監督:滝田洋二郎 / 脚本:内田裕也、高木功 / 企画:内田裕也 / 製作:多賀英典、内野二良、岡田裕 / プロデューサー:海野義幸 / 撮影:志賀葉一 / 美術:大澤稔 / 照明:金沢正夫 / 編集:酒井正次 / 録音:杉崎喬 / 音楽:大野克夫 / 出演:内田裕也、渡辺えり、麻生祐未、原田芳雄、小松方正、殿山泰司、常田富士男、ビートたけし、スティービー原田、郷ひろみ、片岡鶴太郎、港雄一、久保新二、桑名正博、安岡力也、篠原勝之、村上里佳子、小田かおる、志水季里子、片桐はいり、橘雪子、趙方豪、三浦和義、逸見政孝、横澤彪、下元史朗、伏見直樹とジゴロ特攻隊、ルパン鈴木、池島ゆたか、藤井智憲、真堂ありさ、しのざきさとみ、清水宏、長友啓典、川村光生、叶岡正胤、斉藤博、新井義春、桃井かおり、おニャン子クラブ、梨元勝 / 映像ソフト発売元:Happinet
1986年日本作品 / 上映時間:2時間4分
1986年2月1日日本公開
2009年7月17日映像ソフト最新盤発売 [DVD Video:amazon]
『80年代ノスタルジア』(2012/5/12〜2012/6/8開催)にて上映
[粗筋]
テレビ番組で芸能リポーターとして活動しているキナメリ(内田裕也)は、あらゆる現場に突撃取材を試みる。傍若無人な取材の仕方に、芸能人の心象は悪かったが、レポーターとしては人気を誇っていた。
放送作家との仲が噂される桃井かおり(本人)や結婚間近と言われる松田聖子・神田正輝カップルに接近し、その様が見咎められて警察に捕まることさえあったが、テレビ局の上層部もそんなキナメリを積極的に後押しした。彼は御巣鷹山で発生した飛行機墜落事故にも直接赴いて、その壮絶な現場を目の当たりにした。
しかし、キナメリの過激な取材スタイルに次第に批判が増え、彼は昼の番組を外され、深夜番組に移される。そこでキナメリにあてがわれたのは、風俗産業の体当たりレポートであった。評判の店の客となったり、1日従業員を経験したり、AVの男優まで実地に体験して取材する。
生真面目なキナメリはそこでも誠実に仕事をこなすが、その一方で気懸かりなことがあった。生活の拠点としているマンションで、隣に住む老人が最近、金の先物取引に勧誘されている。詐欺の疑いを抱いたキナメリは、現在任されている番組で取材出来ないか、プロデューサーに打診するが、一笑に付されてしまう……
[感想]
この作品は映画として以前に、80年代の日本芸能界の貴重な資料としても機能しうるように思う。現在よりも遥かに盛んな芸能リポーターたちの生態を活写し、有名なスキャンダルを、一部は当事者を出演させて作品に取り込んでいる。松田聖子&神田正輝のカップルは直接登場はしていないが、恋愛報道のあった桃井かおりや、薬物問題が取り沙汰された桑名正博に安岡力也などが本人役で登場して主人公と絡む。
当時を知っている者にとって、特に驚くのは、三浦和義が自ら登場していることだろう。いわゆるロス疑惑の渦中の人物として、ワイドショーなどに露出も多かった人物だが、よもや自分の立ち位置そのままで出演などしているとは思わなかった。
斯様に、当時の芸能、風俗、事件の主立ったものが現実に近い形で盛り込まれており、当時を知らないひとにとってはその空気に触れることが出来る作りになっている。当時を知っている世代なら、かなり混じり気のない懐かしさを覚えるはずだ――浸っていられるほど穏やかな世界ではないが。
一見、それが最大の価値のようにも捉えられるが、しかしその実、ある主題に向かって確固たる足取りで突き進んでいることが窺える、巧みな組み立てをしていることにも注目すべきだろう。プライヴェートでは口数が少なく真意が窺えない主人公ながら、その表情や随所で見せる言動には、自分の携わっている芸能リポートという仕事の方法に問題意識を抱く本音が覗く。日本人的な寡黙さと律儀さがそこから逸脱させないだけで、己の仕事の仕方に決して満足しているわけではないのだ。そのことが、80年代の芸能パノラマめいた序盤で組み立てられた複線の上で機能している。
そしてそれが、身近な人間が巻き込まれた事件を契機にじわり、と滲出する。この部分も実際にあった事件を下敷きとしているが、実に巧く取り込んでいる。緻密な積み上げがあるからこそ、クライマックスのあとでキナメリが放つひと言にも重量感が備わってくるのだ。
あまりに当時の出来事がそのまま組み込まれているため、時間を経過すると一気に古びてしまいそうに見えたかも知れない。だが、いま観ても本篇のメッセージ性は決して――嘆かわしいことに――損なわれていない。芸能界、ひいては人というものが背負う、業めいた“野次馬根性”を痛烈に揶揄した作品である。
なおこの作品では、物語の舞台となった1985年最大の事件である日航機墜落事故の衝撃的な映像が盛り込まれているが、上にリンクした最新のDVDでは該当シーンをカットしている。これは当時も、写真週刊誌でそのまま掲載されたことが大いに物議を醸し、現在ではあまりに残酷な映像は流さない、という共通認識が出来上がってしまっているため、致し方ない部分はある。
今回、神保町シアターで上映された素材にはこの場面もしっかり含まれていた。当時、問題の写真をしっかりと観てしまった私にはそういう意味で驚きはなく、時代の空気を実感させる材料となっていたが、やはりいま観ても賛否が分かれても仕方のない映像ではある、と思う。虚実をない交ぜに描く、という作品の主題からすれば当然ではあるが、これを盛り込んだのは英断だった、と感じられるだけに、出来れば入手しやすい媒体で、この完全版のかたちでリリースされることを願いたいが……。
関連作品:
『陰陽師』
『陰陽師II』
『おくりびと』
『釣りキチ三平』
『甘い生活』
『ニュースの天才』
『タブロイド』
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