小泉凡/木元健二[聞き手]『セツと八雲』

小泉凡/木元健二[聞き手]『セツと八雲』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『セツと八雲』
小泉凡/木元健二[聞き手]
判型:新書判
レーベル:朝日新書
版元:朝日新聞出版
発行:2025年9月30日
isbn:9784022953377
価格:957円
商品ページ:[amazon楽天BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2025年11月26日読了

 松江藩の士族の娘として生まれた小泉セツと、複雑な出自と漂泊の日々を送ってきたラフカディオ・ハーン――のちの小泉八雲はどのように育ち、巡り会い、絆を育んだのか。二人の曾孫であり、民俗学者として、小泉八雲記念館の館長として研究・発信を続ける小泉凡が、朝日新聞社松江総局に2021年から3年間務めた木元健二を聞き手に語る、二人の姿。

 研究者として、小泉八雲記念館の館長として自ら筆を執る機会は多いはずの著者が聞き書きの体裁で発表する、というのが少々意外だったが、そこには、NHK朝ドラ『ばけばけ』への協力や、付随する執筆や講演活動などで極めて多忙だった著者の負担を軽減する意図があったのではなかろうか。また、本書中でも繰り返し参照される小泉セツ『思ひ出の記』がセツ自身の筆ではなく、親族にあたる三成重敬の聞き書きという形で綴られたことにも倣っている、とも言える。
 しかしこの手法はかなり奏功しており、著者が講演で示す優しい口調を再現したかのような文章は読みやすく非常に理解しやすい。八雲やセツについての著述、展示に繰り返し接してしまったあとだと、やはりだいぶ約めた印象はあるが、要点は押さえており、これから小泉セツ、小泉八雲について知りたい人には絶好の1冊となるはずである。
『ばけばけ』の放送開始に先駆けてまとめられただけあって、他の書籍では触れられた覚えのない情報も随所に見受けられる。冒頭で触れられる、著者自身の曾祖母と縁という、著者以外には語り得ないエピソードもさりながら、他の研究者が導き出した事実もあって、既に小泉八雲関連の書籍に触れた、という方も改めて一読する価値はある。これを書いている現時点で『ばけばけ』の放送開始から2ヶ月近く経ったが、恐らく同様の情報が予めドラマの製作者にも共有されているのだろう、反映したと思われる描写も散見されるので、これからドラマを観ようと思っている方、鑑賞後にモデルとなったセツ、八雲について知りたいと思われた方が読むのに相応しい1冊だろう――翻って、なるべく新鮮な気持ちでドラマを楽しみたいなら、後回しにすべきだろう。
 八雲ではなくセツを先にタイトルに冠した本書は、ハーンと出会うまでのセツの生い立ちは無論だが、八雲亡きあとのセツたち家族と、その後についても言及しているのが興味深い。このあたりは決して初出ではないものの、八雲の生い立ちを調べていては触れられない要素がしっかりと含まれている。大黒柱を失った家族を支えたものや、著者に至る家族のその後に短いながらも触れていて、抜かりがない。11月末時点で多くのドラマ視聴者が気になっているかも知れない、あの人物のモデルにも言及がある。
 新書なので本文200ページ足らず、と紙幅は少ないが、きっちりと押さえるところを押さえた好著だと思う。


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