『THE GREY 凍える太陽』

ユナイテッド・シネマ豊洲、上映スクリーン前のポスター。

原題:“The Grey” / 原作:イーアン・マッケンジー・ジェファーズ / 監督:ジョー・カーナハン / 脚本:イーアン・マッケンジー・ジェファーズ、ジョー・カーナハン / 製作:ジュールズ・ダリー、ジョー・カーナハンリドリー・スコット / 製作総指揮:ジム・セイベル、ビル・ジョンソン、トニー・スコット、ジェニファー・ヒルトン・モンロー、スペンサー・シルナ、アディ・シャンカール、ロス・T・ファンガー / 共同製作:ダグラス・セイラーJr. / 撮影監督:マサノブ・タカヤナギ / プロダクション・デザイナー:ジョン・ウィレット / クリーチャースーパーヴァイザー:グレッグ・ニコテロ、ハワード・バーガー / 編集:ロジャー・バートン、ジェイソン・ヘルマン / キャスティング:ジョン・パプシデラ,C.S.A. / 音楽:マルク・ストライテンフェルト / 出演:リーアム・ニーソンフランク・グリロダーモット・マローニー、ダラス・ロバーツ、ジョー・アンダーソン、ノンソー・アノジージェームズ・バッジ・デール、ベン・プレイ、アン・オープンショー / スコット・フリー/シャンバラ・ピクチャーズ製作 / 配給:Showgate

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:齋藤敦子 / PG12

2012年8月18日日本公開

2013年2月6日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://www.grey-kogoeru.com/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2012/09/13)



[粗筋]

 アラスカの辺境にある石油採掘場。アメリカ本土から出稼ぎにやって来た荒くれどものなかで、オットウェイ(リーアム・ニーソン)だけはただひとり、異彩を放っていた。諍いを繰り返す男達とも、騒々しく談笑する男達とも交わらず、採掘場付近に現れた野生動物に銃口を向ける。狼を仕留めたときにも、その眼差しには哀しみに似た輝きが宿っていた。

 5週間の勤務を終え、2週間の休暇を過ごす男達を載せたチャーター便に、オットウェイの姿もあった。飛び立った飛行機は、しかし間もなく激しい嵐に巻き込まれ、轟音とともに雪原に墜落する。

 飛行機は大破したが、オットウェイは軽傷で済んだ。しかし乗員、乗客ともに多くの死者を出し、確認出来た生存者はオットウェイ含め、僅かに8名。

 だが、死者を悼む暇も、生き延びたことを喜ぶ余裕もなかった。ここは厳寒の地、暖を取らなければ凍死してしまう。一方、オットウェイは周囲に、彼にとっては馴染みのある気配を感じ取っていた。飛行機が墜落した場所は、狼たちの巣窟だったのである。

 一夜を過ごし、早くもひとりが餌食となったことで、オットウェイはここに留まる危険を悟る。救助を待つ猶予はなかった。オットウェイは生き残った男達を説得し、移動を開始した。

 人界と隔絶された極寒の世界。屈強を誇る男達といえど、大自然の前では取るに足らない存在だった――オットウェイでさえも。

[感想]

 サヴァイヴァル映画、としか呼びようがない。それ以外の要素などほとんど入り得ない作品である。

 冒頭、僻地での労働者たちの姿を描くくだりこそ、何か曰くありげに映るが、それはあくまで導入に過ぎず、せいぜいリーアム・ニーソン演じる主人公の、心情を裏打ちする程度に用いられているだけだ。この作品はひたすらに、人間が生きていく力を問われ続ける物語になっている。

 狼の行動がいささか空想めいた印象を与えることを除けば、本篇の登場人物たちを襲う危難の数々は終始リアルだ。周囲がまったく見渡せないなかでの移動、周りを囲む野生動物たちの脅威、そして悪化する怪我や、容赦のない寒さ。

 絶え間なく襲いかかる危険が、だが男達に恐怖をもたらすばかりではない。ある種の諦念を抱く者もいれば、現状に怒りで対峙しようとする者もいる。サヴァイヴァルの技術を備えているのはオットウェイぐらいのものだが、やむなくその能力を発揮するオットウェイに当初は反発するものの、いつしか彼の判断に身を預けるようになる。生きていくために、緩やかに変化する関係性を、華々しくはないが丁寧に織りこんでいる。

 舞台は雪原と鬱蒼たる森の中、登場人物は男ばかり。そうでなくとも派手さのかけらもないが、演出においても大仰な工夫はしていない。ゆえにストーリー的にも映像的にも終始地味だが、しかし堅実で重厚な描写には見応えがある。作品そのものが備える重みを、中途半端なお色気などで彩って軽くしていないことも、絵的には寂しいが、しかし作品を緩みのないものにしている。

 派手さもなければ、本篇は展開もとうていハッピーとは言い難い。最初の飛行機事故と同様に、多くの登場人物が虚しくその命を奪われていく。にもかかわらず、本篇には強烈な生命力が宿っているように感じられる。極限の状況で懸命に生き延びようとし、とことん抗い続ける。自らの死を意識する間もなく命を奪われる者もあるが、悟ったうえで死を受け入れるさまにさえ、無情さと同時に生命力の息吹を感じさせる。そこにこそ本篇の狙いがあり、だからあの結末に至るのだ。

 奇跡の救出劇を描いたり、極限のなかでの葛藤を描いてサスペンスを醸成することが目的ではない。それ故に、胸のすくような結末、終始繰り返すハラハラドキドキ、のようなものを期待するとまったく手応えはないが、絶望的な状況にあっても“生きよう”とする姿を描いた作品としてブレがなく、重みが著しい。サヴァイヴァル映画としか呼びようがない、と冒頭に記した所以である。

関連作品:

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