『トイレット』

トイレット [DVD]

監督&脚本:荻上直子 / 製作:小室秀一、木幡久美、ショーン・バックリー / 製作総指揮:尾越浩文 / 撮影:マイケル・レブロン / 美術:ダイアナ・アバタンジェロ / 編集:ジェームズ・ブロックランド / 衣装:堀越絹衣 / フードスタイリスト:飯島奈美 / 音楽:ブードゥー・ハイウェイ / 出演:アレックス・ハウス、デイヴィッド・レンドル、タチアナ・マズラニー、もたいまさこ、サチ・パーカー、ガブリエル・グレイ、スティーヴン・ヤッフェ / パラダイス・カフェ&バックプロダクションズ製作 / 配給:Showgate×スールキートス / 映像ソフト発売元:Pony Canyon

2010年日本・カナダ合作 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:?

2010年8月28日日本公開

2011年3月16日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : https://www.cinemacafe.net/official/toilet-movie/

DVD Videoにて初見(2018/06/01)



[粗筋]

 レイ(アレックス・ハウス)の母が亡くなった。母が遺したのは、心の病で4年間引きこもりの兄・モーリー(デイヴィッド・レンドル)と、ひとを小馬鹿にした目で見る妹・リサ(タチアナ・マズラニー)、愛猫の“センセー”、そして――晩年に母が行方を捜し出し、同居を始めた日本人の祖母“ばーちゃん”(もたいまさこ)。

 母の死を契機に、リサは家を売却して財産を分割するつもりだったが、依然として家を出られないモーリーは強硬に拒んでいた。しかも、家には“ばーちゃん”がいる。リサは施設に入れればいい、とは言うが、“ばーちゃん”は生前の母としか会話せず、リサやモーリーとも意思の疎通をしていなかった。途方に暮れたリサは、レイにしばらく同居して欲しい、と頼むが、レイの態度は消極的で、兄弟達を失望させてしまう。

 しかしそんな矢先に、レイの暮らしているアパートで火災が発生した。焼け出された格好のレイは、やむなく実家に身を寄せる。

 いざ同居を始めると、“ばーちゃん”の振る舞いはレイの目に異様に映った。本当にまったく口を利かず、食事もあまり摂らない。朝にはバスルームのトイレを長時間占領し、出てくると何故か深い溜息をつく。彼女に生活のペースを乱され、レイの心境は穏やかではなかった――

[感想]

かもめ食堂』『めがね』などで評価された荻上直子監督が、カナダ資本の協力を得て撮った、初めての英語作品である――が、テイストは見事に日本映画だ。

 大半がカナダのキャストで固められたなか、“ばーちゃん”という役柄でもたいまさこが出演、血縁ということで餃子や日本ではお馴染みのウォシュレットが登場し、主人公は日本産のロボットアニメのオタク、といった具合に日本文化の面影はあるものの、ここまで日本映画らしく感じるのは、やはり海外で撮影される作品とはテーマや語り口に特徴があるせいだろう。

 特徴的なのは、どこか散漫に思えるけれど巧みに芯を掠めてくる会話と、そこに作られる“間”だろう。ごく日常的な何気ない会話を積み重ねてドラマを構築したりテーマを抉っていく手法は国を問わず存在するが、そこに籠められる独特のユーモアや、“間”のもたらす情感が、とても日本的なのだ。日本人の祖母を持つ一家の会話がそうなるのは不思議ではないが、レイと同僚との会話でさえ、日本のゆったりとしたコメディの味わいがあるのは、もはや狙ってやっている、としか思えない。

 会話の内容や間の取り方も然りながら、やはり鍵となっているのは“ばっちゃん”だ。常に行動がスローな彼女は劇中、終盤のあるひと幕までまったく口を利かず考えが窺い知れない。しかしその感情表現、“家族”への態度は、恐らくは多くの外国人がイメージする日本人像に近いと同時に、日本人にとっても親しみのある、物静かな母親像を極端にしつつも寄り添ったものだ。彼女を中心に寄り添っていくから、言葉が違っていても、本篇には日本映画の味わいが横溢しているのだろう。

 まるで“ばっちゃん”の人柄そのものに、本篇は掴み所がない。実のところ、“ばっちゃん”がこういう態度を取っているその理由は最後まで明確にはされないし、彼女につきまとう謎のほとんどは謎のままだ。けれど、本篇の空気感に馴染んでしまうと、それが大事な問題ではない、と感じられるはずである。向き合い、受け入れ、必要とあればそっと背中を押す、家族としての緩やかで暖かな絆のありように、観ていてほっこりとした心地になる。

 謎がほとんどそのままであるのに加え、奇妙で人を食ったような結末も好みの分かれそうなところだが、しかし本篇の空気にすっかり浸ったひとなら、たぶんこれも快く感じるはずである。湿っぽく、ちょっと毒があるけれど、不思議と頬が緩んでしまうラストは、観終わったあとも観る者の心に伸びやかな余韻を留める。好みは分かれるが惹かれればいつまでも心地好い、そういう作りが、日本では高い満足度を獲得する一方で、海外の映画情報サイトでは決して高い評価を得られていない理由かも知れない。

 言語や舞台が違っていても、テーマや語り口、作風さえ守っていれば、充分に日本映画になりうる、ということを証明した作品である。“ばっちゃん”を演じたもたいまさこの存在感も印象深い、不思議な魅力をたたえた1篇だ。

関連作品:

それでもボクはやってない』/『ALWAYS 三丁目の夕日’64』/『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』/『バック・トゥ・ザ・フューチャー

大誘拐 RAINBOW KIDS』/『ぼくのおばあちゃん』/『借りぐらしのアリエッティ』/『君の名は。

ザ・リング2』/『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』/『呪怨 パンデミック』/『シャッター』/『ある優しき殺人者の記録

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