
TOHOシネマズシャンテ、階段踊り場の壁面に掲示された、『ドラキュラ(1992)』上映当時の午前十時の映画祭16案内ポスター。
原題:“Bram Stoker’s Dracura” / 原作:ブラム・ストーカー / 監督:フランシス・フォード・コッポラ / 脚本:ジェイムズ・V・ハート / 製作:フランシス・フォード・コッポラ、フレッド・フックス、チャールズ・マルヴェヒル / 製作総指揮:マイケル・アプテッド、ロバート・オコナー / 撮影監督:ミヒャエル・バルハウス / プロダクション・デザイナー:トーマス・サンダース / 編集:ニコラス・C・スミス、グレン・スキャントルベリー、アン・ゴアソード / 衣装デザイン:石岡瑛子 / 特殊効果&第2版監督:ロマン・コッポラ / 音楽:ヴォイチェフ・キラール / 出演:ゲイリー・オールドマン、ウィノナ・ライダー、アンソニー・ホプキンス、キアヌ・リーヴス、リチャード・E・グラント、ケイリー・エルウィズ、ビリー・キャンベル、セイディ・フロスト、トム・ウェイツ、モニカ・ベルッチ、ミカエラ・ベルク、フロリナ・ケンドリック、ジェイ・ロビンソン / 初公開時配給:コロンビア・トライスター映画 / 映像ソフト日本最新盤発売元:Sony Pictures Entertainment
1992年アメリカ、イギリス、ルーマニア合作 / 上映時間:2時間7分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / PG12
1992年12月19日日本公開
午前十時の映画祭16(2026/04/03~2027/03/18開催)上映作品
2017年10月4日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc|4K ULTRA HD + Blu-ray]
TOHOシネマズシャンテにて初見(2026/8/25)
[粗筋]
1462年、ルーマニア・トランシルヴァニアは、トルコ軍の脅威に晒されていた。領主のドラクル(ゲイリー・オールドマン)は領民を守るため、結婚したばかりの妻・エリザベータ(ウィノナ・ライダー)を置いて出征する。ドラクルは大勢の敵を串刺しにし、辛うじてトルコ軍を退けることに成功したが、敵は復讐のため、ドラクルの居城に矢文を飛ばし、エリザベータに夫が戦死した、という偽りの報せを届けた。その結果、エリザベータは自ら川に身を投じてしまう。妻の亡骸を目にしたドラクルは、自らが信じて戦った神を呪い、復讐のために血を啜り生き存える吸血鬼へと変貌した。
1987年、イギリス・ロンドン。若き弁護士のジョナサン・ハーカー(キアヌ・リーヴス)は、ルーマニア在住のドラキュラ伯爵が、新たにロンドン近郊の城を購入し移住するため、その契約を取り付けるべく、列車と馬車を乗り継ぎ、伯爵の元を訪れる。
城の中は暗く、異様な気配に包まれていた。初めて面会するドラキュラ伯爵の異様な言動にも困惑しながらも、契約を成立させるため、ジョナサンはあえて疑問を口にしなかった。しかし、1ヶ月間の滞在を要求されると、さすがに不審が募った。そして最初の夜に、ジョナサンは異様な出来事に見舞われる――
その頃、ロンドンでは、ジョナサンの婚約者ミナ・マーレイ(ウィノナ・ライダー/二役)が悩んでいた。移り気で楽天家だった親友のルーシー・ウェステンラ(セイディ・フロスト)が夢遊病を起こし、日々、奇妙な行動を取り始めたのである。やがてルーシーは激しく衰弱し、ベッドから起き出すことも困難になった。ルーシーと婚約したアーサー・ホルムウッド(ケイリー・エルウィズ)は、友人のジャック・セワード医師(リチャード・E・グラント)の助言に従い、精神医学者のヴァン・ヘルシング(アンソニー・ホプキンス)を呼び寄せる。
ルーシーを襲う怪異の背景には、ドラキュラ伯爵がいた。ジョナサンを自らの城に閉じ込める一方、自身は買い取ったロンドン近郊の城に移り、蠢き始めていた――
[感想]
いまやジャンルとさえ呼べる“吸血鬼”という題材を世界に知らしめた怪奇小説を、1992年に『地獄の黙示録』や『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラ監督が映画化した作品である。
とはいえ、あまりにも定着しすぎて、そもそも原典と言える小説がどんな筋か、ご存じない方も多いのではなかろうか――恥ずかしながら、私自身も、いつか読まねば、と思い、わざわざ翻訳書も買っているのに、未だきちんと読んでいない――いちおうホラー小説も書いている人間なのに。
私の恥はさておき、それでもあまりに著名な作品であるため、粗筋を調べるのは容易い。そして、ざっと眺める限り、原典の基本的な展開、構成については手を加えていない、恐らくその点が、コッポラ監督のこだわりだったのではなかろうか。
そしてその前提のもと、本篇は1992年に製作された、という前提を踏まえても、怪奇映画として古典的な手法を意識的に用いている。陰影を強調した映像、迫り来る脅威を壁に映りこむ影で象徴した表現、雰囲気のある音楽と、怪奇映画と言えば、と問われて思い浮かぶような趣向に彩られている。それでいて、ひとつひとつは1992年の水準でリアルに、洗練された描き方をしており、この時代に製作する意義も考慮して形にしている、と感じる。
あまりにも古典的な話運び、雰囲気を重視しているせいか、あまりそうしたものに接した経験のない人には充分、驚きや恐怖が味わえるはずだが、馴染みすぎた人にとっては、心地よくも間延びした印象が強いことは否めない。正統派だが、それ故に予想通りなので、率直に言えば退屈と思ってしまうのである。
それでも、細部にこだわり抜いた映像の美しさとその価値は否定するべくもない。そして、古典的な内容をそのまま温存した物語には、予定調和も感じるが、だからこその興奮と情感が色濃い。主な登場人物の周囲に起きる不可解な出来事、ドラキュラが遙か遠いトランシルヴァニアから、じわじわとロンドンに迫っていく恐ろしさ。遠ざけられたジョナサン・ハーカーがどうやってロンドンに帰還するのか、という部分から、王道の娯楽ドラマらしいサスペンスと昂揚感が演出されている。
本篇で特筆すべきは、クライマックスで重視されているのが、一種“異形”のロマンスである、という点だろう。ある意味で複雑に歪んだその愛情と執着はおぞましさも覚える一方で、切なさもある。その幕引きにはカタルシスもあるが、言いようもない哀感が滲み、複雑で芳醇な余韻を残す。それこそ熟成されたワインに似た、といささか気取った比喩を用いてもしっくり来るような、濃厚な余韻が残る。
想像するに本篇は、もう既に充分すぎるほどキャリアを築いた監督が、以降も幾度か手懸ける幻想的な作品、ホラー作品の源流にある作品を、この当時の技術を駆使し、理想的な形で映像にしたい、と理想を追求して仕上げたのではなかろうか。そういう趣味的な経緯があってこそ、ある意味で時代を無視した、贅沢な作品が生み出されたのだろう。
本篇そのものの感想、というわけではないのだが、観ながらずっと思っていたことがある。
もしかして、F・W・ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』って、本当に固有名詞以外、ほぼブラム・ストーカーの小説まんまだったんだろうか。
私はロバート・エガース監督による同作のリメイク『ノスフェラトゥ(2024)』を鑑賞したのみだが、少なくともテーマ、プロットはほぼほぼおんなじである。エガース監督が時代に合わせて、官能性やジェンダーへの含みを持たせたことは考えられるが、あえて“ノスフェラトゥ”のリメイクとして製作した以上、そこまで内容的に隔たったものになるとは考えにくい。
或いはF・F・コッポラ監督が、この『吸血鬼ノスフェラトゥ』にも敬意を表し、その要素まで採り入れたから尚更に似通った、という可能性も考えられる。
……どっちにしても、いちおうホラー、幻想小説好きなのに、まだちゃんとブラム・ストーカーの小説版を読んでねえ私がいけないのである。
関連作品:
『ゴッドファーザー』/『ゴッドファーザー PART II』/『ゴッドファーザー<最終章>:マイケル・コルレオーネの最期〈4Kデジタルリマスター版〉』/『地獄の黙示録 劇場公開版<デジタルリマスター>』/『Virginia/ヴァージニア』/『地獄の黙示録 ファイナル・カット』
『レオン 完全版』/『シザーハンズ』/『エレファント・マン 4K修復版』/『マトリックス』/『ゴスフォード・パーク』/『SAW』/『London Dogs』/『ザ・ウォーカー(2010)』/『ジェヴォーダンの獣』
『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』/『ノスフェラトゥ(2024)』/『ヴァン・ヘルシング』/『デイブレイカー』/『ダーク・シャドウ』/『血の伯爵夫人』/『ぼくのエリ 200歳の少女』/『モールス』/『スペル』/『ブレイド(1998)』/『ブレイド2(2002)』/『ブレイド3(2004・アンレイテッド版)』/『クロノス〈HDリマスター版〉』/『30デイズ・ナイト』/『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』/『アラーニェの虫籠』/『アムリタの饗宴』/『ミッドサマー』


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