監督・脚本:内田けんじ / プロデューサー:大岡大介、赤城聡、大西洋志 / エグゼクティヴ・プロデューサー:藤本款 / 撮影監督:柴崎幸三 / 美術:金勝浩一 / 編集:普嶋信一 / 音楽:羽岡佳 / 主題歌:monobright『あの透明感と少年』 / 出演:大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、田畑智子、常盤貴子、北見敏之、山本圭、伊武雅刀 / 製作プロダクション:シネバザール / 配給:KLOCKWORX
2008年日本作品 / 上映時間:1時間42分
2008年05月24日日本公開
公式サイト : http://www.after-school.jp/
[粗筋]
神野(大泉洋)――出身中学で教師として勤務する男。現在は夏休みで暇だが、しばし部活の監督のために学校に赴き、空いているときは妊婦の美紀(常盤貴子)の身の回りの世話を手伝っている。そんな彼のもとを、ひとりの男が訪ねてくる。
その男はかつての同級生・島崎を名乗っているが、実態は借金返済のために探偵まがいの仕事を請け負っている北沢(佐々木蔵之介)という人間。彼はサラリーマン風の男に頼まれて、木村(堺雅人)という男を捜していた。
木村という男が何をしたのか、北沢はよく知らない。ただどうやら彼が勤務する会社に目をつけられているらしい、そのきっかけが横浜で撮られた、彼とひとりの女(田畑智子)が一緒に写っている写真にあることだけが、北沢にもたらされた情報だった。
北沢は同級生・島崎を装ったまま神野を学校から連れ出すと、支払のために訪れた依頼人を追わせ、その背景を探らせる。依頼人が向かったのはボーリング場で、彼が落ち合ったのは木村が勤める会社の社長・大黒(北見敏之)。しかもそんな彼らを、北沢にとっても因縁のあるヤクザ・片岡(伊武雅刀)が探っているのを見つけたとき、北沢の直感が金の匂いを嗅ぎつける……
[感想]
2005年に公開された『運命じゃない人』の衝撃は未だに記憶に新しい。最初は、風変わりな価値観を持った男が勇気を振り絞って女性にアプローチをする様を描いていただけかと思えば、その背後で大金を巡って蠢いていた人々の姿を、時間軸を前後させることでユーモラスに剔出し、世界的に賞賛を浴びた。本篇は同作の内田けんじ監督が、脚本に2年を費やし、練りに練って作りあげた待望の最新作である。
前作が前作なので、情報を得た時点から大変に期待をしていた作品であったが、見事に応えてくれた。期待通りに恐ろしく入り組んだ、凝りに凝ったプロットがとにかく圧倒的である。何せ随所に伏線や鍵があり、裏が込み入っているために、粗筋を書くのが実にしんどく、また観ていない人に内容を説明しにくいのが今から悩ましい。
ただ個人的には、前作のように同じ場面を繰り返し描きながらも視点が違っているために意味合いが変わってくる、という工夫を期待していたために、そういう趣向はごく限られていたのが残念だった。また、広告の時点から盛んに「甘くみてると、ダマされちゃいますよ」と訴えるものだから、鵜の目鷹の目で鑑賞していた結果、全てではないものの幾つかの仕掛けは話に先駆けて察知できてしまい、驚きを充分に共有できなかったのも勿体なかった。
しかしこれは非常に贅沢な要望である。観ていただければ解る話だが、本篇は充分に練り込まれ、緻密に張り巡らせた伏線が終盤で繰り返し結びついて、意外性と共に笑いやドラマを巧みに盛り上げて、見事な構築美を為している。
これから御覧になる方の興を削がないよう詳述を避けるが、本篇は様々などんでん返しや趣向がただのアイディアに留まらず、その複雑な構成があるからこそ決して特徴的でない台詞に豊かな含蓄が加味され、最後の最後で滑稽さが際立つキャラクターがいる。特に傑出しているのが、ラストシーンで明かされる、ある場面の真意である。あそこは本当に、劇場でなければひとりで拍手喝采していたところだった。
あまりに凝った構成のうえ、一方で詳しく語る必要のない部分については大幅に端折っているために、漫然と観ていた人や生真面目すぎる人は終わってから頭の中に“?”マークが残ってしまうだろうが、そんな人にこそもう一度鑑賞するか、劇場用パンフレットに採録されているシナリオを参照していただきたい。その時こそ本篇の真価が理解できるはずである。――かく言う私自身、早くももう一度劇場で観直したい衝動に駆られている。
緻密に練り込んだシナリオと、それに必要な役者と匙加減をわきまえた演出が絶妙に噛み合った、優秀なエンタテインメントである。
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