原題:“Hatchet” / 監督・脚本:アダム・グリーン / 製作:スコット・アルトメア、サラ・エルバート、コリー・ニール / 製作総指揮:ロマン・キンドラチャック、アンドリュー・ミスコ / 撮影監督:ウィル・バラット / プロダクション・デザイナー:ブライアン・A・マクブリエン / 編集:クリストファー・ロス / 衣装:ヘザー・スラディンスキー / 特殊メイク:ジョン・カール・バークラー&マジカル・メディア・インダストリーズ / 音楽:アンディ・ガーフィールド / 出演:ジョエル・デヴィッド・ムーア、タマラ・フェルドマン、デオン・リッチモンド、ケイン・ホッダー、マーセデス・マクナブ、パリー・シェン、ジョエル・マーレイ、リチャード・リール、パトリカ・ダーボ、ロバート・イングランド、ジョシュア・レナード、トニー・トッド、ジョン・カール・ビュークラー / アリースコープ・ピクチャーズ/ハイ・シーズ・エンタテインメント製作 / 映像ソフト発売元:Art Port
2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間24分 / 日本語字幕:?
2009年4月24日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
DVDにて初見(2009/08/14)
[粗筋]
マルディグラ見物にニューオーリンズまで男友達と遊びに来たものの、ベン(ジョエル・デヴィッド・ムーア)は8年も交際した恋人に別れを告げられてずっと悄気返っている。街に溢れかえるおっぱいにも不快感しか覚えず、以前訪れた友人が参加したという怪奇沼ツアーを見に行く、と言い始めた。1人にしておくのが忍びない、というマーカス(デオン・リッチモンド)と共に、ベンはヴードゥー・ショップに赴く。
最近になって安全管理が面倒になった、ということでツアーを実施している店は近隣で1箇所しかなかった。ツアーガイドが何故か東洋人のショーン(パリー・シェン)であったり、バスが異様にオンボロであったり、とやたら不安要素目白押しだが、もう金を払ってしまった以上引き返すことは出来ない。ベンですら居心地の悪い思いをするなか、ツアーは始まった。
ツアーの向かった先、怪奇沼は、水面に幽霊の光が浮かび上がる、という話が有名であったが、もうひとつ不気味な伝説が残っていた。ここにはかつてヴィクター(ケイン・ホッダー)という名の、奇形の少年がおり、父と2人で慎ましく暮らしていたが、子供たちの心ない悪戯をきっかけに非業の死を遂げ、以来父の姿を呼び求めるヴィクターの声が夜な夜な響き渡るのだという。ツアー客の大半が真に受けなかったが、ただひとり、ツアーの始まった時点から暗い様子だったメリーベス(タマラ・フェルドマン)だけが悲痛な面持ちを見せていた。
やがて沼でのクルージングに突入するが、間もなく災難が一同を見舞う。船が座礁し、傾いたところへ急な大雨が降り始めたのだ。やがて、夫婦で参加していたプレマッテオ氏(リチャード・リール)が樹を伝って陸に上がることを試みるが……
[感想]
ごく正統派のスラッシャー……と言えばそうなのだが、妙にピントがずれている。
惨劇に突入するまでのくだりは定石にちょっとひねりを加えた程度で、お馴染みの「来るぞ来るぞ」という感覚が横溢しているが、登場人物たちの言動が終始緊張感に欠いている。ヒロイン格のメリーベスひとりだけが最初から緊迫した表情を見せているだけで、友人にそそのかされて話しかけるベンは彼女に振られたばかりという悲愴感が笑いを誘うし、方々で無意味なセクシーショットの撮影会をしている自称映画監督と売れない女優ふたり、脳天気な老夫婦に明らかに挙動不審なツアーガイドに至るまで、基本お約束をなぞってはいるが妙に滑稽な印象ばかりが強い。
ホラー愛好家としては、本篇を一種のコメディとして鑑賞する方が正しいのかも知れない。慣れない人、残酷表現に免疫のない人は、中盤以降からの容赦ない殺戮に目を覆いたくなるだろうが、よくよく考えればどうしてここに留まっているのか、何故無差別に殺戮を繰り返すのか、そもそもあらゆる登場人物に先んじて行動が出来るのか、一切の裏打ちをしていない“怪物”の描写は異様だがズレた可笑しさがある。
そしてこんな切羽詰まった現場で、しばしば犠牲者たちのズレたやり取りを長尺で採り上げているあたりからして、本篇はコメディを志向しているとしか思えない。あとからあとから秘密が発覚した挙句に、取り乱してどうでもいい秘密まで告白する者が現れたり、物音に全員でビクビクして「誰か様子を見に行くべきじゃないか」というのを3分ぐらい続けてみたり、という場面が、残酷なシーンよりも印象に残るのは、やっぱり狙ってやっているからだろう。
正体がはっきりせず倒し方も曖昧な“怪物”像のために駆け引きの面白さや逆転劇のカタルシスがあまりないし、そもそも題名がハチェット=斧のくせにほとんど斧を使ってない、というあたりが不満でもあり、同時に滑稽でもある。分をわきまえたチープさこそが魅力の作品だ。
モンスターの背景に拘らず、残酷な描写に目を背け突然の登場に悲鳴を上げることを愉しみたいという人や、お約束を踏襲しつつも少しずらして笑いを取ろうというやり方が受け入れられる人なら、なかなか楽しめるに違いない。……ただ、この異なる嗜好の人同士で集まって観るのはやめたほうがいいと思う。ふたりっきりなら尚更に。せめて後者は、前者の楽しみを妨げない配慮ぐらいしましょう。
関連作品:
『13日の金曜日』
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