原題:“北派功夫 Return to China” / 監督:チュン・チー / 脚本:蘇藍 / 製作総指揮:カイ・ニン / 撮影監督:ウェイ・ホイフェン / 武術指導:袁祥仁 / 出演:ジャッキー・チェン、ワン・チン、チョイ・チンチュン、チェン・チャオ、ヤム・ホイ / 映像ソフト発売元:MEDICOS ENTERTAINMENT(ほかの会社からのリリースもあり)
1971年香港作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2010年3月1日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|廉価版DVD:amazon]
DVD Videoにて初見(2012/05/27)
[粗筋]
1937年、日中戦争後、日本軍の侵略を受けた中国。
トン(ワン・チン)の所属する劇団は、日本軍が禁じた演目をかけようとして、手入れを受けてしまう。トンたちは抵抗し、逮捕しようとした日本兵を倒すが、結果的に追われる身となった。
弟分のチー(ジャッキー・チェン)と逃走のさなか、トンは人力車夫の老人が咳き込んでいるのを発見する。介抱していたところ、老人の孫娘チュウ(ユン・チウ)からお礼として滞在することを薦められ、トンは車夫の仕事を代わりに務めることを条件に、彼らの元へと身を寄せた。
しかし、車夫として働いているとき、トンは乗せた女が、日本軍の肝煎りで設置された自警団の関係者だと気づき、放り出す格好で下ろしてしまう。女は自警団に身を寄せる軍人に訴え、軍人に命じられた自警団員たちは、トンたちが身を寄せる家を襲撃した――
[感想]
ジャッキー・チェンがロー・ウェイ監督に見出されるより以前に、準主役級で出演した作品である。
日本人としては、あまりに悪辣に描かれた日本人像に苛立つ――ということは個人的にはあまりない。歴史を背景に描けば、悪役扱いしたほうが手っ取り早い状況はいくらでもあるし、こと香港、中国映画においては既に定番の題材、しかも本篇は40年も前の作品なのだから致し方ないところである。最近でも、ドニー・イェン主演の名作『イップ・マン 序章』において、この頃の日本軍の悪逆非道ぶりが描かれている――もっとも、間違いなく本篇と比べて遥かに描き方は洗練されているが。
そう、問題は洗練の度合いだ。本篇はその古さを考慮しても、表現が洗練されていない。素朴、というよりは非常にいい加減だ。
まずいのは、絶対悪に抗う主人公、という構図を作りたかったにしては、ごく冷静に眺めて、主人公の言動に道理が見いだせないことである。演目を制約する、という行動は明らかに非道だが、それに対して衝動的な暴力で対抗して、他の仲間たちを危険に晒す。匿われた先でも見境のない行動で協力者を犠牲にし、慎重さというものがかけらも見えない。こういう主人公の独善的な側面を誰かが糾弾する、或いは本人に自覚がある、という部分を描いて悲愴感を演出するならまだしも、これでカタルシスをもたらそうというほうが無理だ。よほど感情的に観ている者にしか共感を得られず、似たような歴史を共有していても、道理をわきまえたひとには認めてもらえないだろう。
ジャッキー・チェンが出ているのだからアクションも期待したいところだが、こちらもまだ洗練には程遠い。ジャッキー本人の動きはパワフルだが、如何せん主人公以下、のちの傑出したカンフー・アクションに親しんだ目には、誤魔化しが多すぎてどうにも物足りない。
若き日のジャッキー出演作ということで、未だにしばしば復刻される本篇だが、ジャッキーのフィルモグラフィを制覇したいというひと、彼の出演作を初期から通して理解したいひとが観ておけば充分だろう。単品としては、はっきり言ってお粗末な仕上がりである。
関連作品:
『大酔侠』
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