プログラム切替直後の火曜日は午前十時の映画祭12を観に行く日、と書くのもあと2回……ではないかも知れない。というのも、ラストとなる次回は、行く日を変えようかと考えているのです。確定ではありませんが。
ともあれ、最終回手前の今コマは、ローテーション通りにお出かけです。どんよりとした寒空に、服装をだいぶ悩みつつ、電車にていつものTOHOシネマズ日本橋へ。
鑑賞した今コマの作品は、岩下俊作の小説を伊丹万作脚色、稲垣浩監督、阪東妻三郎主演で映画化、小倉の喧嘩っ早い人力車夫・松五郎の半生を武骨ながら優しいトーンで描き出す人情劇『無法松の一生(1943)』(映画配給社初公開時配給)。
映画祭のトリとなる2本は少し凝ったことをしていて、実は次のコマも『無法松の一生』なのです。ただし、今週は阪東妻三郎主演の1943年作品、次回は三船敏郎主演の1958年作品。
折しも太平洋戦争のさなか、という不穏な情勢のなか製作された前者は、戦時中は内務省からの指示によって、そして終戦後はGHQの手によって検閲され、本来の姿から程遠いものになってしまった。監督の稲垣浩は雪辱を期して自らリメイク、ヴェネツィア映画祭での金獅子賞受賞に結実した、という経緯がある。
しかし、関係者やファンの間では旧版の評価も高く、本篇の撮影監督・宮川一夫の弟子にあたる宮島正弘が、後世に残すべく最善のかたちでの復元を試みた。今回の上映では、本篇の前にこの成り行きを描いた短篇ドキュメンタリー『ウィール・オブ・フェイト 映画「無法松の一生」をめぐる数奇な運命』がかかるので、必要な予備知識が仕入れられるのがありがたい。
そしていざ本篇。確かに随所に、あって然るべき描写がないのを感じる。無法松の喧嘩の場面が少ないし、彼が成長を見守った敏雄が初めて喧嘩をするくだりの動機もいまいち解らない。そして確かに、背景には未亡人となった敏雄の母への恋慕を感じるのに、そうした描写がいっさい消されている。
しかし、だからこそ却って、描かれなかった想い、その上にある無法松の献身、努力が光って映る。自ら以て任じる“クズ”だった無法松の本心が覗く終幕は、静かな感動を誘います。
凝った構図や、複数の場面を重ねたオーバーラップと、工夫も豊かで、テンポは緩やかですが見応えもある。戦時下にあって、ここまで優れた作品を生んだその情熱にも胸を打たれます。経緯は悲劇でも、そうした歴史をも刻みこんだ、いつまでも守られるべき1本だと思います。物語の全貌は、午前十時の映画祭12の大トリとなる次回上映作品、三船敏郎版『無法松の一生(1958)』で確かめることにしましょう。
鑑賞後は神田駅そばの神田とりそば なな蓮へ。これが4回目くらいで、毎回似たようなメニューを注文していましたから、ちょっと趣の違うものを頼んでみた……想像とまったく違うものが出て来て驚きましたが、やっぱり美味しかった。
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