監督&脚本:矢口史靖 / 脚本協力:矢口純子 / 製作:亀山千広、新坂純一、寺田篤 / エグゼクティヴプロデューサー:桝井省志 / 企画:石原隆、市川南、阿比留一彦、小形雄二 / プロデューサー:稲葉直人、堀川慎太郎、土本貴生 / 撮影監督:柳島克己 / 照明:長田達也 / 美術:新田隆之 / 装飾:秋田谷宣博 / ロボットデザイン:清水剛 / 編集:宮島竜治 / 音楽:ミッキー吉野 / 主題歌:五十嵐信次郎とシルバー人材センター『MR.ROBOTO』 / 出演:五十嵐信次郎、吉高由里子、濱田岳、川合正悟、川島潤哉、田畑智子、和久井映見、小野武彦、田辺誠一、西田尚美、森下能幸、田中要次、竹井亮介、古川雄輝、安田聖愛、星野亜門、菅原大吉、徳井優、大石吾朗、竹中直人 / 製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ / 配給:東宝
2011年日本作品 / 上映時間:1時間51分
2012年1月14日日本公開
公式サイト : http://robo-g.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/01/14) ※初日舞台挨拶つき上映
[粗筋]
木村電器は従来冷蔵庫やエアコンなどの“白物家電”を製造販売していたが、社長・木村宗佑(小野武彦)の思いつきがきっかけで、突如として二足歩行ロボットの開発に着手することになった。
この業務を押しつけられたのは、小林弘樹(濱田岳)、太田浩二(川合正悟)、長井信也(川島潤哉)の3名。しかしいずれも本来ロボット工学とはまったく無縁の面々で、僅か数ヶ月で完成させられるはずがない。それでも不眠不休の努力を重ね、どうにか形になってきたが、そこで突如悲劇に見舞われた――はずみで動き出したロボットが、窓から落ちてしまったのだ。稼働プログラムを組み込んだパソコンごと転落してしまい、努力の結晶は一瞬で水泡に帰してしまう。
ロボットを人前に出すのは博覧会の1回だけ。そのときだけごまかせば何とかなる――窮余の果てに、小林は苦肉の策をひねり出した。中に人を入れて、演じさせればいい。
生憎、ロボット開発室の3人はいずれもロボットの外殻に収まる体格ではない。そこで小林たちは、着ぐるみのイベントのオーディション、という体裁で人を募ることにした。
結果として辿り着いたのは、鈴木重光(五十嵐信次郎)、御年73歳。既にリタイヤして身体にもガタが来ている老人だが、成り行きでオーディションに参加、奇縁で採用となってしまった。小林たちは真実を一切伏せたまま、鈴木にロボットの外殻を着せ、博覧会へと連れて行く。
アイディアは決して悪くはなかった――その場しのぎとしては。だが、博覧会の会場で、木村電器製のロボット“ニュー潮風”が、常識ではあり得ない行動をしたことで、その場しのぎでは終わらなくなってしまう……
[感想]
矢口史靖監督は一貫して、最後に爽やかな感動のあるコメディを撮り続けている、日本では稀有なタイプの映画作家である。『ハッピーフライト』から4年振りに発表となった本篇でも、その姿勢に揺るぎはない。
ただ、これは『ハッピーフライト』の時点でも窺えたことだが、少しずつ作りがリアルになっているように感じられる。学生達が未経験の何かに挑戦する姿を描いた『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』はかなり突飛で非現実的な展開があったが、男子によるシンクロや女子たちによるビッグバンド・ジャズはきちんと作り込まれていて、見応えとリアリティが備わっていた。もともと丹念な取材、研究によるそうした側面が、『ハッピーフライト』を経て本篇でいっそう濃厚となっているように思う。
ロボット開発に携わる社員が、社長の無茶な要請で短期間にロボットを研究・開発せねばならなくなり、薄汚い部屋にほとんど寝泊まりしながら開発をしている様子。人を入れてごまかす、となったときに架空の会社を作ってオーディションを行ってどうにか企みを隠しおおせようとしたり……ところどころ誇張した表情は認められるものの、シチュエーションは非常に実感的だ。
そして、それらがあとあと物語のなかで意味を持ってくる構成の巧さも、学生達をテーマにしていた作品より際立っているし、作品世界のリアリティに貢献している。その共鳴ぶりは実際に本篇を観て確かめていただきたいが、時として空転したユーモアに感じられる描写でさえ、ちゃんと考慮の上で組み込んでいるのだ。
他方で、こちらは旧作から見られた人物像の完成度の高さも、作を追うほどに洗練され、存在感を増していることもリアリティを強めている。そもそもロボット開発など無縁だったのに勢いで公表する段取りをつけてしまい、その後も強引に振る舞う社長。そんな社長に追い込まれる3人の、若いが真面目で妙に気が回る小林、営業出身らしく口から出任せで誤魔化そうとし裏表があるが根は優しいのが窺える太田、ブツブツと愚痴をこぼし不測の事態に遭遇すると吐いたり挙動不審になる長井、といった人物像もありそうだし、その憎めない駄目社員ぶりがいい。
70代に突入してもなお現役でライヴ活動を行うミュージシャンであるミッキー・カーチスが伊達男の風貌を捨て、見事に体現した“善良なクソジジイ”鈴木重光氏の、身近にいそうな存在感が物語にも親しみを与えているが、しかし本篇で誰よりもインパクトを発揮するのは、そんな人々の関係性が生み出したロボット“ニュー潮風”に惚れ込んでしまう理系の女子大生を演じた吉高由里子である。ロボット博覧会で初登場したときの如何にもマニアっぽい振る舞いも印象的だが、“ニュー潮風”に惚れ込んでからの彼女の言動は、本篇にスラップスティックな魅力をプラスしている。近年若手の演技派として注目されている吉高由里子だが、私の見た範囲では、本篇こそ最も彼女がその才能を遺憾なく発揮しているように思える。特に、イベントの会場に移動する途中の木村電器のワゴンにスクーターで並走してきた際の表情、終盤で一転した鬼気迫る形相は見物だ。
コメディ映画として、爆笑を誘うようなシチュエーションがないので、どうもふんわりとした印象を与えるのが人によっては物足りなく感じられるだろうが、むしろその円やかさこそ矢口史靖監督の映画の特徴、かつ魅力と言えよう。その意味ではまったくブレがなく、生々しさを醸しつつも面白さは損なっていない。宣伝などでも採り上げられるトイレやエレベーターのシーンは無論だが、ダメ社員3人組がダメなりに少しずつ努力を始めるくだりの、笑いを誘いつつも快い手触りは、まさに矢口映画の真骨頂である。
かなり窮した挙句の締め括りも絶妙だ。よくよく考えると、ああも都合よく人々を配置できたはずがないので、無理はあるのだが、その爽快感、予想外の格好良さは、ラストで見せる笑顔とも相俟って脳裏に鮮烈に刻まれる。
『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』のようなクライマックスの爽やかなカタルシスを求めていると、『ハッピーフライト』本篇共にちょっと不満を抱くかも知れない。ただ、決して悪人を出さず不幸な人を出さず、最後まで気持ちよく愉しめる作品、という意味では一貫しており、間違いなく洗練されてきている。主人公を老人にしたのは、そんな監督の成熟の顕れ……とちょっと乱暴に解釈してみるのも一興の、快作である。
関連作品:
『ハッピーフライト』
『HINOKIO』
『ロボッツ』
『サロゲート』
『ロボット』
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