『小説エマ1』
判型:文庫判 レーベル:ファミ通文庫 版元:enterbrain 発行:2005年4月1日 isbn:4757722095 本体価格:660円 |
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2002年から『コミックビーム』誌上で連載を開始、ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台に、当時の風物を徹底的に書き込んだ正統派の“メイドさん”漫画として話題を集め、2005年にはテレビアニメの放送も始まった作品のノヴェライズ。
新興の貴族ジョーンズ家の総領息子であるウィリアムはある日、気紛れを起こして少年時代の家庭教師であるケリー・ストウナー女史の家を訪ね、そこで出逢った 原作通りにして、見事なまでにヴィクトリア朝イギリス小説。原作にしてからが膨大な資料に当たり、綿密で正確な描き込みを施したことから通常の漫画読者以外からも高く評価されるに至った作品であるが、本編もまた微に入り細を穿つような書き込みが頼もしい。風物を随所に盛り込む一方で、原作ではコマとコマの間や表情によって描かれるのみだった登場人物たちの感情や心理を丁寧に描いているのである。そのために序盤は進み方がややスローペースだが、この味わいそのものがヴィクトリア朝を舞台にした小説の傾向なので、その点まで含めてよく研究された一冊だと思う。 が、第三話にてウィリアムの友人であるマハラジャの王子ハキムが登場するとにわかに展開・描写共にスピードを増すのが可笑しい。解説で『エマ・ヴィクトリアンガイド』の共著者である村上リコ氏が指摘しているように、このハキムというキャラクター設定は女性の本能か何かを刺激するらしく、アニメ版でもかなり暴走しているという。ベテランの著者だけあって、ここだけ浮き上がってしまうような匙加減のミスを犯しているわけではないが、それでもハキムの位置づけをどう捉えるかによって本編の評価は分かれるように思う。 物語としてはほぼ原作を忠実に辿っており、ウィリアムとエマとが次第に互いへの想いを深めながら、最終的に現実の巨大な壁を認識させられるところでいったん幕を下ろす。この先いったいどうなる?! というところで終わってしまうのが物足りないというか狡いという感じではあるが、原作ファンやヴィクトリア朝を舞台にした物語に愛着のある人々の要求に応えつつ期待させるところまで引っ張ってくれる本書は非常に良い仕事である。素直に続刊を待ちたい。 なお、原作ファンにとっては、森薫氏自らの手によるピンナップやふんだんな挿絵も見所。特にロミオとジュリエットをモチーフにしたピンナップ、エマ初登場のシーンの愛らしさは絶品。ポスターにして飾りたいぐらいだ。 |
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