原題:“crawl” / 監督:アレクサンドル・アジャ / 脚本:マイケル・ラスムッセン、ショーン・ラスムッセン / 製作:クレイグ・フローレス、サム・ライミ、アレクサンドル・アジャ / 製作総指揮:グレゴリー・ルヴァスール、ジャスティン・バーシュ、ローレン・ゼーヒッリ / 撮影監督:マキシム・アレクサンドル / プロダクション・デザイナー:エリオット・グリーンバーグ / 編集:アラン・ギルモア / 衣装:モミルカ・バイロヴィッチ / キャスティング:アンディ・ブライアリー / 音楽:マックス・アルジ、ステファン・サム / 出演:カヤ・スコデラリオ、バリー・ペッパー、モーフィド・クラーク、ロス・アンダーソン、チョチョ / 配給:東和ピクチャーズ / 映像ソフト発売元:NBC Universal Entertainment
2019年アメリカ作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:風間綾平 / PG12
2019年10月11日日本公開
2020年2月5日映像ソフト日本盤発売 [ブルーレイ+DVD:amazon]
公式サイト : http://crawlmovie.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2019/10/15)
[粗筋]
フロリダ州を巨大なハリケーンが襲うなか、ヘンリー(カヤ・スコデラリオ)は父・デイヴ(バリー・ペッパー)の家を目指して車を走らせた。
姉のベス(モーフィド・クラーク)が心配して繰り返し連絡を取ろうとしていたが、一向に返事がないという。ベスの制止を無視してヘンリーは直接様子を確認するべく、強風の中を2時間近く車を運転してきたのだ。
だが、デイヴの家には愛犬シュガーの姿しかない。ヘンリーはふと閃き、シュガーを車に乗せると、もう一つの家を訪ねる。そこは数年前まで、ヘンリーたち家族が暮らしていたが、父と母の離婚によって手放した家だった。
案の定、デイヴの車がむかしの家の前に駐められていた。ヘンリーは屋内に入り呼びかけるが、返事はない。だが、どこかで物音がしており、携帯電話にかけると鳴る音も聞こえてくる。
やがて、シュガーが地下室に向かって吠え始めた。既に浸水が始まりジメジメとした空間に下り探し回ると、父は深手を負って昏倒していた。何事が起きているのか理解できないまま、ヘイリーが父を地下室からな運びだそうとしたそのとき、彼女の前に、巨大なワニが現れた――
[感想]
ジャンル映画、それもとりわけホラーは、お約束を理解しているか否か、が重要となる。作り手がまったくジャンルに愛着も理解もない状態で作っても、傑作になる場合もあるにはあるが、的確にツボを突く作品を生み出すには、やはりジャンルに対する造詣や情熱は必須だろう。
その点、本篇はまったく不安を感じない布陣だ。監督は強烈なインパクトのあるホラーを積極的に撮り続けているアレクサンドル・アジャ、製作には『死霊のはらわた』でデビュー、『スパイダーマン』で一躍メジャーとなったあとも『スペル』のようなストレート極まるホラーをリリースしたり新人をプロデュースしたり、とジャンルに愛を注ぐサム・ライミが名を連ねている。このふたりが並んでいるだけでまったく出来映えを心配していなかったが、そういう意味では期待通りの作品である。
しかも着眼点が素晴らしい。ワニが登場する映画も、ハリケーンに襲われる恐怖を描いた映画も存在するが、ハリケーンによる増水で生活エリアにワニが入り込む、というシチュエーションは見た覚えがない。その貴重なカクテルを着想しただけでも見事な成果だ。
そして、恐怖を扱うことに長けた本篇のスタッフたちは、このシチュエーションで考えられる危険や恐怖を、巧みに詰めこんでいる。
序盤から頻繁に解り易い“予兆”を盛り込んで、絶妙なタイミングでそれを具体化するかと思えば、「こんなこともあるかも」と薄々想像する出来事も不意打ちで放り込んでくる。万事そつがない。
それはキャラクター設定にも言える。基本的にジャンル映画は幽霊なら怪奇現象、殺人鬼なら血みどろの殺戮などの行為や現象で楽しませるもので、餌食となる人間の設定に懲りすぎると焦点がブレて退屈になりかねない。本篇はそれも十二分に弁えていて、設定はしっかりと組んであるが、悪目立ちすることなく、それでいて展開に絶妙に奉仕している。
本篇において主人公のヘンリーには、そもそも助けに来た父親とのあいだに確執がある。それでもハリケーンのなかわざわざ様子を見に車を走らせる事実にアンビバレントな本音を窺わせ、ワニとの死闘のあいまに適度なスパイスを施している。この親子の関係性、背景があることで、水没した街で繰り広げられるサヴァイヴァルに緊迫感と昂揚感とが増している。終盤、ワニまみれの街を突っ切っていく無謀極まりない行為がやもすると感動さえ誘うのは、そういうそつのない組み立てを貫いているが故だ。
危険に陥るときはかなり危険な事態にまで発展させながら、それでも戦い続ける。クライマックスに至ってもなお過激さを増すシチュエーションは、心が折れてもなお生への執着を捨てない主人公たちの度外れたタフさが促すものだ。
恐怖映画の手法を熟知したクリエイターたちが、最適なキャラクターを得て組み立てたのである。面白くない訳がない。本篇が契機となってワニ映画が陸続と誕生する――とまでは思わないが、再度作られるならばお手本として、基本として扱われるべき1本だろう。
関連作品:
『ヒルズ・ハブ・アイズ』/『ミラーズ』/『ピラニア3D』/『ザ・ウォード 監禁病棟』/『スペル』/『死霊のはらわた(2013)』/『ドント・ブリーズ』
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