『DUNE/デューン 砂の惑星(2021・字幕・Dolby Cinema)』

丸の内ピカデリー、ドルビーシネマスクリーン入口前に掲示された『DUNE/デューン 砂の惑星(2021)』ポスターと予告篇映像。
丸の内ピカデリー、ドルビーシネマスクリーン入口前に掲示された『DUNE/デューン 砂の惑星(2021)』ポスターと予告篇映像。

原題:“Dune” / 原作:フランク・ハーバート / 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ / 脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジョン・スペイツ、エリック・ロス / 製作:ドゥニ・ヴィルヌーヴ、メアリー・ペアレント、ケイル・ボイター、ジョー・カラッチョロ・Jr. / 製作総指揮:ジョン・スペイツ、ターニャ・ラポンテ、ジョシュア・グロード、ハーバート・W・ゲインズ、トーマス・タル、ブライアン・ハーバート、バイロン・ハーバート、キム・ハーバート / 撮影監督:グレイグ・フレイザー / 美術:パトリス・ヴァーメット / セット装飾:リチャード・ロバーツ / メイク&ヘアデザイン、メイク監修:ドナルド・モウワット 視覚効果監修:ポール・ランバート、ガード・ネフザー / 編集:ジョー・ウォーカー / 衣装:ジャクリーン・ウェスト、ボブ・モーガン / スタント・コーディネーター&第2班監督:トム・ストラザース / 音響編集監修:マーク・マンジーニ、テオ・グリーン / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、デイヴ・バウティスタ、スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、ゼンデイヤ、チャン・チェン、デヴィッド・ダストマルチャン、シャロン・ダンカン=ブルースター、シャーロット・ランプリング、ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデム / レジェンダリー・ピクチャーズ製作 / 配給:Warner Bros.
2021年アメリカ作品 / 上映時間:2時間35分 / 日本語字幕:林完治
2021年10月8日日本公開
公式サイト : http://www.dune-movie.jp/
丸の内ピカデリーにて初見(2021/10/21)


[粗筋]
 10190年、宇宙帝国の皇帝は、砂の惑星=デューンと呼ばれる惑星アラキスの統治を、ハルコンネン家からアトレイダス家へと移譲した。
 アラキスは惑星全体が砂漠に覆われた、極めて過酷な環境にある。その代わり、大気にはここでしか採取できない貴重な香料が舞い、その取引がもたらす利益は莫大なものとなる。採取を滞りなく行うことが出来れば、富を約束する勅命であった。
 しかし、ハルコンネン家が遺していった機材は老朽化が進み、既に使い物にならなくなっていた。アトレイデス家の現当主・レト公爵(オスカー・アイザック)はこれが、皇帝シャッダム4世の謀略であることを悟る。宇宙に点在する各大領家は皇帝に忠誠を誓い従う、というかたちで均衡を保っているが、その一方でシャッダム4世は有力な大領家の台頭に警戒していた。とりわけリト公爵は人望厚く、国家転覆を怖れたシャッダム4世は、管理の困難なアラキスでその影響力を奪うことを画策したのだ。
 一方、レトの側妾であるレディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)は、別のかたちで宇宙に訪れつつある変化を察知していた。女性のみが所属し、長いときにわたって婚姻を操り歴史に大きな影響を及ぼしてきたベネ・ゲセリット学院で教育を施されたジェシカは、その能力を見初められレトの側妾となったが、教母ガイウス・ヘレネ・モヒアム(シャーロット・ランプリング)の意向に反し、後継者を欲するレトの想いに応えて男児を産んだ。ジェシカは禁忌を破って息子ポール(ティモシー・シャラメ)にベネ・ゲセリットの特殊な技巧の修行を施す。成長したポールは、夢を通して未来を見る能力を開花させていた。
 ハルコンネン家は、アラキスを奪還するべく暗躍を始める。そして、断片的に見る未来に不安を抱きつつあったポールは、やがて運命との対峙を余儀なくされていく――


[感想]
 ちょっとでもSFを囓った者なら、現物には接していなくとも、『デューン砂の惑星』という作品の存在は知っているはずだ。多くのSF映画に影響を及ぼし、本邦でも宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』のモチーフの原型となっていることは有名だ。かのデヴィッド・リンチ監督によっていちど実写映画化が実現しているが、リンチ作品としては評価があまり芳しくない――特撮技術が充分な発展を遂げていなかったこともさりながら、映画監督としての実績にまだ乏しく、製作にあたっての発言権が低かったことも原因と思われる。それゆえに、前々から再映画化の要望は多く、幾度か計画が噂になっては立ち消えになり、デヴィッド・リンチ版から35年を経てようやく実現に至った。
 このことには、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督という才能の“発見”が大きく貢献していることは疑いない。世界的にその名が知られるきっかけになった『灼熱の魂』は重い主題を秘めたミステリーであったため、当初はミステリー、サスペンス系統の作品によってハリウッド大作に滲出していったが、『メッセージ』によりのSF素養の豊かさと、視覚効果・音響効果を的確に操るセンスを示すと、リドリー・スコットよりSF映画の伝説的名作『ブレードランナー』の正式続篇を託された。オリジナルの世界観を踏襲して奥行きのあるドラマを形作りながら最新の映像技術を洗練した手際で導入、映像的にも優れた名作として『ブレードランナー2049』を完成させ、その手腕が決して一過性の者ではないことを証明した。もともと本人が原作に愛着を持っていた、という本篇に着手することは、必然的な道筋だったと言えよう。
 果たして、本篇の仕上がりはまさしく期待に応えるものだった。
 なにせ原作は2021年現在のヴァージョンで文庫判3冊にまたがる大作であるため、ぶっちゃけ、本篇は物語の決着には辿り着いていない。それどころか、いわゆる「俺達の戦いはこれからだ!」みたいな結末である。きちんと着地していることを何よりも重んじるようなひとであれば、モヤモヤした気分を味わうに違いない。
 だが本篇には、そういう結末であることを承知した上でなお観る価値がある、と敢えて言いきろう。
『ブレードランナー2049』においても、オリジナルから更に進んだ未来世界を、体感するかのような映像空間を構築した監督は、本篇において冒頭から、まるで見知らぬ世界に放り出されたような感覚を味わわせてくれる。アトレイデス家が当初統治していた、水に覆われた惑星カラダンの湿っぽい空気感、帝国王都の整然として紛い物じみた雰囲気、そして何より、砂の惑星は、初めて画面に映った瞬間から、その過酷な環境が肌感覚で伝わってくる。乾燥した空気、ヒリヒリと皮膚を焼くような陽射し、舞い飛ぶ《スパイス》が鼻腔を冒す痒み、痛みまでが感じられるかのようだ。ただ美しいばかりでなく、光線の強さ、空気の質感までも緻密に表現を試みた映像と音響は、優れた没入感を演出する。
 緻密に構築された世界観、それもSFであるが故に、本篇には独自の固有名詞が非常に多い。そのほとんどがろくすっぽ説明もなく用いられる、という、SFに不慣れな観客を無視したかのような作りは、どうしても一見さんを遠ざけている印象を与える。ただ、それぞれの用語をその都度丁寧に語るのは煩雑に過ぎる。具体的な描写や、文脈から推測させる作り方は難易度こそ高いものの、安易に作られた映画では味わえない奥行きがある。不慣れな人には申し訳ないが、不明な単語は推測し、読み解きながら鑑賞する醍醐味を感じていただきたい。
 我々の知る社会の常識の通用しない、特異な文明、文化によって営まれる世界で、それ故の意外性もあるが、他方で特異な設定に現実と地続きの要素が見出され、社会批判の性質も秘めているのがまた奥深い。どれほど文明が高度に発展しようと繰り広げられる勢力争い、陰湿な駆け引き。女性のみで構成される秘密結社、という概念は、現実の社会では長く虐げられてきた“女性”という存在が、その特異性を軸に結託し、表に出ることなく歴史を操る、というひとつの到達点を見せられるかのようだ。現実においても、男社会では日陰者のように扱われていたとしても、“母”になれる特権により歴史を操っている、という新たな視点を提供する。同じ民族、集落の構成員であっても決してその意思は統一されているわけではない、という当たり前の事実も、本篇では的確に、繊細に描き出し、ドラマとしても奥行きは豊かだ。
 前述の通り、本篇は完結はしていない。しかし明快な区切りまでは辿り着いているので、仮にこのまま終わったとしても、その先を観客に委ねた、と捉えて受け入れられる表現になっている。むしろ、丹念に積み上げられた世界観とドラマが、更に深化していく予感をもたらす終幕は、本篇をひとつの作品として昇華している。
 日本ではいまひとつ話題になっていない感のある本篇だが、国際的には納得のいく成績を上げたようで、無事に続篇のゴーサインは出たようだ。だが、監督のドゥニ・ヴィルヌーヴは、原作者がその後に執筆した作品に基づく第3作までの構想を抱えている、と発言しているらしい。
 願わくば、これからでも、本篇の魅力に気づいてくれるひとが増えますように。そして、監督の脳内にだけ描き出されているヴィジョンが、最良のかたちで世界各地のスクリーンに投影される日が来ますように。そのためにも、この作品に魅せられた人は、積極的にそのことを発信し続ける必要がある。


関連作品:
灼熱の魂』/『プリズナーズ』/『複製された男』/『ボーダーライン』/『ドクター・ストレンジ』/『アリー/スター誕生
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』/『ドクター・スリープ』/『サバービコン 仮面を被った街』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『異端の鳥』/『アーミー・オブ・ザ・デッド』/『レディ・バード』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』/『グランド・マスター』/『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』/『バビロン A.D.』/『アクアマン』/『悪の法則
アラビアのロレンス』/『地獄の黙示録 ファイナル・カット』/『風の谷のナウシカ

コメント

  1. […] ☆『DUNE/デューン 砂の惑星(2021)』(Warner Bros.配給) […]

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