原題:“Dracula 3D” / 原作:ブラム・ストーカー / 監督:ダリオ・アルジェント / 脚本:ダリオ・アルジェント、エンリケ・セレッソ、ステファノ・ピアニ、アントニオ・テントーリ / 製作:ロベルト・ディ・ジローラモ、エンリケ・セレッソ、セルジオ・ゴッビ、フランコ・パオルッチ、ジョヴァンニ・パオルッチ / 撮影監督:ルチアーノ・トヴォリ / プロダクション・デザイナー:アントネオ・ゲレステ / 編集:マーシャル・ハーヴェイ、ダニエレ・カペッリ / 衣装:モニカ・セレステ / デジタル・エフェクト監修:ジョン・アタード、ラファエッレ・アプッツォ / 音楽:クラウディオ・シモネッティ / 出演:トーマス・クレッチマン、マルタ・ガスティーニ、アーシア・アルジェント、ルトガー・ハウアー、ウナクス・ウガルデ、ミリアム・ジョヴァネッリ、アウグスト・ズッキ、マリア・クリスティーナ・ヘラー、ジュゼッペ・ロ・コンソール、フランコ・ラヴェラ、ジョヴァンニ・フランゾーニ、フランチェスコ・ロッシーニ、クリスチャン・ブッルアーノ、リカード・チコーニャ / 配給:Unplugged / 映像ソフト発売元:日活
2012年イタリア、フランス、スペイン合作 / 上映時間:1時間50分 / 日本語字幕:安本煕生 / PG12
2014年3月8日日本公開
2014年7月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
DVD Videoにて初見(2020/04/12)
[粗筋]
ジョナサン・ハーカー(ウナクス・ウガルデ)は司書の職の口を求め、トランシルヴァニアのパスブルグという街へと赴いた。かねてから親交のあるパスブルグの町長アンドレ・キスリンガー(アウグスト・ズッキ)の娘ルーシー(アーシア・アルジェント)に、当地の有力者ドラキュラ伯爵(トーマス・クレッチマン)の城の蔵書を整理する仕事を斡旋されたのである。
ジョナサンが登城して数日、遅れて妻のミナ(マルタ・ガスティーニ)もパスブルグに到着した。だがルーシーによると、夫は到着以来ずっとドラキュラ伯爵の城に籠もりきりで仕事をしているという。ミナは手紙を託して連絡を取ろうとするが、薦められるまま自ら城へと赴いた。
だが伯爵によると、ジョナサンは新しい蔵書を求めて出かけており、数日戻らない、という。夫不在の城で歓待を受けたミナは、伯爵に何故か強く心惹かれ、その感情におののいて城を離れる。
ミナは知るよしもなかったが、パスブルグの街は伯爵の強い影響下にあった。その魔手は既に、ミナを搦めとろうとしていたのだ――
[感想]
本邦では2Dでしかリリースされていないが、原題をご確認いただければ解るとおり、本篇はもともと3Dでの上映を想定して製作されていた。そのことを知っているか否かで、本篇の評価はまず分かれる可能性がある。
オープニングからして明瞭だが、本篇は3Dであればこそ効果を増すカメラアングルを多用している。そしてそれで、幻想怪奇の世界観を描くため、必然的にCGを駆使しているのだが、これが思いのほか違和感があるのだ。
導入、初めて吸血鬼が被害者を襲うくだりはまだいいのだが、その直後、ジョナサンがパスブルグの駅に着く場面でまず強烈な違和感に見舞われるはずだ。最近稀に見るほどに書き割り感が強烈で、思わず苦笑いが漏れてしまうほどだ。それ以外のほとんどのシーンはロケや、セットを用いているようでそうした不自然さは少ないが、この駅舎の場面は恐らく遠景も、演者のすぐ後ろにいる機関車もCGで作成していると思しく、色調がやたらとバランスを乱している。充分に指揮が行き届かなかったのか、或いは見込み違いがあったのではないか、と思われるほどで、この段階で印象的に躓いている感は否めない。
もっと問題があるのはストーリーだ。全般に、話が散らかり気味で、いまいち没入感が得られない。話の焦点がころころと変わるために登場人物の味わっている恐怖や不安に共感しにくく、それぞれのエピソードの連携が悪いので、物語が展開していく興奮やカタルシスにも繋がりにくい。何故この段階でこうした描写が挟まるのか、どうしてこんな事態に発展するのか、というのがだいたい不明のまま終わってしまう。
恐らく本篇を撮る上で、アルジェント監督はストーリーの整合性よりも、撮りたい場面、シチュエーションを優先させたのではなかろうか。密会のあとで喧嘩して十字架を外し伯爵の餌食となる娘であったり、女性ふたりの沐浴中にあることが発見されるくだりであったり、伯爵の奇妙な魅力により犠牲者達が惹きつけられてしまう描写など、ひとつひとつに美学やこだわりらしきものが窺えるシーンは多いのに、それぞれの必然性がうまく描けておらず、全般に唐突であったり、浮いてしまっているのだ。終盤近くなって、大量の犠牲者が出るくだりがあるが、あの場面など如何にもダリオ・アルジェント監督らしさが如実なのに、ストーリー的にほぼ無意味になってしまっているのがもったいない。
もったいない、といえばヴァン・ヘルシングが特にもったいない。怪優ルトガー・ハウアーによる吸血鬼狩りの専門家は雰囲気があるのだが、やけに用心が足りず犠牲が多い。そのくせ当人が異常に幸運に恵まれていて、それまで存在感を発揮していた手下をあっさり葬ってしまう。もっと専門家として、そして人間らしい範囲で活躍させて欲しかった。
長年オリジナルのホラー映画、スリラー映画にこだわり続けた監督にとって、恐らく“ドラキュラ”は原点に近いモチーフだろう。ブラム・ストーカーが著した傑作小説のモチーフを引き継ぎつつ、そこに監督ならではの美学、シチュエーションを織り込んで綴りたくなった、という心情は察せられる。だがそこで、要素の取捨選択がうまく出来なかったのが問題だったのではなかろうか。
美学を重視した、と見られるからこそ、アルジェント監督らしさは横溢しており、監督の作品に親しんできたひとなら楽しめるとは思う。ただ、それほどアルジェントという映画監督に思い入れのないひとにはお薦めしかねる。
関連作品:
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』/『歓びの
『戦場のピアニスト』/『ワルキューレ』/『ザ・ライト ~エクソシストの真実~』/『いずれ絶望という名の闇』/『ホーボー・ウィズ・ショットガン』/『チェ 28歳の革命』
『フロム・ダスク・ティル・ドーン』/『血の伯爵夫人』/『トワイライト~初恋~』/『30デイズ・ナイト』/『ぼくのエリ 200歳の少女』/『モールス』/『デイブレイカー』/『ブラッディ・パーティ』/『アンダーワールド ブラッド・ウォーズ』/『ダーク・シャドウ』/『リンカーン/秘密の書』
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