『復活の日』

原作:小松左京 / 監督:深作欣二 / 脚本:高田宏治、深作欣二、グレゴリー・ナップ / 製作:角川春樹 / 撮影:木村大作 / 照明:望月英樹 / 美術:横尾嘉良 / 録音:紅谷愃一 / 編集:鈴木晄 / 音楽プロデューサー:テオ・マセロ / 音楽:羽田健太郎 / 主題歌:ジャニス・イアン / 出演:草刈正雄、渡瀬恒彦、夏木勲、千葉真一、森田健作、永島敏行、ジョージ・ケネディ、ボー・スヴェンソン、ステファニー・フォークナー、クリス・ウィギンス、ジョン・エヴァンス、オリビア・ハッセー、ジョアン・ヘルダム、エドワード・J・オルモス、セシル・リンダー、イヴ・クロフォード、チャック・コナーズ、多岐川裕美、丘みつ子、加瀬悦孝、緒形拳、木島一郎、野口貴史、小林稔侍、グレン・フォード、ロバート・ヴォーン、ヘンリー・シルヴァ、角川春樹 / 初公開時配給:東宝 / 映像ソフト発売元:KADOKAWA
1980年日本作品 / 上映時間:2時間36分 / 翻訳:清水俊二、戸田奈津子
1980年6月28日日本公開
2019年2月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|4K Ultra HD:amazonAmazon Prime Video]
新宿ピカデリーにて初見(2020/06/04) ※特別上映


[粗筋]
 1982年、東独。極秘裏に開発されていた細菌兵器“MM-88”の脅威を知った研究者は、秘密裏にCIAに託そうと試みる。だが、彼が接触したのは、兵器密売で利益を得ようとするマフィアだった。取引のさなかに踏み込んだ憲兵によって研究者は射殺され、マフィアはサンプルを携え東独を発つが、アルプス上空で墜落事故を起こし、サンプルは空気中に解き放たれてしまった。
 最初に異常が起きたのは、カザフスタンの山中だった。放牧されていた家畜が謎の大量死を遂げると、ヨーロッパ各国で乳幼児が重篤な風邪の症状を呈するケースが頻発するようになる。イタリアで最初に感染爆発が確認されたことから“イタリア風邪”と通称されたこの病は瞬く間に全世界に拡大し、急速に社会を麻痺させていった。
 アメリカでも“イタリア風邪”は深刻な広がりを見せており、大統領リチャードソン(グレン・フォード)は対応に苦慮していた。ガーランド将軍(ヘンリー・シルヴァ)は一連の感染爆発が細菌兵器によるものと推測、未だ冷戦のただ中にあるソ連への対抗措置を実施するよう大統領に進言するが、その矢先、ソ連の大統領が“イタリア風邪”によって死亡した、という連絡が届く。
 やがて大統領と長年の政敵であったバークレイ上院議員(ロバート・ヴォーン)がある情報を大統領にもたらした。いま世界中に猛威を振るうウイルスは“MM-88”であり、それは“フェニックス計画”という作戦の一環として郡部が開発を進めていたものだった。作戦の指揮官であったランキン大佐(ジョージ・トウリアトス)が、開発者であったマイヤー博士(スチュアート・ギラード)を精神病院に送りこんで口封じを図っていたが、バークレイ上院議員が彼を発見したことで発覚したのである。
 開発者の存在は、一時的に政府関係者に希望をもたらしたが、マイヤー博士が語る“MM-88”の特性は彼らを絶望させるものだった。極めて優れた模倣性を持ち、常温の環境で爆発的な感染力を誇る。その機能は零下5度で停止するが、死滅はしない、というものだった。
 その頃、各国の観測隊が各地に拠点を設けている南極でも混乱が起き始めていた。世界中で感染爆発が起きていることは報告が届いていたが、ある日を境に、本国の通信そのものが途絶えてしまう。やがて彼らは気づき始めた――もはや世界に生き残っているのは、南極観測隊として極寒の地に留まる自分たちだけだ、という事実に。


新宿ピカデリー、スクリーン4入口に表示され……てたのは作品名だけでした。
新宿ピカデリー、スクリーン4入口に表示され……てたのは作品名だけでした。


[感想]
『日本沈没』などで知られるSF作家・小松左京が、細菌兵器により種の危機に瀕した人類を巨大なスケールで描きだした小説を、破格の規模で実写映画化した作品である。
 実際、公開から40年を経たいま鑑賞しても、その豪勢さは画面から強烈に感じる。屋内のシーンは日本でセットを組んで外国のように見せかけている箇所もある、と推察されるが、南極やパリ、イタリア、更にはマチュピチュに至るまで各地でロケを展開、そのワールドワイドな撮影に規模の大きさを実感する。
 キャスト、スタッフも豪華だ。『仁義なき戦い』の深作欣二に、降旗康男監督とのタッグが多い撮影監督・木村大作、劇伴の演奏には海外のオーケストラが参加している。そしてキャストも、黒内からは緒形拳、森田健作などが決して出番の多くない脇役で顔を見せるかと思えば、海外からもボー・スヴェンソンやオリビア・ハッセーなど、名の通ったキャストが登場している。きょうび、このレベルの贅沢さはなかなか実現しにくいのではなかろうか。
 ただ、その撮影規模の大きさは実感できるものの、残念ながら作品としての充実感はいささか乏しい。恐らくその原因は、本篇が特定の人物の活躍に着目した作品ではなく、“SF”ならではの世界観に特化していることにある。
 折しも注目を集める、“感染爆発”を題材としているが、しかし本篇の場合、その本質は“SF”にある。“感染爆発”という事実そのものよりも、そこから展開される世界の変容に本篇の着眼点はある。むろん序盤のパニックにも見せ場は少なくないが、しかし本篇の凄味は中盤以降、ウイルスの特徴が判明し、ひとまず回避する方法が確定してからにこそある、と私は考える。
 自分たちが地球上の生命(説明を信じるなら、脊椎動物のすべて)を繋ぐ最後の生き残りであることを悟った面々は、そのために人種や国境を越え共同体を築く。だがそれと同時に、現代の倫理観では本来許容し得ない決断まで迫られる羽目に陥る。この無慈悲な描写は、SFというジャンルの真骨頂と言っていい。現実のウイルスを凌駕する、種を危機に追いやるほどの脅威があってこそ成立するドラマは圧巻だ。個人の尊厳よりも重視せねばならない事実を突きつけられたこの世界では、ここに人道主義的な観点は介入しようがない。
 それにしてもこの作品は、生命に対して容赦がない。クライマックスに至って物語は更なる犠牲を生き残ったひとびとに強いる。現実に繰り広げられる人間の罪業が尾を引くかのような展開はあまりにも重い。多くの観客は、他の作品ではあまり経験できない種類の絶望を味わうはずだ。
 しかし本篇はそのあとにささやかな“奇跡”を用意している。それまでにひとびとを襲った災厄の数々を思えば、それはあまりにもささやかな出来事だが、この物語の中で唯一、無慈悲な脅威に生命が勝利した瞬間のカタルシスは秀逸だ。
 鑑賞後、まだ読んでいなかった原作をざっと拾い読みして確認したところ、大筋はなぞっているが細部はかなり異なっており、なかでもこの結末の解釈がいちばん異なっている、と思われる。だが、あまりに救いがないこの映画のラストをこういう形で締めくくったのは正解だった、と私は考える。このラストシーンがあってこそ、本篇のタイトルは成立する。
 日本ではかなのヒットを遂げたものの海外での展開は不調に終わり、公開当時は製作費んを回収できなかったという。作品としての評価も決して芳しくないが、原作者自身は気に入っていたらしい。確かに大作映画特有の大味さもあって、恐らく原作ファンの多くを満足させる域には達していないが、正統派SF映画の精髄をしっかりと反映し、極限まで手を緩めずに、映画としてのカタルシスまで表現した本篇は、映画化として決して悪い出来ではない。よほど潤沢な予算を獲得し、かつ力を持った少数の人間が徹底して主導権を握り現場を取り仕切りでもしない限り、この水準に到達させるのも難しいと思う。


関連作品:
黒蜥蜴(1968)』/『仁義なき戦い
釣りキチ三平』/『将軍家光の乱心 激突』/『八甲田山<4Kデジタルリマスター版>』/『駅 STATION』/『アイガー・サンクション』/『地獄のバスターズ』/『ロミオとジュリエット(1968)』/『マザー・テレサ』/『グリーン・ホーネット』/『007/ゴールドフィンガー』/『サイレントヒル』/『大いなる西部』/『かずら』/『復讐するは我にあり
28週後…』/『ブラインドネス』/『感染列島』/『クレイジーズ』/『コンテイジョン

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