英題:“The Good, The Bad, The Weird” / 監督:キム・ジウン / 脚本:キム・ジウン、キム・ミンスク / 製作:チェ・ジェウォン、キム・ジウン / 撮影:イ・モゲ / 美術:チョ・ファソン / 編集:ナ・ギュン / 衣装:クォ・ユジン / 武術:チ・ジュンヒョン / 音楽:タルパラン、チャン・ヨンギュ / 出演:チョン・ウソン、イ・ビョンホン、ソン・ガンホ、リュ・スンス、ユン・ジェムン、ソン・ヨンチャン、オ・ダルス、ソン・ビョンホ、イ・チョンア、マ・ドンソク、キム・グァンイル / 配給:CJ Entertainmentt×Showgate
2008年韓国作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:根本理恵 / PG-12
2009年8月29日日本公開
公式サイト : http://www.gbw.jp/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2009/09/03)
[粗筋]
1930年代の中国大陸、日本の傀儡政権が樹立した頃の満州は、様々な民族が入り乱れ、複雑な勢力図が展開されていた。
朝鮮人の富豪キム・パンジュ(ソン・ヨンチャン)は奇怪な計画を実行に移していた。ある“地図”を日本の銀行家である金丸という人物にいったん託すふりをしながら、自らが面倒を見てきた馬賊のパク・チャンイ(イ・ビョンホン)に命じて金丸らの乗った列車を襲わせ、直後に奪還することを目論む。
パンジュは鉄道の切符を用意していたが、チャンイにとって鉄道を止めることぐらい決して難しいことではない。線路上で襲撃、他のお宝を貪るついでに地図を奪うつもりでいたチャンイだったが、そこで予想外の事態が出来した。
金丸たちを、チャンイに先駆けて襲撃した奴がいたのだ。
チャンイたちが鉄道を急停車させたとき、その男――ユン・テグ(ソン・ガンホ)はちょうど金丸たちと対峙し、一触即発の状況にあった。だが急停車の衝撃で金丸とその護衛が昏倒すると、金目の物を漁り、ついでに発見した謎の地図を懐に収めて逃亡する。
地図が脇からかっ攫われたことに気づいたチャンイは、手下と共にテグを追うが、逃げ足が速く機転の利くテグはいち早く鉄道から脱出、荒野を走って逃げていく。チャンイはショットガンでこそ泥の足を止めようとするが、なかなか当たらない。
このとき、もう一砲の銃が、テグに狙いを定めていた。この射手は名をパク・ドウォン(チョン・ウソン)と言う。彼は懐に常に、お尋ね者たちの似顔絵を忍ばせて、その気配を追っている賞金稼ぎであった。そのためにドウォンは、逃走者へと同時に狙いを定めている者が“賞金首”であることを悟る。
すぐさまドウォンはチャンイとテグと交互に銃口を向けるが、これがテグには幸いする。狙いの分散した隙にテグは相棒マンギル(リュ・スンス)の走らせてきたバイクに飛び乗って、現場を離れるのだった。
――かくして、“宝の地図”を巡る、善人=ドウォン、悪人=チャンイ、変人=テグ、そして敵対する馬賊に日本軍まで絡めた大混戦の幕が開いた。
[感想]
韓国産の西部劇、というと何やら突拍子のない代物のように聞こえるが、本篇は舞台を1930年代、日本が傀儡政権を置いた頃の満州に設定することで、見事にそれっぽい雰囲気を構築している。無論、西部劇そのものではないが、拳銃も馬も鉄道も登場し、舞台の多くは砂漠、或いは荒野となるのも必然。土地柄や時代もあって、多くの民族が入り乱れていても不思議はない。まさに西部劇そのものの、無法者があちこちに徘徊し、熱いドラマを繰り広げる余地が充分にある。本作のオリジナルではないのかも知れないが、改めて目をつけただけでも炯眼と言えよう。
とはいえ、時代背景をまるっきり無視しているわけではない。占領され郷里を失った朝鮮人たちが、犯罪者となって糊口をしのいでいるかと思うと、捲土重来を狙って各地で独立軍を形成しているらしき痕跡を随所で匂わせていたりと、きちんとこの時代、この土地ならではの背景もあちこちで語られる。
予告篇でもさんざん煽っている通り、この作品の見所はあまりに無茶苦茶すぎる登場人物たちの活躍ぶりと、考えるよりも感じろ、と言わんばかりに刺激的な展開の数々だ。
初っぱなに強いインパクトを見せつけるのはソン・ガンホ演じる“ウィアード=変人”のテグだ。結果的にチャンイの鉄道襲撃に先んじて強盗を働くのだが、その仕事の雑さ、大胆さは強烈だ。後ろから銃弾を見舞われているのにヘラヘラしながら全力疾走で逃げる様はいちど観たら忘れがたい。
イ・ビョンホン演じる“バッド=悪人”チャンイは計算高そうに見せかけて異様に執念深くマッドな振る舞いを繰り返し、チョン・ウソンが扮する“グッド=善人”は終始冷静沈着ながらロープを使って空中を飛び回りながらの銃撃など奇想天外な技を繰り出し常人でないことを見せつける。この3人がろくに会話もないままに繰り広げる駆け引き、意表をついた戦いぶりが絡んでいく様は、見ているだけで痺れるものがある。
ただ残念なのは、折角の伏線、盛大に関わってくるモチーフが、全体的に無駄に使われている傾向があることだ。結局主に立ち回るのはメインの3人だけ、あとは基本やられ役である――その程度はいいとしても、終始意味ありげに立ち回っていた日本軍や他の馬賊たちの扱いはさすがに大雑把すぎる。また中心人物たちの過去についても、クライマックスで提示する際にサプライズとして充分な効果を上げていないことが気に懸かった。そもそも推測が容易であることを差し引いても、決して軽い内容ではないだけに、他に活かし方はなかったのか、と惜しまれる。多くの伏線があるだけに裏読みをしたくなるし、そこからクライマックスで意外な感動、衝撃を齎すことを期待してしまうが、その意味においては肩透かしの印象を受けるだろう。
ただ、それでも決して強い不満を感じたり、伏線の唐突な扱いに戸惑ったりしないのは、主要キャストたちの演技が登場人物たちの佇まいに説得力を齎しているからだ。“グッド”のクライマックスにおける悟ったかのような物言いは、それまでのチョン・ウソンの一歩引いたような客観的な演技が保証しているし、“最強”を決めることに執着する“バッド”の狂気はイ・ビョンホンの振り切れた表情作りが奏功している。そして、他の2人よりも遥かに謎めき、多彩な表情を見せて観客をも幻惑した挙句、最後にいちばん意外な側面を見せる“ウィアード”は、恐らくアジアでも屈指の顔面力を誇るソン・ガンホをおいて演じきれる人材はそうそうあるまい。
物語としてのカタルシス、という意味では不満が多いが、しかし終始観る者を瞠目させるアクションのインパクト、全篇に漲る熱気はただ事ではなく、有無を言わさず観客を引っ張っていく力がある。アジアらしくも、きちんと西部劇の匂いを色濃く滲ませた、大胆極まりない娯楽大作である。
本篇で“悪人”を演じたイ・ビョンホンは近年、活躍を世界的に広げつつある。日本においても立て続けに新作が公開されており、私は2009年に入ってからこれで3本、彼の出演作を劇場で鑑賞している。俳優としての色気が備わっているからこその活躍であろうが、私にはひとつ、気に懸かることがある。
なんか知らんが、毎回脱いでいるのだ、この人。
本人も多少は自覚しているようで、何処かで「作品に必要だから脱いでいる」と語っているのを目にした覚えがあるのだが、本当にそうだろうか。木村拓哉と共演した『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』ではヘマをした部下に制裁を加える際、服が返り血を浴びないように脱いだ、のは解る。ハリウッドのSFアクション大作『G.I.ジョー』でも成り行きだった、という印象がある。では本篇の場合はどうか。
予告篇では、ベッドに座りシーツを被っていたチャンイが、シーツを脱ぎ捨てざま振り向いて、ナイフをカメラの左側に投げつけるところまでが用いられている。ここでは何にナイフを突き立てたのか解らなかったが、本篇で確かめてみると、仕留めたのは大きな虫だった。戦いの途中、夜にひとりで寝ていたとき、気配を察知して片付けた、といったふうに描かれている。
……上半身裸である必要はあんまりなかったような気がした。
前述の通り、役者としての色気が備わっているからこそ、国際的に活躍しているのだろう。だが、こうも上半身の筋肉美を見せつけるシーンが毎回のように御披露目されると、だんだん作る側もそれがお約束のように感じられるはずだ。
このまま、美しい裸体が取り柄の俳優になってしまわないことを祈りたい――それを望んでいる人もいるかも知れないが。
関連作品:
『箪笥』
『G.I.ジョー』
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