『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』

原題:“Cave of Forgotten Dreams” / 監督、脚本&ナレーション:ヴェルナー・ヘルツォーク / 脚本:ジュディス・サーマン / 製作:エリック・ネルソン、エイドリエンヌ・チウフォ / 製作総指揮:ジュリアン・P・ホブス、デイヴィッド・マッキロップ、モリー・トンプソン / 撮影監督:ペーター・ツァイトリンガー / 編集:ジョー・ビニ、マヤ・ホーク / 作曲:エルンスト・レイジガー / 日本語版ナレーション:オダギリジョー / 配給:STAR SANDS

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 吹替版翻訳:吉田恵

2012年3月3日日本公開

第24回東京国際映画祭特別招待作品として上映

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/10/28)



[概要]

 1994年、3人の探検家がフランス郊外で、ひとつの洞窟を発見した。一見したところ、比較的ありふれた洞窟のように映ったが、間もなくフランス政府はこの洞窟の価値を認め、すぐに厳重に保護した。基本的に封鎖し、年間に数回、厳正に選ばれた研究者のみに立ち入りを許す態勢を整えたのである。

 撮影スタッフはこうした研究者たちに同行することを、史上初めて正式に認められた。発見者である探検隊のリーダーの名前を取って、ショーヴェ洞窟と名付けられたこの空間は、約2万年前に落ちた岩によって封印され、以来荒らす者の侵入を拒んできた。それ故に、この洞窟は古の痕跡を無数に留めている。

 その中には、およそ3万年前に描かれたと見られる、史上最古の壁画が刻まれていたのだ――

[感想]

 率直に言えば、映画として格段に面白い、という性質のものではない。

 多くのドキュメンタリーと同様に、ストーリーを構築しやすい題材ではないために、どうしても均質な映像と波乱のない展開に終始してしまい、次第に飽きてしまう。近年のドキュメンタリーではこのあたりに工夫を凝らし、お話としても愉しめるように仕上げているものも多いが、本篇はそうした努力をしていない。

 だがそれは、決して面白く作ることを放棄したからではなく、あくまで記録される映像の価値を重視したからに他ならない。関心を持たない人にとっては刺激の乏しい映像だろうが、その意味、意義を考えると、ビリビリと来る内容なのである。

 特に本篇は、こうした貴重な太古の遺産を、3D映像で記録したことが重要なのだ。

 3D映画は『アバター』の大ヒットを境に急激に普及しつつあるが、今のところフィクションに限られている。しかもブームに便乗し、本来2Dで撮影されたものを後処理で3Dに仕立てたものも未だに発表されている。製作費の都合もあるし、後処理の3Dには撮影時から専用のカメラを導入した映画とは異なる味わいがあるので、個人的にはそれを否定するつもりはないが、しかし3Dの醍醐味が何より“観客に臨場感を与える”ことに存在することを思うと、CGを用いた迫力の映像よりも、一般人が体験できない状況、或いは入り込めない場所に3Dカメラを持ち込み撮影することが、何よりもこの方式を活かすことと言えるかも知れない。

 私がそのことを痛感したのは、『アバター』の監督ジェームズ・キャメロンが製作総指揮として携わった『サンクタム』を観たときであった。CGによる加工は最小限に、多くのセットを用いたこの作品は、基本的に本当の立体感を捉えているからこその驚異的な臨場感を備えていた。3Dという手法が生きるのは、立体感、距離感が強烈な空間を撮影したときであり、故に“洞窟”というロケーションは、3D映画の特性が最も活きるものであり、それ故に私は本篇の概要を知ったとき、「観てみたい」という想いに駆られたのである。

 正直に言えば、本篇が見せる洞窟内の映像は、いささか食い足りない印象が拭えなかった。しかしそれは、スタッフの意欲や技術が足りていなかったのではなく、あまりに制約が多かったせいであることは、ナレーションや画面から読み取れる情報からも理解できる。それでも敢えて、まだようやく普及しつつあった3D撮影用の機材を持ち込んで、貴重な映像を記録したことは賞賛すべきだろう。研究者たちに機材を委ね、もっと深層まで撮影を求める、ということも方法としてはあった気がするが、その場合は恐らく、私たち一般人がこの驚くべき映像に触れる機会はずっと先になったはずだ。

 そして、単純に古の記録を残したばかりでなく、そこここにウイットを鏤め、最後にはそっと問題提起を試みる矜持も、本篇には備わっている。観終わったあと、まるで“胡蝶の夢”に触れたような感慨を覚えるのは、過剰に学術的に描かず、理解するのに必要最低限の情報に絞り、体験的に語りきったからこそだろう。3Dで撮影したこと、それ自体が本篇の最大の意義であることは疑いないが、映画として観客に見せるうえで、太古の壁画という遥か古から伝わる“夢”を、更に観客の胸の奥深くに埋め込み、自分がいま何処に佇んでいるのかを見失わせてしまうような、そんな幻影を齎す作品なのである。

 面白い、というわけではない。だが、そのつもりになって身を投じれば、他の映画では得られない感覚を味わえるはずだ。

関連作品:

サンクタム

アバター

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