『近畿地方のある場所について』 背筋 判型:四六判ソフト 版元:KADOKAWA 発行:2023年8月30日 isbn:9784047375840 定価:1430円(本体:1300円) 商品ページ:[amazon/楽天/BOOK☆WALKER] 2023年9月9日読了 |
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ネットの小説投稿サイト《カクヨム》で発表され、その怖さが話題となった作品の書籍化。ライターである著者がオカルト系専門誌の編集者から、近畿地方のとある場所に関する記事の執筆を請け負う。予算の制約もあって、過去記事を土台にした内容にしようと資料を漁っていた編集者は、どうやら同じ場所に起因すると見られる記事や投稿、取材記録が複数存在することを発見した。そしてそこで記録された事件や怪異は。次第に結びつき、その土地の異様な姿を露わにしていく……。 話題になった当時にネット上で、不定期に新しい記事がアップされているときから読んでいた。そのうえで書籍版を購入したのは、それだけ面白く、ちょっとでも売上に貢献したかったからだ――決して取り憑かれたからではない……と思う。 個人的に、本署のような構造の作品は前々から読んでみたかった。過去を遡って発見された記事やインタビューの書き起こし、謎の当初に至るまで、複数の記事を採り上げていく。当初は一見、何の繋がりもない出来事、現象が、やがて奇妙な符合を見せて、更に異様な像を結んでいく不気味さ。 ネットの連載でひととおり読んで感じたのは、この怖さはネット連載という体裁で、段階的に記事がアップされ、その過程をリアルタイムで辿ってこそいちばん強烈だったのでは、という点。恐らくはフィクションだろう、と考えながらも、それぞれの記事が記された年代の事件、風俗が織り込まれた生々しさに、真実なのかも、という疑いを覚えながら、次の章がアップされるのを待っている期待感、そして記事が追加されるごとに増す薄気味悪さ。その挙句に訪れるクライマックスは、色んな意味で衝撃的です。 ただ、終盤に至って駆け足になった印象があったことと、これを書籍として1冊にまとめることで、前述したような期待感と、じわじわと迫ってくるような怖さが弱まるのではないか、という危惧を抱いていた。しかしどうやら杞憂に過ぎなかったらしい。1冊にまとまっても、次第に全貌が浮かび上がってくる昂揚感と恐怖は健在だったし、こうして書籍としてまとめることで、文字のみだった《カクヨム》では収録出来なかった雑誌記事の挿絵に、袋綴じというかたちで更におぞましさを強調する資料も追加されている。書籍化にあたって行われた加筆修正がどこなのか、までは確認していないが、少なくともその本質の面白さは損なわれていない、と感じた。 しかも、購入した読者の手許に残る、というのが、本篇の主題と共鳴して、より一層の忌まわしさを醸成している。なまじ最後まで読み解いても、まだ窺い知れない核があり、なかつ書籍のかたちで触れることで、こちらにまで伝播しそうな恐ろしさがある。広がりの早さ、という意味では、ネットで発表されたことが特に効果的だが、紙の書籍として手許に残っていることが、より根深い拡散を想像させておぞましい。 のちの版でも踏襲されるかは不明だが、私の購入した初版はシュリンク包装が施され、とある特典が封入されている。何も知らずに見ると意味不明だが、内容を知った上だと、これが存在することもまた怖いのである。ネットで楽しんだひとも、封入特典と、それが終了したとしても袋綴じの資料が含まれている本書を購入する価値はある。って言うか、楽しんだのなら著者にお金を落としましょう。そしてお山へ行きましょう。 |
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