『炎の大捜査線』

炎の大捜査線 [DVD]

原題:“火焼島” / 英題:“The Island of Fire” / 監督:チュー・イェンピン / 脚本:フー・リー、イエ・ユン・チャオ / 製作:ユー・シュンハン / 製作総指揮:ジミー・ウォング / 撮影監督:チェン・ジュンシュ / 出演:レオン・カーフェイ、ジャッキー・チェンサモ・ハン・キンポーアンディ・ラウジミー・ウォング、ユー・シャンハン、イエ・チュエンチェン、チャン・クォチュー、ツォ・チョンファ / 配給:ヘラルド / 映像ソフト発売元:Sony PIctures Entertainment

1991年香港作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:岡田壯平

1992年4月25日日本公開

2009年12月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/04/13)



[粗筋]

 出張から香港に帰還したばかりのワン・ウェイ(レオン・カーフェイ)を、悲劇が襲った。恩師である署長を、目の前で殺害されたのである。殺害犯も、直後に乗り込んだ車が爆発して死亡、唯一残された指紋が指し示したその正体は――既に死刑が執行された囚人であった。

 ウェイは囚人が収容されていた刑務所に何らかの手懸かりがあると睨み、酒場でわざと乱闘騒ぎを起こし、自ら犯罪者となって潜入する。

 その刑務所――“火焼島”は悪党と悪事の坩堝となっていた。看守たちは権勢を笠に着て囚人たちを牛耳り、囚人たちのあいだでは娯楽代わりの賭け事が蔓延り、一部の悪党の残忍な振る舞いもあとを絶たない。ウェイも収容された早々に、リーという大男との決闘を強いられ、手痛い洗礼を受けた。

 当然のように、脱走を企てる者もある。キア(サモ・ハン・キンポー)は寄宿舎に入れられようとしている息子にひと目逢いたいがために、策を弄して脱獄するもすぐに囚われ、懲罰房に放り込まれる。

 やがて刑務所に、また新たな囚人が送りこまれてきた。天才的なハスラーであるロン(ジャッキー・チェン)は、頼まれた八百長を固辞した結果、乱闘となり、そのなかで恋人が刺されてしまう。手術のために必要な資金を捻出するべく赴いた賭場で因縁をつけられ、誤ってギャングの関係者を殺してしまったのだ。

 刑務所には、ロンが殺したギャングの部下が複数収容されている。所内は以前にも増して、剣呑な空気が漂いつつあった……

[感想]

 クレジットではジャッキー・チェンがトップ、ジャケットなどでも彼が大々的に採り上げられているため、ジャッキー主演作と勘違いしてしまいそうだが――というより製作者もパッケージの販売に関わる人もわざと誤解させる気満々だが、断じてジャッキー主演ではない。変に期待するとがっかりするくらいの露出である。

 とはいえ、それなりに出番はあるし、『五福星』にも似た印象で、主役ではないがアクションの肝を任される、という立ち位置で、映画として、お話としての出来映えより、ジャッキーのアクションが堪能できるか否かにのみ注視するのなら、決して見所皆無というわけではない。

 問題は、お話としてとことん、牽引力に乏しいことにある。死刑囚を密かに生かし、暗殺者として利用する、というのは実際にあった出来事らしい。それに触発され、土台として用いて映画に仕立てる、というのはアイディアとして悪くはないが、如何せん、それ以外の膨らませている部分が散漫なので、いまひとつ惹かれないのだ。先読み出来ない面白さ、というのは確かにあるが、本篇の場合、わざわざ潜入して捜査しているはずのウェイが積極的に行動を起こさず、サモ・ハンやジャッキー、アンディ・ラウらのエピソードに多く割かれているために、焦点が暈けてしまっているし、肝心のラストにもいまひとつカタルシスがない。本篇は“衝撃のラスト”とファンのあいだでは語られているが、その衝撃は決してストーリーそのものが生み出す意外性から来ているわけではなく、ドラマの弱さをむしろ浮き彫りにしているように思う。

 翻って、それでも最後まで何となく観てしまうのは、語り口の呼吸が良く、ムードの醸成が巧みであるお陰かも知れない。終わってみると非常に焦点を欠いた作りではあるが、それ故に先が不透明である、という部分をうまく利用した演出と言える。

 前述したとおり、アクションについては、ゲスト的な立ち位置のジャッキーが見せ場を作っている格好だが、クライマックスにおける銃撃戦では他のスター級キャストも奮戦している。二挺拳銃にダイヴしながらの銃撃など、全般に『男たちの挽歌』を意識していることを窺わせるのにちょっと失笑してしまうが、それでも男の胸を熱くさせる流れであるのは否定出来ない。

 ジャッキーのフィルモグラフィの上でさほど重要でなく、映画単品としても芯が通っているとは言いづらいので、当時のスター俳優が結集した作品、という以上の価値は見いだせない。が、そこを割り切り、観ているあいだは愉しませてくれるあたりに、香港映画の持つ確かなサーヴィス精神が感じられる。

関連作品:

天使の眼、野獣の街

五福星

香港発活劇エクスプレス 大福星

七福星

ファイナル・ドラゴン

捜査官X

ファースト・ミッション

男たちの挽歌

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