『コンフィデンスマンJP プリンセス編』

TOHOシネマズ上野、スクリーン2入口脇に掲示された『コンフィデンスマンJP プリンセス編』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン2入口脇に掲示された『コンフィデンスマンJP プリンセス編』チラシ。

監督:田中亮 / 脚本:古沢良太 / 製作:石原隆、市川南 / 企画&プロデュース:成河広明 / 撮影:板倉陽子 / 照明:緑川雅範 / 美術デザイン:あべ木陽次 / 美術プロデューサー:三竹寬典、古川重人 / 装飾:近藤美緒 / 編集:河村信二 / 衣裳:朝羽美佳 / VFXプロデューサー:赤羽智史、高玉亮 / 録音:高須賀健吾 / 音楽:fox capture plan / 出演:長澤まさみ、東出昌大、小日向文世、小手伸也、織田梨沙、瀨川英次、Michael Keida、柴田恭兵、関水渚、白濱亜嵐、古川雄大、ビビアン・スー、滝藤賢一、濱田岳、濱田マリ、デヴィ・スカルノ、竹内結子、三浦春馬、前田敦子、広末涼子、石黒賢、江口洋介、GACKT、ジャッキーちゃん、生瀬勝久、北大路欣也 / 制作プロダクション:FILM / 配給:東宝
2020年日本作品 / 上映時間:2時間4分
2020年7月23日日本公開
公式サイト : https://confidenceman-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/07/28)


[粗筋]
 シンガポールを拠点に、莫大な財産を築き上げたレイモンド・フウ(北大路欣也)が亡くなった。財産は残された3人の子供のいずれかに渡る――と思われたが、レイモンドに心酔する側近トニー(柴田恭兵)が預かった遺書には想定外の内容が記されていた。3人も知らない末の子供、ミシェル・フーにすべての財産を譲る、というのである。
 信用詐欺師のダー子(長澤まさみ)はこの千載一遇の好機に狙いを定めた。もちろん、貴金属や証券のかたちで無数に分散した遺産をまるごと奪うのは現実的ではない。偽物のミシェルを用意し、フウ一族のいずれかから手切れ金という形でせしめるつもりだった。ダー子の協力者であるボクちゃん(東出昌大)は「獲物が大きすぎる」と乗り気ではなかったが、ダー子は既に仕込みを始めていた。
 ダー子はコックリ(関水渚)という少女を“ミシェル”に仕立てることにした。やはり詐欺師だった母親が早逝して以来、親類縁者のもとをたらい回しにされた挙句、ヤマンバ(濱田マリ)にスリの手先として使われているところを拾って、自分の“子猫”に加えたのである。何を聞かれても頷くことしか出来ないコックリだが、ダー子は彼女の素質に賭けた。
 入念な下準備のうえ、ダー子たちはシンガポールに乗り込んだ。ボクちゃんはフウ邸にコックとして潜入、仲間のリチャード(小日向文世)は日本領事館の人間を装ってサポートし、ダー子はかつてレイモンドと恋仲になった女性、という設定を作り、“ミシェル”の母親としてコックリと共にフウ邸に臨んだ。
 既に何人もの偽者と対峙し、追い返していたトニーは当然、コックリに対しても疑いの目を向けるが、ダー子たちは密かに入手したレイモンドの娘・ブリジット(ビビアン・スー)の唾液を利用して、DNA鑑定をくぐり抜け、見事に“ミシェル”として認められる。
 あとは手切れ金さえ掴めば万々歳――のはずだったが、レイモンドの遺児たちの抵抗は激しかった。ムキになったダー子は遺産を譲らない、と宣言してしまう。こうしてコンフィデンスマンたちのシンガポール滞在は予定外の延長に突入、“ミシェル”とその母親もフウ家の当主として相応しい品格を身につける必要がある、と提言するトニーによる猛特訓を受ける羽目に陥る。
 命さえ危ういこの状況を、ダー子たちは如何に脱するのか。そして、フウ家の莫大な遺産は誰の手に受け継がれるのか――?


[感想]
 近年、コン・ゲームと呼ばれる作品はあまり出てくることがない。要は、多くのひとを満足させる水準まで引き上げるのが難しいが故なのだが、本篇のベースとなるドラマはそれを1時間1話完結で毎週放送する、という荒業をやってのけた。テレビでの放送時はそこまで話題になったわけではないが、その丁寧な作りとふんだんなユーモアなどが次第にファン層を拡大していったようで、2019年に劇場版が公開されると、一部からは“予想外”という声が聞こえるほどの大ヒットになった。本篇はそれから僅か1年2ヶ月でふたたびスクリーンにお目見えした、映画版第2作である――新型コロナウイルスによる影響での延期がなければ、実際には1年でリリースされるはずだったのだから、近年としては異例のハイペースと言えよう。
 ただ、準備期間が短かったことが災いしたか、率直に言えば、仕掛けの面白さは前作より落ちる印象だ。シンガポールやマレーシアでのロケを実施し、ターゲットも前作を上回る大富豪、と設定は映画らしく豪華だが、今回は序盤での仕掛けや工夫がわりあいシンプルで、“騙し合い”の醍醐味は少々薄くなった。
 ただそのぶん、詐欺師を題材とした映画としての華やかさ、変化は充実していて、観ていてひたすらに楽しい。最初、自分の年齢も顧みずミシェル役を買って出ようとするダー子や、演技に慣れていないコックリを励まし誘導するくだり、複数で潜入しているからこそ可能になった“ミシェル”のDNAを誤魔化す趣向など、詐欺師という題材だからこそ、という趣向をふんだんに盛り込んでいる。随所で、嘘がバレるかバレないか、という瀬戸際の駆け引きも展開するので、仕掛けとしてはシンプルと言い条、その面白さはきちんと盛り込まれている。
 前作を観たときにも感じたことだが、本篇は長澤まさみという女優のコメディエンヌとしての才能を見事に活かしている。詐欺師だからこそ求められる演技の幅に、時としてシリアスを交えつつ、変化を加えた演技派観ていて飽きることがない。しかも、わざと芝居臭くしている場面があるかと思うと、本気に見えたやり取りにすら罠が仕掛けられていたりして、油断もさせない。そのうえで、今回はターゲットが上流階級であるが故に、多彩な衣裳でも愉しませてくれる――これだけ盛り沢山だと、リゾート地なのに水着のお披露目がないのが却って不自然でさえあるが。エピローグ部分でボクちゃんとリチャードがプールで戯れるくだりが挿入されてるあたり、むしろわざと観客を翻弄して遊んでいる、とも捉えられる。
 恐らく本篇の決着については、いまひとつしっくり来ない、というひともいるのではなかろうか。そのための布石も緻密に施されてはいるのだが、それにしても、こうも思惑通りに展開する、というのは都合がいいように感じてしまう。
 しかし本篇の決着は、ヤクザや財閥さえも手玉に取る、という常軌を逸したレベルの凄腕詐欺師を主人公に据えたシリーズの、ある意味では辿り着くべき到達点だったと思う。一種のファンタジーではあるが、本篇の世界観にはもともと、それを許容する下地が用意されている。釈然としない、というひとは、きっとどこかでそういう世界観にはじめから抵抗があったのだろう。
 このあと更にシリーズが続くのか、現時点で私は情報を掴んでいないが、今後も新作がリリースされるのであれば、本篇はその試金石となる象徴的作品なのかも知れない。ちなみに私は本篇の結末を高く評価する――だってこれは突き詰めれば、フィクションというものへのこの上ない祝福だから。

 なお本篇は、成り行き上、結果的に前作のネタを割ってしまっている部分がある。そのため、ドラマシリーズをすべて観る必要はないにせよ、劇場版第1作くらいは鑑賞したうえで臨むことをお勧めしたい。
 実際、ネタのことを抜きにしても、前作の知識があったほうが楽しめるはずだ。前作でも活躍した面々が思わぬところで再登場する楽しみも生まれる。竹内結子や、ピンポイントで強い印象を残していく前田敦子、そして何より、三浦春馬の振り幅に富んだ演技が満喫出来る。
 こと三浦春馬については、本篇でいちばん笑えるシーンがあるのだが、これもまた前作を観ておくとより笑えるはずだ――本篇公開直前に思わぬ出来事があって、冷静に観られない、というひともあるだろうが、前作と併せて鑑賞して、彼の役者としての多彩さを存分に堪能してあげて欲しい。


関連作品:
コンフィデンスマンJP ロマンス編
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