原題:“風雲之天地雄覇 The Storm Riders” / 原作:マー・ウィンシン / 監督&撮影:アンドリュー・ラウ / 脚本&製作:マンフレッド・ウォン / 製作総指揮:レイモンド・チョウ、ジョン・チュウ / SFX:セントロ・デジタル・ピクチャーズ / 音楽:コンフォート・チャン / 出演:アーロン・クォック、イーキン・チェン、クリスティ・ヨン、千葉真一、スー・チー、アンソニー・ウォン、アレックス・フォン、マイケル・ツェー、ライ・イウチョン、ヴィンセント・ワン、ユー・ロングァン、ロイ・チョン、ディオン・ラム、ローレンス・チェン、チョイ・ガムコン、ジェイソン・チュー / 配給&映像ソフト発売元:Pony Canyon
1998年香港作品 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:小木曽三希子
2000年4月15日日本公開
2003年6月18日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2011/12/04)
[粗筋]
様々な武術が割拠する時代の中国。野心に燃える天下会総帥の雄覇(千葉真一)は、側近である預言者・泥菩薩(ライ・イウチョン)の、「風と雲、ふたりの弟子を味方につければ天下が取れる」という言葉に従い、泥菩薩が預言した年齢の少年を捜し、どんな方法を使ってでも連れてくるように命じる。
風は、かつて雄覇に雪飲剣と妻とを奪われた囁人王(アレックス・フォン)の息子であった。名誉を取り戻すべく雄覇にふたたび戦いを挑むも破れ、風は雄覇が仇であるとも知らず、彼のもとに引き取られる。
雲は、刀鍛冶・歩撃天(ユー・ロングァン)の息子であった。雄覇は雲が預言にあったとおりの年月に生まれた子供であることを知ると刺客を送り、歩撃天が鍛えた最高の武器・絶世剣もろとも奪おうと試みるが、歩撃天は刀を封印したあとだった。しかし、歩撃天は雲の目の前で殺され、雲は雄覇のもとへと攫われる。
そして、十年後。
成長した風(イーキン・チェン)は風神脚を、雲(アーロン・クォック)は排雲掌を、それぞれ雄覇から仕込まれ、もうひとりの弟子・霜(マイケル・ツェー)とともに天下会を支える存在となっていた。雄覇はあの預言ののち行方をくらましている泥菩薩に、預言詩を完成させようと、風と霜には泥菩薩の捜索を命じ、他方、雲には同盟を願い出てきた無双一門の頭領・一方の始末を命じる。
風と霜は無事に泥菩薩を捕らえることに成功したが、雄覇はその途中で変装して泥菩薩を拉致し、弟子たちの目を盗んで続きの預言をさせる。だが、泥菩薩が預言したのは雄覇の武林制覇ではなく、風と雲、ふたりが雄覇を倒す、というものだった。
ふたりが造反する可能性を排除するために、雄覇は唯一愛情を注ぐひとり娘・小慈(クリスティ・ヤン)を誠実な風に嫁がせることを決める。小慈に想いを寄せていた風は喜ぶが、実はこのとき既に、小慈は雲と結ばれていた。
そして、悲劇が起きる。
[感想]
かの『マトリックス』に影響を与え、ジェット・リー主演の『ロミオ・マスト・ダイ』で用いられる映像表現の原型にもなっている(どちらも製作がジョエル・シルヴァーなのだが)と言われる、伝説的な武侠アクション映画である。
まさに革命となった『マトリックス』以前に、ここまでCGを導入した超現実的アクション映画を、ハリウッドではなくアジアで製作し、成果を収めたことは賞賛すべきことだし、映画史のなかでも重要な事実であると思う。
だが、2011年の時点から眺めると、如何せん技術の拙さ、センスの古めかしさは否めない。コマ落としや残像でスピード感を演出しようとしたアクション、大仰で非現実的な技の数々や、古いカンフー映画を踏襲した掛け声の入れ方など、言ってみれば“漫画的”な作りが目立ち、全体に印象はチープだ。これを実写映画、それも子供向けではなく大人も対象にしたエンタテインメントで試みた意欲は評価出来るが、こう言っては何だが近年の戦隊アクション水準で、今となってはやはり少々、観ていて辛い。
とは言い条、それでも観ることが出来るのは、物語がしっかりしているからだ。中国ならではの“武侠もの”と呼ばれるジャンルに属する内容だが、様々な預言や因果が入り乱れつつもきちんと話が整頓されている。そして、預言から終盤の流れは察しがつくが、そこまでの紆余曲折が激しく、最後まで予想がつかない。たとえばジャッキー・チェンが初期に出演していた武侠ものは意外性を狙うあまり支離滅裂に陥っていたが、本篇は破綻がなく、綺麗にカタルシスへと繋がっている。
武侠ものにしてもカンフーものにしても、香港の映画はシリアスに徹すると復讐物語になってしまい、本篇も骨組みには復讐もののエッセンスが含まれているが、展開は決して定石通りになっていない。多くの悲劇を経て、中心人物である風と雲がひとつの境地に辿り着くあのラストシーンには、深い感動が滲んでいる。
現在も活躍する香港・中国圏の俳優たちがそれぞれにいい存在感を醸していることも、本篇の映像的な未熟さを補っているが、その中で特に気を吐いているのが本邦の千葉真一だ。ほぼ全篇に亘って出ずっぱりで、事実上主人公と言ってもいい扱いだが、圧倒的な貫禄でそれに応えている。香港映画は長いこと、実写であっても声優が吹き替えるのが慣例となっており、それが千葉真一の意識して大袈裟にしたと思われる所作にきっちりと嵌り、子供たちの運命を弄び、己の欲望に翻弄された男の猛々しさと醜さとを見事に示し、完全に作品世界を支配している。
前述の通り、僅か十数年で映像的には既にだいぶ古びた印象を与えるが、ストーリーの面白さ、キャラクターの完成度は高く、今でも充分に楽しめる。敢えて先進的な映像技術を組み込んだことまで含め、意欲の漲る好篇である。
関連作品:
『HERO 英雄』
『LOVERS』
『成龍拳』
『柔道龍虎房』
『死の森』
『ブラック・マスク』
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