幻想と恐怖とメッセージと。

 一時期ほどローテーションにこだわらず観に行くようになった午前十時の映画祭13,しかし今回はローテーション通りではある……ただし劇場はいつものTOHOシネマズ日本橋ではなく、思うところあってTOHOシネマズ錦糸町 オリナスです。まあ別に大した理由からではなく、来週、再来週はやたらと観たい映画が封切られるので、ノルマは早めに押さえたかった、というのが大半、あとは、錦糸町のラーメン店で食べたかった、というだけの話なのですが。
 当初の予定では雨の可能性が高く、公共交通手段を使うつもりでいたら、だんだん好転して、ほぼ晴れの予報になってしまった。朝方はまだ不穏な気配があったものの、出かける頃にはすっかり青空になったので、バイクにてお出かけ……走れるのは嬉しいけど、晴れてるぶん暑い。今年から、万一転倒したときの用心としてウインドブレーカーを羽織るようにしていて、スピードが出せると、滲んだ汗が風で涼しくなるのですが、街中では限度があります。
 鑑賞した今コマの作品は、50年を超えるキャリアで現在までに長篇映画は僅か4作、日本での一般公開は僅か2本という超寡作ながら多くの支持者のいるビクトル・エリセ監督伝説の初長篇、内戦終了後の苦難の時代、巡回映画で観たモンスターに魅せられた少女とその家族の姿を通してメッセージを織り込んだミツバチのささやき』(フランス映画社初公開時配給)。まだフィルム上映だった第2回午前十時の映画祭のときにいちど上映作品としてリストアップされながら、事情により発表後に『山猫 イタリア語・完全復元版』に差し換えられた作品が、実に12年を経てやっと上映です。我慢できなくて、新宿武蔵野館の百周年記念上映で観ちゃったけど。
 今回はときどき実施される、町山智浩氏による解説動画の上映付です。本篇前に予備知識をちょっと語り、本篇後に劇中の謎めいた描写に籠められたメッセージについての解説を加えるかたち。なにせスペインの内戦、その後の独裁政治のなかでの国民の姿についての知識がないと読み解けず、そもそも発表当時にはまだ行われていた検閲を乗り越えるほど巧妙に隠されてましたから、独裁政治解消後にスタッフが意図を明かすまで気づかれなかったらしい。町山氏自身も、DVDに収録されたインタビューを観るまで解らなかった、と正直に仰言ってました。
 内容的には充分興味深かったんですが、それより気になって仕方なかったのは、町山氏の動画が屋外で撮影されていて、恐らくは晴れているけれど雲が多い陽気だったのでしょう、やたらと光量が変わって、町山氏の顔が明るくなったり暗くなったり、時として照準まで狂ったりしていた。なにせ町山氏はアメリカ在住で、この解説動画は現地で町山氏が単独で撮っているようですから、まあ仕方ないんでしょうけれど。
 映画そのものは、改めて傑作。初見時も大雑把に知識はありましたが、直前に町山氏の説明があって、更に本篇のあとで解説が加わるから、より理解が深まりました。全篇に漂う不穏さと諦念、そこにちらつく創造の力と希望、すべてに意味がある。

 鑑賞後はちょっと足を伸ばして、錦糸町界隈ではいちばんよく立ち寄っている双麺へ。ここつけ麺で使用している極太平打ち麺が好きすぎて、通常のラーメンを食べたことがありません。次こそは、と毎回思ってはいるのですが。

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