監督:堤幸彦 / 脚本:高橋悠也 / 原案協力:関ジャニ∞ / 製作:中村浩子、山内章弘、田中良明、福冨薫 / 製作指揮:藤島ジュリーK.、市川南、石橋誠一、長坂信人 / 撮影:斑目重友、杉村正視 / 照明:川里一幸 / 美術監督:相馬直樹 / 録音:鴇田満男 / 編集:伊藤伸行 / スタイリスト、コスチュームデザイン:袴田能生 / アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太 / VFXスーパーヴァイザー:野崎宏二 / 音楽:長谷部徹、Audio Highs / 出演:関ジャニ∞(横山裕、渋谷すばる、村上信五、丸山隆平、安田章大、錦戸亮、大倉忠義)、ベッキー、蓮佛美沙子、田山涼成、石橋蓮司、六平直政、野添義弘、佐藤二朗、高橋ひとみ、上島竜兵、竹中直人、舘ひろし、東山紀之 / 配給:東宝
2012年日本作品 / 上映時間:1時間50分
2012年7月28日日本公開
公式サイト : http://www.eightranger.com/
TOHOシネマズ渋谷にて初見(2012/08/04)
[粗筋]
底の見えない財政難に悩まされた日本政府が、全事業の民営化を実施して以来、日本は闇の中にある。テロリストが蔓延り、犯罪が横行し、誰もが今日を生きるのに必死だった。
2035年、借金まみれのニート・横峰誠(横山裕)はその日、借金取りから逃げまわっていた。汚染された海の間際まで追いつめられ、もうこれまでか、と観念しかけたとき、通りすがりの男――三枝信太郎(石橋蓮司)が彼を助ける。そして、あろうことか横峰を、ヒーローとして勧誘するのだった。
警察さえも民営化され、まともに機能しなくなっているいま、横峰の暮らす八萬市には、“ヒーロー協会”なるものが設立されていた。テロリストと果敢に戦い、実績はあったが、ヒーローは決して安全快適な仕事ではない。職務中に倒れる者もあれば、正体が発覚して殺害される者もあり、100人いたはずのヒーローたちは今や、僅か7人にまで激減している。
しかも、なかでまともに活躍しているのは、“伝説のヒーロー”と謳われるキャプテン・シルバー(舘ひろし)ひとり、残る6人はアル中の渋沢薫(渋谷すばる)はじめ、いずれも何らかの事情で借金まみれの、やる気のない男達ばかり――ここにいるヒーローの大半は選ばれた者ではなく、むしろ他に働き口のない人間ばかり、吹きだまりと言ったほうが似つかわしい場所だった。
どのみち他に働く場所もない横峰は、「君こそ“エイトレンジャー”のリーダーに相応しい」という三枝の言葉に一縷の望みをかけ、この仕事に就くことにした。彼らに配給されたスーツは、条件を満たせば横峰達に多くの力を与えてくれる、というが、なかなかその能力を発揮出来ない。
そこで一同は、キャプテン・シルバーの指導を仰ぐことにした。自分は一匹狼だ、といい一顧だにしなかったキャプテン・シルバーだったが、メンバーの機転で弱みを掴むと、渋々協力を承諾する。だがその結果、横峰達は自らの覚悟の乏しさを痛感させられることとなった……
[感想]
“エイトレンジャー”というキャラクターそのものは、関ジャニ∞がライヴのなかの1コーナーで演じていたものだという。それを、グループのデビュー8周年企画として映画化した、という趣旨のようだが、ここで堤幸彦監督に託した、というのが炯眼だった。
堤幸彦監督は『20世紀少年』シリーズを筆頭に、CGを多用した空想科学的大作の経験値を積んでいる。その能力を活かし、アイドル達が扮するヒーロー、というものを安易に現代の世界に降臨させず、現代の世相を踏まえたディストピアに設定することで、半年のハリウッド産アメコミ・ヒーロー映画にも通じる世界観を組み込むことに成功した。
更にポイントが高いのは、堤監督の作風を特徴付けているのが、画面の端々にまでちりばめられた小ネタを代表とするくすぐりだ、ということである。近年、文芸的なものやシリアスな作品に携わることも増えたせいか、時としてセーブするこの作風を、堤監督は本篇で全開にしている。
居酒屋チェーン“笑笑”を意識した“泣泣”に、あちこちで貼られている謎の演歌歌手のポスター、壁の落書きにも細かなネタがちりばめられ、やもすると本筋を忘れて愉しんでしまうほどに盛り沢山だ。
小ネタに限らず、キャラクターの設定、行動にもいちいち笑いの要素が埋め込まれている。エイトレンジャーそれぞれの来歴は恐らく、関ジャニ∞が築いた人物像を踏まえているのだろうが、その膨らませ方は巧みで、笑わせつつもちゃんと話を膨らませている。関ジャニ∞というグループの持つ笑いのセンスとうまく合致して、ダークな面のあるヒーロー映画としての世界観を構築しながら、しばしばブラックな笑いを誘うコメディ映画としても成立しているのだ。
笑いを誘うために盛り込んだ、と思わせて、きちんと伏線として機能している描写があるのも巧い――とは言い条、ある程度すれっからしの観客ともなれば、一連の伏線を汲み取り、最後の展開を想像することは難くない。物語としてのダイナミズム、意外性を意識しているにしては安易に思えることはマイナス評価に繋がりそうだが、お約束をきちんと手順を踏まえて少しずつ辿り、感動に結びつける手管は堂々たるものだ。結果として物語の背景に横たわるのは“浪花節”としか言いようのない人情噺なのだが、それがハリウッド産ヒーロー映画の潮流を受け止めながらも、決して単純に迎合せず、日本らしいヒーローものを描き出そうとする意識がきちんと窺えて快い。
同時期に公開された『ダークナイト ライジング』や『アベンジャーズ』と比べれば、物語的にも撮影規模の上でもかなり見劣りはする。テーマの掘り下げ、洗練度、という点でもいまひとつだろう。だが、自分たちなりのヒーロー像を築き、1本芯を通そうとする意欲ははっきりと漲っており、そこにブレがない。重みがありつつも愉しく、そして痛快極まる、優秀なヒーロー映画である。所詮アイドル映画だろ、などと侮って無視しているなら、かなりもったいない。
戦隊ものや仮面ライダーが年代を超えて支持され、そういう意味では日本もヒーローものは絶えず受け入れられている、と言えるが、個人的にはそうしたTVムービーとしてではなく、一定の尺を持ち、はじめから大人が鑑賞することも視野に入れたヒーローものが欲しい、と思っていた。ヒーローとは何ぞや、という問いかけを含み、更には悪役にも行動原理があり、悪事が即ち誰もにとっても悪徳であるか、という点にも踏み込んだ本篇は、その理想に非常に近い。恐らくはスタッフも意識して含みを持たせているだけに、もし叶うなら、これ1本で終わらせないで欲しいところだ。
関連作品:
『ウォッチメン』
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