TOHOシネマズ日本橋、スクリーン9入口脇に掲示された『見える子ちゃん(2025)』チラシ。
原作:泉朝樹(KADOKAWA・刊) / 監督&脚本:中村義洋 / 企画:二木大介 / プロデューサー:天馬少京、星野秀樹 / 撮影:川島周 / 照明:本間大海 / 美術:久渡明日香 / 装飾:大熊雄己 / 編集:松竹利郎 / 衣装:宮本茉莉 / VFXスーパーヴァイザー:齋藤大輔 / 録音:小川武 / 音楽:堤博明 / 主題歌:BABYMONSTER『GHOST』 / 出演:原菜乃華、久間田琳加、なえなの、京本大我、山下幸輝、堀田茜、高岡早紀、滝藤賢一、吉井怜、小松利昌、中込佐知子、川原瑛都、田山涼成、オウマガトキFILM、シークエンスはやとも、松嶋初音 / 制作プロダクション:ツインズジャパン / 製作幹事&配給:KADOKAWA
2025年日本作品 / 上映時間:1時間38分
2025年6月6日日本公開
公式サイト : https://movie-mierukochan.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2025/6/6) ※舞台挨拶生中継つき上映
[粗筋]
女子高生・四谷みこ(原菜乃華)の日常はある日突然、激変した。他の人には見えない“なにか”が突然、見えるようになってしまったのだ。
ネットの情報を頼りに対処法を探ったみこが辿り着いたのは、“ガン無視”。うっかり構ってしまうと縋りつかれてしまうので、みこにはそれくらいしか方法はなかった。
だが、親友の百合川ハナ(久間田琳加)の右肩を青い手が掴んでいるのを見て、さすがに放ってはおけなかった。食塩を背後からかけてみたり、数珠を渡してみたりしても効果はなく、最終的に、通学路の途中にある神社でお詣りをして、どうにか追い払うことに成功する。
折しもみこたちの通う高校では、文化祭の準備が始まっていた。クラス委員として出し物の要望をまとめるみことハナだったが、校内で競合する出し物が続き、くじ引きで負け続けている。そんな矢先、担任の荒井先生(堀田茜)が予定より早く産気づき、出し物が決まらないまま産休に入ってしまった。
代わりにやって来たのは、どこか陰気で人見知りの様子だが、涼しげな顔立ちのイケメン遠野善(京本大我)。同級生たちは沸き立ったが、みこだけは激しく動揺。遠野先生の背後には、黒々とした影が取り憑いていたのだ――
[感想]
SNSでの投稿をきっかけに人気を博し、アニメシリーズも制作された人気コミックが本篇の原作である。私自身、比較的初期の頃からの読者だが、次第に好みとは違う方向に進んでしまったため、読むのをやめてはいないが、単行本を少し遅れて買う消極的な読者になってしまった。
そのため、実写映画化、というニュースに接しても、ひとまずは「へー」程度の反応でいたのだが、監督が中村義洋、と聞いた途端、印象が変わった。
中村義洋監督といえば、伊坂幸太郎作品の映画化を複数手懸け、近年はエンタテインメント作品でヒットを繰り出しているが、キャリア初期に『ほんとにあった!呪いのビデオ』の演出を手懸けた人物でもある。7巻で演出は退いたが、その後もナレーションとして続投、いまや110巻を超えたシリーズを象徴する存在であり続けている。
本篇に2年先駆けて、いわば原点回帰とも言える『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』の演出に携わったのは、或いは本篇への布石だったのかもしれない。本篇は、ホラー作品の演出として名前の知られるようになった中村監督が、ミステリ、エンタテインメント系作品を多数手懸け、得てきた経験を重ねて完成させた、ひとつの到達点なのではないか、と感じた――パンフレットを読むと、実際には原作単行本3巻時点で本篇のオファーを受けていたそうなので、制作の規模や撮影のスピード感を考えると、『ほん呪100』のほうがスタートは遅かった可能性も高いが、まあ、それはあくまで過程の話で、完成順から見れば、やはり本篇には意義があると思う。
とはいえ、本篇は決して原作通りとは呼べない。原作では、みこが知覚する見えざるモノは、常識ではあり得ない異形だが、映画では基本、いわゆるホラー、怪談映画で目にする“幽霊”そのものだ。原作でも、既に亡くなった人が同じ姿で存在し続けるパターンもあるので逸脱はしていないが、特撮やCGを駆使した迫力の化物に期待していると肩透かしを食う。他にもいくつかあるのだが、あまり細かく触れないほうがいいだろう。
だが、みこやハナ、粗筋では名前を出すタイミングがなかった二暮堂ユリア(なえなの)という、メインキャラクターの基本的な設定は変えていない。登場の仕方や立ち位置、関係性は微妙に異なっていても、人物像や、それぞれの印象的な見せ場は、タイミングを再構成しつつもかなり活かされている。原作を読んでいる人なら、随所でニヤリとさせられるはずである。原作のイメージをきちんと落とし込んで演じきった俳優陣も賞賛に値する。
ストーリーにも、原作の要素が細かにちりばめられつつ、1本の長篇映画として見事に構成されている。見えているみこと見えていない周囲の人々、というコントラストを印象づけるプロローグ、見えてしまったモノとどう付き合うべきか、という試行錯誤、そしてこういう作品では本来あるまじき“無視”という対処法に至ることで、表現としてはホラーなのに、ちょっとしたスリルと、コメディ感が添えられている。怪異の見た目が違っていても、ちゃんと原作のホラーコメディのテイストが再現されている。
なおかつ、非常に丁寧な描写に裏打ちされた驚きが、きちんと用意されている。きちんと原作をリスペクトしているからこそ、組み込まれた“驚き”もまた原作に準拠しているのだが、しかし本篇ではそれだけに留まらない。たいていの人は、最後の衝撃に驚き、唸らされるはずである。
あまりに意欲的な脚色を行ってしまうと、原作ファンの顰蹙を買う可能性もあるのだが、恐らく本篇に腹を立てるひとは稀だろう。本篇の仕掛けは巧みなアイディアだが、明確な原作へのリスペクトが感じられる趣旨と展開なので、腑に落ちる。個人的には、原作でここも使って欲しかった、という要素がカットされた点だが、ここを本気でやるとレーティングが変わる危険すらあったし、原作を知らない観客の嫌悪感を誘う可能性もあったので、適切な判断だと思う。そのあたりは、インディーズ的な作品から規模の大きいエンタテインメントまで幅広く手懸けてきた中村監督ならではのバランス感覚だろう。
大きな驚きを演出しつつ、ドラマには情緒があって、遊びやユーモアも忘れていない。そのサーヴィス精神が発露するエンドロールまで、隅々が楽しめる娯楽作品である。原作ファンはほぼ安心して観ていいし、たとえ原作に接したことのない人でも、それどころかホラーが苦手という人であっても楽しめるはずだ。
関連作品:
『Booth ブース』/『アヒルと鴨のコインロッカー』/『白ゆき姫殺人事件』/『鬼談百景』/『残穢 -住んではいけない部屋-』/『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』
『ミステリと言う勿れ』/『マスカレード・ナイト』/『七人の秘書 THE MOVIE』/『エイトレンジャー』
『アザーズ』/『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』/『マローボーン家の掟』/『日本橋』/『異人たちとの夏』/『女優霊』/『ステキな金縛り』
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