新耳袋 現代百物語 第七夜

新耳袋 現代百物語 第七夜 新耳袋 現代百物語 第七夜』

木原浩勝&中山市朗

判型:文庫判

レーベル:角川文庫

版元:角川書店

発行:2005年6月20日

isbn:4575658650

本体価格:905円

商品ページ:[bk1amazon]

 簡潔かつ誠実な筆致で怪談を語り、一巻九十九話に統一してさきごろ遂に全十夜・約千話を達成したシリーズ、第七巻の文庫化。“ノブヒロさん”との奇縁とその執念を描いた連作「縁にまつわる十四の話」などを収録している。この巻限りの趣向として、各話のサブタイトルを妖怪に擬している。

 本書の親本が刊行された2002年ごろには現代怪談文芸の旗手としての地歩を完全に確立、確かこの年の暮れ頃から初めて同じタイトルを冠した映像版も製作されるようになり(『怖い日曜日』と題した映像版もあったが、こちらは出演しているアイドル主体のため、新耳袋らしからぬ改変が多かった)、貫禄さえ感じさせるようになった頃の一冊である。厳選されたエピソードは類書に類例を求めるのも難しいほど個性的で、テーマごとに纏めた構成も堂に入っている。まったく別々の人の体験を収録しながら、怪異の軸となる人形の動きに一貫したものを感じさせる「擬にまつわる六つの話」や、古典怪談に通じる情念を漲らせた「縁にまつわる十四の話」のインパクトは強烈だ。

 また、久々に読み返してみて思うのは、本巻が特に印象深い単発エピソードを多く収録している点である。前述の連作ものが傑出しているのは言うまでもないが、「さとり」「残煙」「板人形」「寿司提灯」など単体で簡潔ながら異様な後味を留める話がやたらと多い。いま掲げたうち最後の「寿司提灯」以外はすべて『怪談新耳袋』にて映像化されていることを併せて考えると更に興味深い。個人的に「寿司提灯」はヴィジュアル化すると相当に薄気味悪い話になるのでは、と密かに『怪談新耳袋』での登場を心待ちにしているのだが……地味に予算がかかりそうなので無理かなあ。

 文庫版あとがきで著者自身が認めているとおり、本書各編のサブタイトルはお遊びとしてはともかく『新耳袋』のエピソードの分類方法としては失敗している。だが、サブタイトルにまで拘りを持って編纂している真摯な態度の表れであり、そう考えると本書は逆説的にシリーズの高い志を証明している一冊と言えよう。

 なお、第二話から第四話のエピソードに登場するホテルに、本書の著者のひとり中山市朗氏と、氏と交流の長い北野誠氏をはじめとする数人のメンバーが乗り込み、実地に検証を行った一部始終を描いた記事が、本書と同時期に刊行された『幽 Vol.003』に収録されている。親本ではカバー下に、本文に登場した“一本腕”の写真が掲載されていたが、文庫版ではさすがに省かれているので、実物が御覧になりたい方、現場の異様な雰囲気をもっと詳しく知りたいという方は是非ともそちらを併せて購読いただきたい。

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