どうか、ジャンルで縛らないでくれ。

 そろそろ作業にかからねばならい時期ですが、旅行、体調不良で身動き取れないあいだに、観たい映画がだいぶ増え、そして完全に観逃してしまった作品も数多い。本格的に身動きが取れなくなる前に、今これは押さえておきたい、という作品を取り急ぎ鑑賞することにしました。
 きのう、来週までの上映スケジュールを色々と調べ、検討した結果、本日向かったのは――TOHOシネマズ日本橋。2本連続です。大真面目に、優先度と上映時間を考慮した結果です。
 鑑賞したのは、ボブ・ディランの前半生、デビューと彼の最大の“変化”までの日々を、多くの楽曲とともに描き出す名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN(字幕・TCX・Dolby Atmos)』(Walt Disney Japan配給)
 この作品、特徴的なのは、ボブ・ディランの視点に寄り添っているようでいて、その心情に安易に踏み込んでいないことです。実際、あまり本意を語らないからこそ、当時の衝撃、軋轢があったわけで、この唯一無二のアーティストの描き方としてはアリだと思う。
 だから、作品としての焦点は、どこまでその音楽の魅力を表現するか、なのですが、その意味でティモシー・シャラメは完璧でした。佇まい、雰囲気が見事に再現できているのもさることながら、歌の力強さ、異様なまでの魅力がまさにボブ・ディランになってる。これといった説明もなく、ヒッチハイクで現れ、病床のシンガーに自作曲を聴かせるくだりで、もはやその人物像が完成してしまっている。
 心情を綴りすぎず、淡々と辿りながらも、そこに熱さが滾るような描写は、ハードボイルド的な味わいすらある。女性との関係や、自信を持って音楽シーンに乗り出したのに、想像を上回る支持と、それ故のレッテルに悩まされ苛立つさまにナイーヴなところを見せながらも、節目で見せる大胆さ、ふてぶてしさで大きな展開を生み出していく。その佇まいの凜々しさと、どうしても拭いがたい哀愁が印象深い。
 前述の通り、真意を解りやすく描いていないので、けっきょく大事なところがぼかされている印象も受けます。この時代のボブ・ディランにはそれなりにダーティな事実もあって、その辺に言及していないことが引っかかるひとも少なからずあるでしょう。しかし、ボブ・ディランというアーティストの持つ魅力、作品の備えたメッセージ性を、彼のキャリアにおける劇的なひと幕を軸に、1篇の映画として見事に仕上げてます。間違いなく傑作。そして、やっぱり音響を重視して選んだのは正解でした。この映画は、音を浴びるつもりで観に行くべきだ。
 なおこの作品、パンフレットがやたらと売れているらしく、昨晩、値段を調べるためにネットを検索したら、別の劇場では入荷したことを誇誇らしげに告知していた。そしてこの日本橋では、きのう入荷したけれど、当日のうちに売り切れてしまったとのこと。上映期間中に、再入荷しているタイミングに巡り会えたら購入しよう……なんか、今回は難易度高そうな気がするが。

 上映終了は12時35分。すっかり空腹なので、前から何度も通っている、劇場からほど近くにある神田らぁめん悠で食べるか、と迷わず足を向けた。
 しばらくラーメン店としての営業はお休みだって。
 夜間の居酒屋としての営業は続けるそうなので、昼間の人手が足りない、とかいった事情があるのかも知れません。張り紙を前に嘆き、やむなく別のお店に行くことに。
 で、前にも何度か立ち寄っているお店で食べたのですが……正直、しっくり来なかった。悠でなければ、久々につじ田味噌の章まで足を伸ばそうか、などと考えていたせいもあってか、たぶん注文したものの口になっていなかった。加えて、急に気温が上がったことでやや減退した食欲には少々濃すぎたかも知れません。だからと言って残すのは本意ではないので、ちゃんと食べましたが、正直、悔いの残る食事でした。

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口脇に掲示された『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』チラシ。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口脇に掲示された『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』チラシ。

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