。

 とはいえ、謎の見せ方、全篇を通して漲るミステリアスな空気は秀逸だ。本筋とは関係のない、超常現象を調査するくだりの描写がオカルトめいた雰囲気を増長し、サイモン・シルヴァーの過去の噂や、彼の周辺にちらつく怪しげな人物たちが危険な気配を感じさせる。一方で、追う側のマシスン博士やトムの身辺にも曰くめいたものをちりばめ、ドラマを深化させている。そして、そうした描写のあちこちに、背後の真実を仄めかし、或いは共鳴するモチーフが絶妙な匙加減で埋め込まれている。クライマックスで初めて真実を知ったひとも、あとで振り返れば、いちいちちりばめられた伏線や象徴に驚きを新たに出来るだろうし、早めに背景を見抜いたひとであっても、その緻密さにはいちいち舌を巻くはずである。とりわけ途中の、ヌケヌケとしたひと言には口許を緩まさずにはいられない。

 同じロドリゴ・コルテス監督の先行作が、実質ライアン・レイノルズのひとり芝居であったのに対し、本篇はデ・ニーロにシガーニー・ウィーヴァーキリアン・マーフィと実に贅沢な配役だが、それぞれの演じたキャラクター像もよく練られているので、いずれも遺憾なくその力を発揮している。当人は具体的なことなどさほど口にしないのに貫禄が充分、という厄介な貫禄と怪しさに満ちた“超能力者”をふてぶてしく演じたデ・ニーロは無論、知性に優れながらも事情があって複雑な表情を見せるマシスン博士を哀愁含みで表現したシガーニー、そして専門家としての自負と、まだ残る若さ故の激情に翻弄される研究者に扮したキリアンもいい。終盤で重要な役割を演じるトビー・ジョーンズ、悲劇と危機に揺れるキリアン=トムに寄り添う学生として登場するエリザベス・オルセンも印象的だ。

 本篇のスタッフの多くは監督のホームグラウンドであるスペインの面々が名を連ねている。それ故か、資本も舞台もアメリカであるはずなのに、どこかヨーロッパの雰囲気が色濃い。そのどこか朽ちたような錆びたような映像のトーンが、往年のスリラーの香気を本篇に与えている。

 如何せん、本篇の真相には癖があるために、悪い意味で“騙された”と捉えるひともあるように思う。ただ、本篇の発想と、それを支えるための構成にはきちんと骨があり堅牢だ。好みが分かれるのも事実だろうが、構築美に優れた作品であることは間違いない。

関連作品:

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